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散漫な世界だけど、深くこだわらない  作者: 不透明 白
 3 天才と凡人と嫉妬

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12/12

 【弐】


「それじゃあ私の家に行こうか」


 先輩はレジでお会計を済ませて(ありがたいことに奢ってくれた)から店を出て、出入り口付近で待っていた僕に向かってそう言った。

「先輩、ありがとうございます。今度お礼します」

「礼はいいよ。なんせ私には使いきれないだけのお金があるからね。しかもこれから溜まっていく一方。だから、せめて可愛い後輩にお金を使うぐらいはさせておくれよ」

「そうですか? ではお言葉に甘えて」

「……そう素直に引き下がられると使いたくなくなるなぁ」

「えー」

「ふっ、嘘だよ」

 笑いながら一足先に歩きだした先輩。

 だけど、その歩行速度はゆっくりで、僕はすぐに追いつき、先輩の隣に並んだ。

「先輩」

「ん?」

「用務員の男は今回の件で、逮捕されるのは確定でしょうけど、でも主犯格の女子生徒はなんのお咎めも無くないですか? それって何も解決してないんじゃ……」

「僕が任されたのは「君の安否」だからね。それ以上は知らないよ」

「……大丈夫なんでしょうか」

「なーに心配ないさ。あの子だって、恐怖に怯えて何もできなくなるタイプじゃない。現に私に相談できるぐらいだからね」

「それはそうですが……」

「それにもう手は打ってある」

「手は打ってある?」

「相手は塚本君の「才能」に嫉妬しているんだろう? でも「嫉妬する」ってことはまだ〝手が届く〟と思っているんだよ。……残念なことにね」

「……たしかにそれはそうですね」

「〝本物の才能〟とはどういう物なのかをそいつに叩き込んでやればいいんだ」

 そう言って含み笑いを浮かべた先輩はどこか楽しそうだった。

 「叩き込んでやればいい」と言うのだから、大事なのはその手段だ。

 僕が沈黙と表情によってその詳細を伺うと、先輩は僕の前に一歩出て、僕と向き合い、

「……今度、私と塚本君とでコラボするんだ」

 とワクワクを携えた瞳をして言った。

「コラボですか?」

「そうコラボ」

「なんだか動画配信者みたいな言い方ですね」

「動画でコラボするんだよ」

「へ?」

 僕が間抜けに驚いている間に、先輩は再び歩きだした。僕も置いていかれないよう付いていく。

「私の書いた台本を元にして、塚本君が一幕語る動画だよ」

「それはなんというか……」

 やっぱり嫉妬する。

「……私は君が嫉妬している顔を見るのが好きなんだって、さっき気付いたよ」

「意地悪ですね」

「さっき言ったでしょ? 最低な人間だって」

「あ、そうでした」

「え、納得するの? さっきみたいに否定してよ!」

 僕は何も言わずに不敵な笑みを浮かべた。

「ちょっと!」

「ただの意趣返しですよ、意趣返し。ほら、話を戻しましょ。塚本との動画の話に」

「あぁ、そうだったね……。今回私達が画策した作戦が〝私のネームバリューを利用して、塚本君の才能を世間に見せつけよう!〟というものなのだが……まぁ、塚本君の場合、私が携わらずとも、いずれは世間の目に見つかっていただろうけど――でも、今回は急を要するから仕方ない。こっちも仏じゃないんだ。とことんやらせてもらうつもりだよ。勿論、「今のうちに塚本君に唾を付けておこう」という私の意図も無くは無いけど……」

