表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
近づくほど、怖くなる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/23

昨日より近い距離

放課後の校門をくぐる頃には、空はすっかり夜の気配をまとい始めていた。つかさは鞄を抱えながら深呼吸する。胸の奥に沈んでいる重さは、昨日からずっと続いているものだ。


昨日のれんとの会話。

近づいたと思った瞬間、また遠ざかった感覚。


「……ちゃんと話さないと」


つかさは小さく呟いた。

自分でも驚くほど、その言葉には決意が混じっていた。


「白石」


背後から名前を呼ばれて振り返ると、そこには同じクラスの静かな男子・辻村が立っていた。目元を前髪に隠しているが、成績も良くて物静かなタイプ。モブというよりは、必要な時にだけ話しかけてくる存在だ。


「昨日……大丈夫だった?」


「え?」


「見てたから。朝、ちょっと雰囲気、変だったからさ」


つかさは一瞬だけ胸がざわついた。見られていたのか、と思うと恥ずかしい。でも、彼の顔に悪意はなかった。


「平気。ありがと」


「白石って、意外と気にするタイプなんだね」


辻村の言葉は、まっすぐだった。

つかさはその素直さに、少しだけ肩の力が抜けた。


「……そうかも」


「れんとは話した?」


名前が出た瞬間、心臓が強く鳴った。

辻村はつかさの変化を見逃さず、ほんのわずか眉を上げる。


「やっぱり、白石って素直じゃない」


「な、なにそれ」


「いや、悪口じゃないよ。ただ……見てれば分かる」


そう言って辻村は歩き出す。

つかさは慌てて横に並んだ。


「分かるって、何が」


「気にしてるってこと。れんのこと」


つかさは思わず立ち止まる。

心臓が跳ね、そのまま言葉を失った。


辻村は立ち止まらず、歩きながら言う。


「気持ちって、隠したつもりでも隠せないよ。……特に、好きな人のことは」


つかさは耳が熱くなるのを感じた。


「べ、別に……そういうんじゃ……」


「そういうとこが素直じゃないって言ってる」


静かに笑う辻村の横顔には、からかいよりも優しさが滲んでいた。


「れんもさ。白石が何考えてるか分からなくなるって言ってたよ」


つかさの足が止まる。

辻村はようやく立ち止まり、つかさの方へ向き直った。


「俺、バスケ部のマネージャーだからさ。先輩のこと、見てれば分かるよ。白石のことになると、ほんと分かりやすい」


「……れん、そんな顔してた?」


「うん。困って、悩んで……でも、離れたくなさそうだった」


つかさの胸に、小さな痛みと温かさが混ざり合う。


「白石。俺はさ、別にどうこうする気はない。けど……言えることはひとつだけ」


ほんの少し間を置いて、辻村は微笑む。


「自分の気持ち、誤魔化すのやめたら?」


その言葉は、真っ直ぐつかさに届いた。

逃げ場所を優しく塞がれるように。


「……うん」


その返事は、今までのどの言葉よりも素直だった。

辻村は満足げに頷き、軽く手を振って校門へ向かう。


「じゃ、頑張れ。白石」


放課後の風に吹かれながら、つかさは深く息を吸った。


「ちゃんと……話したい」


その思いは、昨日よりも確かで、強かった。



家に帰ったつかさは、スマホを握りしめて何度も画面を点けては消す。


れんの名前。

メッセージの入力欄。

送れない言葉。


でも、もう逃げないと決めた。


鼓動が速くなる。

手が震える。


それでも――打ち込んだ。


『明日、少し話せる?放課後、時間あったら』


送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねて痛いほどだった。

部屋の静けさがやけに広く感じる。


すぐには返信はこなかった。

けれど、それでもよかった。


「ちゃんと進まなきゃ」


つかさは布団に倒れ込み、ぎゅっと枕を抱いた。


明日が怖い。

でも、明日が楽しみでもある。


気づけば、胸の奥の重さは昨日より少しだけ軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