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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第97話 まんじゅう怖い


 俺たちは魔王城の凍り付いた庭を駆け抜け、中に入った。石造りの城は体の心から凍えるような冷たさだ。北部もほぼ1年中冬とは言え、今は夏なので少しはましなはずなのに。全員チェリー特製の寒さを軽減する魔法陣を刺した服を身に着けているがそれでも相当寒かった。


「斥候を出して様子を見るよりも、待っている間ジッとしている方が凍えそうね。全員で奥に向かって歩いて行きましょう」


 リーダーのアイリスの言葉に従い、みんな歩き出した。本来なら勇者なのだからカイルが率いるのが筋なんだろうが、彼はスルトとの戦いですっかり自信喪失に陥ったのだ。だから一番弱いトロルですら戦えなくなっていた。ぶつくさ言っている様子から、彼は主人公だけどメインプレイヤーはプラムだったようで、彼女がいないことが不安で仕方がないそうなのだ。

 それで俺、アイリス、チェリーで相談した結果、カイルを無理に戦わせることはせず魔王の止めだけは刺してもらうことになった。彼が聞いていたかどうかは知らない。


 それと思ってもいない敵がよく現れた。スケルトン、ゴースト、ウィスプといったアンデッドたちだ。よくよく考えれば元侯爵家の城でその居城にいた人間は全員死んでいるのだから出たっておかしくなかった。ただアルたちと来たときには1体も出てこなかったのだ。どうしてだろうと首をかしげていると、モカが心話で教えてくれた。


(あのね、エリーは神だからさ、弱いアンデッドだとエリーの側に寄れないの。ホントのエリーはめっちゃ強いんだから。こんな城、目線1つで浄化できるのよ。でもここにいることは明かせないから力押さえてるだけだもん)


 なるほど、それでアンデッドを寄せ付けなかったのか。普段は小さいけど子煩悩で働き者の女の子にしか見えないが、やっぱり女神様なんだな。俺は自分の手に刻印された肉球スタンプをそっと撫でた。



 アンデッドの多いこの城は特に俺とチェリーを消耗させた。アイリスの剣は彼女の聖剣であり、浄化能力がある。だから彼女が斬るだけで消滅する。でも俺はただの魔法剣士なので弱らせることも倒すことも出来ない。スケルトンならまだ実体があるからいい。だがゴーストやウィスプだと物理も魔法も通らずお手上げだ。なんとか意識をこちらに向けさせて、その隙にチェリーの浄化の魔法陣を発動してもらう。そんな状況にイライラが募った。

 ちなみにモカやエリカ(そしてステルス状態のミランダ)も攻撃が通りにくいのだけど、そこは大聖女スライムのモリーがふたりの振りをして攻撃している。とても良く効いて大量に襲ってきてもすぐに消えていた。


「やっぱり精霊様はすごいわ。あんな小さなクマちゃんでもこんなに簡単に消せるのね」


「……そうだな。俺、ここじゃあんまり役に立ってないな……頼りきりでゴメン」


「そんなことない。精霊様を呼べたのはリアンのおかげだし、トロルとか倒してくれるし。最初のスルトはリアンが魔法陣を貼らなかったら厳しかったでしょ。カイルの面倒見る人もいるし」


 しまった、気を遣わせてちまったな。励まして欲しかったわけじゃないんだ。でもカイルのことを考えると俺は少し声を落としてチェリーに返事をした。


「なんとか動いてくれないかな……。勇者の聖剣だったらあの程度のアンデッドなら当てるだけで消えると思うのに……」


「ホントそうよね。まさかそんなにプラムに頼っていたなんて知らなかったけど。彼女がいないのは本当に痛手ね。居ればこんなの、浄化の力で吹き飛ばしてくれるでしょうし」


「そうだな……シッ! 何か来る」



 ドスドスと重い足音が響いたと思ったら、それが消えて軽い音に変わった。だんだん足音の主が見えてくる。それはつい今しがたの俺たちの話題の主、プラムだった。


 でもおかしくないか? 彼女はアルたちによって囚われているはずだ。なのになぜここにいる?