「先輩……汚いですね」

「言っておくけど、物理的に付けてはないから!」

「分かってますし、物理的じゃなくても汚いですよ」

「あ、それもそうか」

 冗談にも乗ってくれる良い先輩だ。

「……まぁ、やっと納得というか、大丈夫なんだなって分かって安心しました。先輩も何かあったら僕に言ってくださいよ?」

「うん、そうするよ」

 先輩は平然と嘘をついた。

 まぁ、予想していたことだから、特段追及はしないけど。

「後輩君、着いたよ」

 そう言って辿り着いたのは、空高くそびえ立つ高級そうなマンションだった。

 先輩が入り口でカードキーをかざすと、横開きの透明な扉が自動で開いた。

 僕と先輩はその扉を通り、ロビーへと這入る。

 ロビーには高級そうなソファーとテーブル、花瓶に入ったお花や謎の彫刻品があり、その敷居の高さが窺い知れた。

 僕が思わず目を奪われて立ち止まっていると、先輩が一足先にエレベーターの「上」ボタンを押しており、もう中に入っていた。

「後輩君、行くよー」

「あ、はい」

 呼ばれて僕もエレベーターの中に入った。

 先輩は「三階」のボタンと「閉じる」のボタンを押した。

 扉が閉じ、少し揺れながらゆっくりと上まで昇っていく。

「マンションってさぁ、下層の方が便利で良いと思わない? なんで上の方に行けば行くほど高くなるんだろうね」

「さぁ……」

 ――チンッ。

 小気味よいベルの音が到着を知らせた。

 エレベーターから出ると、

「私のお部屋はこっちだよー」

 と言葉を弾ませて僕の前を歩く先輩。

 廊下はホテルのように絨毯張りだったので、足音さえも吸収され、とても静かだった。


「はい、ここが私のお部屋だよー」

 先輩が指したのは『306』と書かれた扉だった。

「じゃあ、入って入って!」

「失礼します」

 靴を脱いで揃え、廊下を歩いて突き当りの、リビングに通じていると思しき扉を開けるとそこには――。


 整理整頓された、広すぎる部屋があった。 


 まるでモデルルームみたい、という誉め言葉があるが、ここはそれよりも物が少なく、なんというか人の温かさみたいなものが無かった。

「うわー、先輩って小説もそうですがお部屋まで几帳面なんですね」

「え、それ褒められてる? それとも揶揄?」

「褒めてますよ、もちろん」

「本当かなー……あ、荷物そのソファーの横とか適当に置いといて」

「分かりました」

 先輩はキッチンに赴き、冷蔵庫からお茶を取り出して、コップと共にテーブルへ置いた。

「ソファー座りますよ」

「いいよ」

 ソファに座った後、僕は沈黙を嫌ってテレビを付けた。

 画面には店内で食事をしている芸能人が映った。バラエティー番組か何かだろうか。

 ……むむっ、尿意の気配。

「先輩、トイレお借りしても?」

「どうぞー。扉を出て、廊下を曲がった突き当りがトイレだよ」

 先輩の言う通りに移動して、無事トイレへとたどり着き、僕は用を足した。

 ピッ――じゃああぁぁ。

「ふぅ……あれ」

 まずい……リビングの扉、どこだっけ。

 一回曲がって……ここが突き当たりだから……。

 ええい! 大体分かるだろ! 奥に行けばいいんだよ奥に!

 僕は迷ったことがバレないよう、平然とした顔をしながら適当に扉を開けた。

「――は!? ごふうぅうわあぁ!」


 がらがらがっしゃん!


「ちょ、後輩君何やって――」

 大量の物に押しつぶされて身動きが取れない。力を入れようとしても、どこかが支点になって力が入らない。

 これが雪崩に巻き込まれた人間の心境なのかと、新たに知見を厚くしたのであった。


 ――〈完〉


「こ、後輩君、どこだい! 変なモノローグを流したあげく、勝手に物語終わらせて無いよね? 止めてよ! ……そんでどこ!」

「あ、先輩、ここです」

「おーけー! 今助けるから待ってて!」

 救助作業は特に難航せず、速やかに完了した。

 ただ、この惨状を目の前にして、僕はひたすらに言葉を失っていた。

 扉から吐き出されるようにぶちまけられた、物々しい数の数々の物を前にして、ぺたりとお尻をつき、俯く先輩。

「私がカツラを取っている間に、こんなことが起きるなんて……」

 確かに先輩の言う通り、先輩の髪型が前にも見たミディアム程の長さに戻っていた。

 出会った時、大胆にヘアーカットしてるなぁ、と思いながらも理由を聞けなかったのは、それどころではなかったというのもあるけれど、失恋してその反動で……みたいな可能性もあったからなかなか僕の口からは言い出せなかった。

 良かった、失恋じゃなくて。

「それで先輩」

「はい……」

「これは一体どういうことなんですか?」

「えーっと、その、片付けしてる時間が無くてその……リビングにあった物を全部この部屋に押し込んだ――と申しております」

「あんたがな!」

「……はい」

 部屋が散らかってても、綺麗だとしても、どっちだとしても先輩らしいと思っていたけれど、散らかっていたのを慌てて綺麗に見せかけようとするのは予想外だった。

 だけど、「恋人が初めて家に来る」っていうのならまだしも、実際家に来たのはただの部活の後輩である僕だ。だから、良く見せようとする意味なんてないだろうに、と思わなくもなかった。

「はぁ……先輩、片付けましょう」

「え?」

「この量です。先輩一人だったら一日あっても足りない。ですが、今は僕もいます。手伝いますので一緒に頑張りましょう」

「後輩君……!」

 先輩は涙を浮かべて喜びの声を上げた。


 そして、元気よく立ち上がり、僕の背中に立って、僕の手を後ろに回し――手錠をかけた。


 ――カチャン。

「……え?」

「後輩君と部屋を片付ける。それは嬉しい話だし、絶対にやる。間違いない。だけどそれが行われるのは……〝今日じゃない〟」

「―あの、先輩? これはなんの冗談ですか?」

「冗談? 何を言っているんだ? ……よし、鍵をかけてっと」

「……いや、えぇ?」

 何も状況が呑み込めない……。先輩はこれから何をしようっていうんだ。まさか――監禁? 後輩可愛さに支配欲が爆発したのか? 自分で言ってて恥ずかしいのでそんな訳ないと信じたいが……。


