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あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
近づくほど、怖くなる

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18/23

言葉にしない優しさ

翌日の放課後、教室の空気はいつもと同じように見えた。だが、つかさの胸は昨日とは違って張りつめていた。スマホを握りしめたまま、送信したメッセージのことを考える。

(返信、くるかな……)


机の上のプリントに目を落とすも、文字が頭に入らない。視線はいつの間にか廊下の方向へ向かう。放課後の生徒たちが帰宅する音、扉の開閉の音、廊下で笑う声が、全て自分を追い詰めるように響いた。


「……はぁ」


小さくため息をついたとき、背後から声がした。


「まだ残ってるの?」


振り返ると、まこが立っていた。文化祭準備の片付けを手伝っていたらしい。

「うん……少し、やることが残ってて」

「そう。スマホ見すぎじゃない?」

「……返信、まだだし」


まこは小さく笑った。

「そうか……でも、あんた昨日決めたんだろ?話すって」

つかさは小さく頷く。

「怖いけど、逃げない」

「……えらいじゃん」


廊下の窓から夕陽が差し込み、教室の中にオレンジ色の光が満ちる。その光は、いつもより長く、つかさの心に残った。



時間はゆっくり流れ、つかさは放課後の空気に押されながらも、廊下の向こうに見えるれんの姿に目を奪われる。

バスケットボール部の練習を終え、彼は一人で荷物をまとめていた。

その無防備な後ろ姿は、どこか寂しげで、つかさは胸が締めつけられる。


「……やっぱり、逃げない」


スマホを握りしめ、つかさは足を踏み出す。

廊下のタイルが小さく鳴る音さえ、自分の心臓の音と重なるようだった。


「れん……」


声は小さく震えていた。

れんは気づかず荷物をまとめている。

その姿を見て、つかさはもう一度深呼吸した。


「昨日……ごめん。変なこと言って」


つかさの言葉に、れんはわずかに肩を止め、振り返る。

一瞬、目が合う。

その目に映るのは、驚きと警戒、そして少しの疑念。


「……ああ」


短く、でも確かに聞こえる返事。

つかさは胸が痛くなる。言葉にして伝えたのに、まだ彼の心は動かない。


「私……本当は、あなたのことを……」


言いかけて止まる。勇気を出しても、まだ完全に言葉にならない。

れんはじっとつかさを見つめているが、眉間には深いしわが寄る。

(あ……言いすぎたら……)


「ちゃんと伝えたいけど……怖い……」


心臓がバクバクと音を立てる。

つかさの手は、まだスマホを握りしめたまま震えていた。


その時、背後から声がした。


「二人きり?」


つかさとれんの距離を見ていた木嶋が、廊下の端からひょっこり顔を出す。

「……別に」

つかさは焦って答えたが、れんは微妙に苦笑している。


「ほら、邪魔すんなよ」

れんは木嶋を軽く押して、二人だけの空間を作った。

つかさは思わずホッと息をつく。


「昨日のこと……気にしてる?」


れんの言葉に、つかさは一瞬戸惑う。

「……少し」

「そっか。俺も……気にしてた」

小さな声で言うれんの横顔に、つかさは目を奪われる。

やっと、少しだけ伝わった気がした。


「だから……今日は、ちゃんと話そう」


つかさは頷く。

二人の距離はまだ遠いけれど、一歩踏み出したことは確かだった。

夕陽の光が二人の影を長く伸ばす廊下で、つかさは初めて、自分が怖がってばかりじゃないことを実感する。


「……私、ちゃんと話す」


つかさの声は、昨日より少しだけ強く、未来への決意が混じっていた。

れんもその声を聞き、目を少し柔らかくした。


廊下の空気が、静かに変わった。

二人の間に、まだ言葉にならない想いが流れるけれど、

それでも進む意志だけは確かに残った。


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