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あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
すれ違いの輪郭

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20/23

見ていない背中

文化祭まであと数日。

教室は飾りつけの準備でごった返していた。色とりどりの紙やポスターが机の上を覆い、作業用のハサミやのりがあちこちに散らかっている。


つかさは手元の作業を進めながら、隣のれんの動きを気にしていた。

昨日の放課後に交わした会話の余韻が、まだ胸の奥に残っている。


「れん、次の飾りは俺が貼るよ」


「うん、任せる」


手を伸ばしたれんの横顔に、つかさはつい見惚れる。

まぶしい夕陽に照らされるその表情は、少し照れくさそうで、それでいて真剣だった。


「桐谷、ちょっと待って」


振り返ると、まこが小走りで近づいてきた。

「何?」

「飾りの紙、こっちの色の方が映えると思うんだけど」

まこの提案に、つかさは頷く。

「なるほど……ありがとう」


こうしてちょっとしたやりとりを交わす中で、つかさは気づく。

れんが隣にいるだけで、作業が少し楽しくなることに。



その日の昼休み。教室はいつも通りの賑やかさだが、つかさとれんは少し距離を取って座っていた。

「……やっぱり、昨日のこと、気にしてた?」

つかさが小声で尋ねる。


れんは肩をすくめ、照れくさそうに笑う。

「ちょっとだけ。でも、もう平気だ」

「そっか」


互いの視線が合った瞬間、教室のざわめきも遠くに感じられた。

つかさは笑顔を返しながら、心の中で小さくつぶやく。

(やっと、落ち着けたかも)



放課後の掃除時間。

教室の隅で、二人は机を並べて雑巾がけをしていた。

「桐谷、手つき、前よりうまくなったな」

「えっ?」

「昨日、少しだけ手伝ったじゃん。なんか、見てたから」


つかさは照れて目をそらす。

「……そ、そう?」

「うん」


雑巾を押しながら二人の距離が自然に縮まる。

手が触れるたび、どちらも少し心臓が跳ねた。

恥ずかしさと、でも安心感が同時に押し寄せる。


「れん……明日、ポスターの最終チェック、一緒にやらない?」

つかさの提案に、れんは少し考えてから頷く。

「いいよ」


小さな約束。

でも二人にとって、それは確かな歩みだった。



校門を出ると、夕陽が長く影を伸ばしている。

「明日も頑張ろう」

れんがつぶやき、つかさは笑顔で応える。


心配や不安はまだ残っている。

だけど、昨日より少し近くに感じる温かさがある。


手をつなぐわけでも、肩を寄せるわけでもない。

でも、互いに存在を感じ合いながら歩くその距離は、確かに二人だけのものだった。

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