ビジュ磨きは鎧だった
つかさがメイクを練習し始めたのは、中学二年の冬だった。
YouTubeでメイク動画を探し、百均でコスメを買って、夜中に何度もアイラインを引いては失敗し、クレンジングで落として、また引き直した。
明日クマができるのなんかどうでもいい。
(綺麗なら、ちゃんと見てもらえるかもしれない)
その思いだけで動いていた。
見た目がわかりやすく変わり始めたのは三年生に入ってから。
「あれ、桐谷ってこんな顔だった?」
「なんか垢抜けたよな」
噂が少しずつ広がる。
声をかけられることも増えた。
でもそれは「外見が良くなった」からであって、
中身を見てくれたわけではない。
(ビジュがなかったら、また透明だよね)
恐怖が消えない。
れんは気づいているのかいないのか、自然に話しかけてくる。
「桐谷、そのピン似合ってるな」
「前と雰囲気違うけど、いい感じじゃん」
その無邪気な言葉に、毎回胸が大きく揺れる。
褒められたことが嬉しいんじゃない。
(見てくれてる……? 私を?)
そう錯覚してしまうのが怖かった。
そんなとき、クラスの女子がつぶやいた。
「桐谷って、れんの前だと気合い入ってるよね」
心臓が跳ねて、血が引く。
そんなつもりはない。
ただ、れんはつかさを透明じゃないと知っている“唯一の人”だから。
その視線が離れるのが怖いだけ。
でも説明しても、きっと理解されない。
(――バレたくない。こんな必死な理由)
つかさはその日、家で布団を被って泣いた。
ビジュを磨くほど評価は増えるのに、
未来の自分が消えてしまう恐怖だけが大きくなる。
これは努力じゃなく、鎧だ。
外さなければ安心できない、呪いのような鎧。




