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あなたの為に、ビジュを良くしてる訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
私なんか、の正体

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12/13

ビジュ磨きは鎧だった

つかさがメイクを練習し始めたのは、中学二年の冬だった。

 YouTubeでメイク動画を探し、百均でコスメを買って、夜中に何度もアイラインを引いては失敗し、クレンジングで落として、また引き直した。

 明日クマができるのなんかどうでもいい。

(綺麗なら、ちゃんと見てもらえるかもしれない)

 その思いだけで動いていた。


 見た目がわかりやすく変わり始めたのは三年生に入ってから。

「あれ、桐谷ってこんな顔だった?」

「なんか垢抜けたよな」

 噂が少しずつ広がる。

 声をかけられることも増えた。

 でもそれは「外見が良くなった」からであって、

 中身を見てくれたわけではない。

(ビジュがなかったら、また透明だよね)

 恐怖が消えない。


 れんは気づいているのかいないのか、自然に話しかけてくる。

「桐谷、そのピン似合ってるな」

「前と雰囲気違うけど、いい感じじゃん」

 その無邪気な言葉に、毎回胸が大きく揺れる。

 褒められたことが嬉しいんじゃない。

(見てくれてる……? 私を?)

 そう錯覚してしまうのが怖かった。


 そんなとき、クラスの女子がつぶやいた。

「桐谷って、れんの前だと気合い入ってるよね」

 心臓が跳ねて、血が引く。

 そんなつもりはない。

 ただ、れんはつかさを透明じゃないと知っている“唯一の人”だから。

 その視線が離れるのが怖いだけ。

 でも説明しても、きっと理解されない。

(――バレたくない。こんな必死な理由)

 つかさはその日、家で布団を被って泣いた。


 ビジュを磨くほど評価は増えるのに、

 未来の自分が消えてしまう恐怖だけが大きくなる。

 これは努力じゃなく、鎧だ。

 外さなければ安心できない、呪いのような鎧。


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