あなたの為じゃない
翌日。
れんはつかさに話しかけようとしてはやめ、また近づいてはやめ……を繰り返していた。
「なにしてんの、れん」
男子にからかわれ、れんはむすっとした顔で言い返す。
「別に。タイミング計ってるだけ」
「何のだよ」
「……桐谷」
「え?」
「……いや、知らね」
煮え切らない態度に周囲は笑うが、れんは本気で悩んでいた。
放課後、れんはつかさを呼び止める。
「桐谷、ちょっといい?」
廊下の端。人の少ない場所。
つかさは一歩引いた。
「なに? 私、帰る準備あるんだけど」
「最近さ……ビジュ、前より頑張ってない?」
「は?」
「いや、たいちの前だけ特にっていうか……」
つかさの心臓が強く跳ねる。
最も言われたくないことを突かれた。
「れん、誤解してる」
「誤解?」
「私は……あなたのためにビジュ良くしてるんじゃない」
れんの目が少し揺れる。
「じゃあ、誰のためだよ」
「誰のためでもない」
即答した声には震えが含まれていた。
本心を隠すための震え。
「……ほんとに?」
「ほんと」
「俺じゃなくて?」
「違う」
れんは一瞬だけ、痛むような表情をした。
その変化に気づいたつかさは、胸が締めつけられる。
でも後戻りできない。
れんに知られたら困る。
「あなたにどう思われても関係ない」
「……そっか」
れんは静かに後ずさりした。
「ごめん。変なこと言った」
そう言って立ち去る背中が、やけに寂しそうで、つかさは何も言えなかった。
まこにその話をすると、即座に怒られた。
「つかさ、あんた本音と真逆言ったでしょ!」
「……だって!」
「だってじゃない! れん、めちゃくちゃ傷ついてたじゃん!」
「……どうしたらいいのか、分かんないの」
まこはため息をつき、つかさの頭をぽんと叩く。
「分かんないなら、逃げずに向き合いなよ」




