れんがくれた色
三年生の終わり。
三者面談があった日の放課後、教室前の廊下でひとり座っていたつかさの前を、れんが通った。
「桐谷、今日なんか雰囲気やわらかいな」
「え?」
「いや、最近よく笑うようになったし」
れんは本当に“気づいたことをそのまま言っただけ”という顔をしている。
つかさは胸がいっぱいになり、言葉が出ない。
「れんには、ずっと……私が見えてたの?」
震える声でようやく出た言葉。
れんは首をかしげる。
「当たり前じゃん。桐谷ってさ、静かだけどさ、周り見てるし、頑張ってるし」
「……そんな、普通のこと……」
「普通じゃないよ。俺は前から“目立ってる”って思ってた」
「……っ」
その瞬間、つかさの世界に色がついた。
透明だと思っていた自分が、誰かにとっては確かに“そこにいる存在”だった。
その喜びは胸の奥から溢れるほど大きくて、
同時に、ひどく怖かった。
(れんが見なくなったら、私はまた透明に戻るんだ)
その不安がビジュ磨きへと向かわせた理由だった。
――現在。
文化祭準備を終え、帰り道。
まこが隣を歩きながらつかさの横顔を見た。
「ねえ、つかさ。泣きそうじゃん」
「泣かない……」
「嘘。れんのことでしょ?」
図星を刺され、足が止まる。
まこは振り返り、つかさの腕をそっと引いた。
「つかさは、れんに“見てもらえなくなる”のが怖いんだよね」
「……そうだよ」
つかさは泣きながら言った。
「ビジュをやめたら……また透明になっちゃうかもしれない」
まこは優しく抱きしめる。
「大丈夫。つかさを見てる人は、れんだけじゃないよ」
「……たいち、のこと?」
「そう。つかさの内面をちゃんと見てくれてる奴、現れてるじゃん」
つかさは涙を拭いながら、小さく息を吸った。
自分はまだ、誰かの視線なしでは立てないのだろうか。
それとも、少しずつ前に進めるのだろうか。




