近くにいるのに遠い
朝の校舎は、普段よりも人であふれていた。
文化祭の本番を迎え、各クラスの生徒や来校者の声が廊下に響く。
つかさは少し緊張した面持ちで教室に入る。
昨日までの準備の成果が目の前に広がっている。
色とりどりの飾り、整ったポスター、並べられた椅子や机。
全てがクラスの雰囲気を鮮やかにしていた。
「おはよう、つかさ」
背後から声がして振り返ると、れんが立っていた。
「おはよう。今日、頑張ろうね」
「うん」
小さく頷く二人の間には、昨日よりも自然な距離感があった。
⸻
クラスの出し物は、手作りのお化け屋敷風カフェ。
来校者に軽食とドリンクを提供しながら、少しだけ演出も楽しめる企画だ。
つかさはカウンター側、れんは接客や注文取りを担当することになっていた。
「準備、できた?」
「ほぼ。れんは?」
「大丈夫、後は俺たち次第だ」
互いに安心できる視線を送り合い、二人は自然に息を合わせる。
開場のベルが鳴り、来場者が一斉に教室へ入る。
つかさは笑顔を作りながらオーダーを受け、ドリンクを手渡す。
れんは手際よく、同じくドリンクや軽食を提供しながら、時折つかさと視線を交わす。
「……れん、今、手元大丈夫?」
「うん、心配するな」
短くても、こうして互いを気遣うやり取りが、二人の間の空気を柔らかくする。
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途中、混雑の波が押し寄せ、二人の手が偶然触れる。
お互いに少し息を飲むが、笑顔でやり過ごす。
緊張と高揚が入り混じった瞬間は、なんとも言えないドキドキ感を生む。
「つかさ、ちょっと手伝ってくれ」
れんが差し出したトレーを受け取り、つかさは自然に協力する。
「ありがとう、助かった」
「お互い様だろ」
何気ないやり取りでも、二人の間には信頼と安心感が育っていた。
来場者の楽しそうな声や笑顔が、二人の頬にも自然に笑みを生む。
⸻
午後になると、クラスメイトたちも交代で休憩を取る。
まこや木嶋がやってきて、二人に声をかける。
「お疲れ!二人とも手際いいな」
「ありがとう、でもまだ大丈夫だよ」
つかさは軽く息を整えながら笑顔を返す。
れんも少し微笑み、つかさの方を見て小声でつぶやいた。
「……一緒にやると、なんか安心するな」
つかさは心臓が跳ね、顔が少し熱くなる。
「私も……同じ気持ち」
二人の間に、言葉にせずとも互いの気持ちが届く瞬間があった。
互いの存在が支えとなり、緊張も疲れも忘れさせる。
⸻
文化祭終了間際。
教室にはまだわずかに来場者が残り、片付けが始まっていた。
「終わったね」
「うん……でも、楽しかった」
つかさはそう言いながら、れんの方を見た。
「ありがとう、れん。手伝ってくれて」
「俺もありがとう。つかさが隣にいてくれたから、頑張れた」
小さな言葉の交換に、二人の胸には温かいものが広がる。
手を握るわけではない。肩を寄せるわけでもない。
だけど、互いを支え合った時間は確かに存在し、二人の絆を深めていた。
夕陽が校舎をオレンジ色に染める中、つかさは小さくつぶやく。
「明日からも、頑張れる気がする」
れんも微笑んで頷いた。
「俺もだ」
文化祭を通して育まれた二人の距離は、少しずつ、確かなものになっていった。