「前に言っただろう? 君は今から私と旅行に行くのだよ」


 先輩は上機嫌でそう言った。

「いや、でも明日普通に学校ありますし」

「もう学校に連絡済みだ」

「……ほら、着替えとか色々と準備もありますし」

「――それなら全部準備してある」

 先輩が顎で指した先を見ると、確かに旅行用の鞄一式が集まっていた。

「……最近金欠で」

「全部私が払うから気にしないで」

「……マジですか」

「マジだよ……い、嫌だなんて言わせないぞ!」

「でも、僕にだって決定権というものがあってですね……」

「え、い、嫌なの、か?」

「いや、その、一旦家に帰らせてほしいっていうか」

「――なんで?」

 ググっと綺麗な顔を寄せてくる折紙先輩。

「その」

「?」


「……ムダ毛処理してないんで」


「――はっ、な、なに言ってんの急に! ちょ……なんで!」

 先輩は慌てた様子で顔を背けた。

 すごい勢いで。

「先輩にお見苦しいものを見せたくありませんからね」

「み、見る? わ、私が?」

「えぇ」

 壁の方を向いて固まっている先輩。

「あれ、大浴場とか無いホテルですか?」

「――ぐっ」

 変な鳴き声みたいな音が先輩の方から聞こえた。そして、恥ずかしさを堪えながら振り返って、

「そ、そんな毛とかどうだっていいだろ!」

 と、赤くなった顔を見せながらそう言った。

「本当に? 先輩はどうなんですか?」

「わ、私? 私はほら、毎日お風呂で剃ってるからいつでもツル――って何言わせようとして、るんだあぁぁ!」

 これ以上揶揄っては先輩が壊れてしまう。

 そう判断した僕は、素直な気持ちを――素直な言葉で言うことにした。

「安心してください先輩。こんな拘束をして、無理やり連れて行こうとしなくても、僕は先輩と旅行しますから」

「ほ、ほんと?」

「はい」

「じゃあ、嫌じゃないってこと?」

「嫌じゃないです」

「一緒にお買い物してくれる?」

「します」

「一緒にお風呂入ってくれる?」

「入ります」

「大浴場が無くても?」

「……それはどうでしょうか」

「えー」

「えーっと、うーん……分かりました。入りましょう」

「やったー!」

 先輩は子供みたいに無邪気に喜んだ。

「お布団も一緒に入ろう!」

「……それはちょっと」

「そうだよね、流石にキモい――」

「えっち過ぎませんかね」

「――っ」

 そんな会話を交わしながら、僕たちは旅程を確認し合い、旅行の準備をした。

 強制連行と言っても違わない突発的な旅行。

 でも僕はこういう、いきなり降り注ぐアクシデントみたいな行動を提案されるのが嫌いじゃなかった。

 どころか好きだった。

 だから、先輩とも気が合うんだと思う。

 大まかにしか決めずに、行き当たりばったりで先に進んでいく魅力。それは他には代えがたい。

 そして、これは気遣いでもあるんだと僕は思う。

 先輩から僕への、遠回しで不器用な労い。それとご褒美。

 塚本には悪いが休養させてもらう。

 そんな一つまみの罪悪感を抱えながら、僕と先輩は先輩宅を出て、新幹線が()つ大きな駅まで電車を乗り継いで向かった。


「おー! 七不思議! こんな時間に会うなんてなんか変な気分だな! はっはー」

 何故塚本が駅にいるんだ。

「あの……こんばんは! 部長先輩」

 ……三白夜さんまで? 何がどうして。

「いやぁ、塚本君の身元が危険かなと思って! あと、ペアだと色々お得だし、皆で行った方が楽しいでしょ?」

 折紙先輩はあっけらかんとした口調でそう言った。

 それならそうと、最初から言えばいいのに。

 ……まぁ、いいか。

 細かいことを考えても仕方がない。

 今は深く考えずに旅行を楽しもう。

 そして――参考資料をいっぱい撮ろう。

 折紙先輩も同じ部室のこの二人と仲良くなってもらおう。

 塚本と折紙先輩のコラボ動画の詳細もみんなで聞こう。

 三白夜さんともっと仲良くなろう。

 そうやって、この散漫な世界をポジティブに楽しもうじゃないか。

 それがパッチワークだったって、空元気だったっていい。

 いつかそれは本物へと生まれ変わるから。

 それすらも創作活動なんだって――イカした顔で笑って胸を張ればいい。

 創作活動とはそういう物なのだと、自信を持って誇ればいい。

 自分自身を認めるのが、創作の第一歩なのだから。

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