「プラム! よかった、無事だったのか?」


 その言葉に彼女はにっこりとほほ笑んだ。その顔にホッとしたのかカイルが彼女に駆け寄ろうとするがアイリスが彼の腕をつかんだ。


「カイル、行ってはダメよ」


「うるさい! 嫉妬は見苦しいぞ、俺に指図するな‼」


「……下を、影を見なさい」


 その言葉に全員下を見ると、中背のプラムの影がとんでもなく大きい。


「わかった? あれはプラムじゃない」


 その言葉と同時にプラムの姿が消え、棍棒を持った巨人に変わり、アイリスとカイルに向かって棍棒を振り下ろした。


「チッ、剣じゃない!」


 珍しくアイリスが舌打ちをする。彼女は剣聖なので剣を持つ相手に最高の力を発揮する。だが棍棒では打ち合うことは出来ない。どんなに鍛錬を積んでも、身体強化を掛けても剣聖のスキルほど腕力が上がらないのだ。


「コイツ、なんだよ!」


 カイルの叫び声に、エリカが冷たく返す。


「オーグル、変身能力がある」


 コイツの名前はオーグルって言うのか。全然知らない。

 そうして次に変身したのは、太って醜いアルの姿だった。よだれを垂らした下品な笑いかたでみんなの神経を逆なでする。カイルがその嫌悪感からか吐き捨てるように言った。


「クソ! 最高に嫌な奴に変わったぜ」


「好ましいもの、あるいは嫌悪するものに変わる」


 エリカの言葉通りなら、これは俺のイメージじゃない。アルは太っていてもなんていうか、すごくエレガントなんだよ。チェリーも首をかしげているので、彼女のイメージでもないのだろう。それに彼女はアルのヴァイオリンのファンだし。


 アイリスが青ざめている。そう言えば少し幼い感じもするな。つまりこれはアイリスが過去にむりやりキスされた当時のイヤなアルフォンス=レッドグレイブのイメージなんだ。

 怒りに任せてアイリスがそのまま切りかかろうとしたが、エリカが今度は彼女を引き留めた。


「ヤツは相手の感情に合わせて力をつける。怒りがあればそれ以上の力を返す」


 つまり感情の強いものをイメージしたら強くなりすぎるのか。アイリスのアルフォンス君に対する不快感はひどく強い。エリーちゃんが3年間とりなそうと頑張っても少しも揺るがなかった。そのまま攻撃すれば、それが跳ね返ってくるのか。

 ヤバいな。もし俺の持つアルのイメージも加味されたら、とんでもなく強くなるじゃねーか。



 どうしようなにかないだろうか? 

 俺は考えて考えて(と言ってもさほど時間はかからなかったが)、父さんがよく車でかけている落語を思い出した。『まんじゅう怖い』である。


 俺はとにかく集中した。

 俺の怖いものはまんじゅうだ。中のあんこが甘すぎて怖い。虫歯になったらダメージが強い。フワフワ柔らかい薄皮も口の中にへばりついて嫌だ。のどに詰まったら息も出来ない。


 それを繰り返し考えると俺の考えが心話になったのか、モカもミランダもモリーも俺に同調し始めた。

 そこにいる4つの心がみんなでまんじゅう怖いと唱和し始めたのだ。


 するとオーグルは自分をまんじゅうに変えた。その瞬間、エリカが飛び掛かりそのまんじゅうを彼女の渾身の力で踏みしめた。エリカにとっては怖くもなんともないので、それ以上の力で返すことは出来ない。


 グシャ!


 オーグルまんじゅうは無残につぶれ、薄皮は破け中の餡が飛び出した。しばらくしてまんじゅうの姿は消え、ぐしゃぐしゃにつぶれた形のオーグルに戻った。

 すかさずモリーがエリカの足とオーグルを浄化して、討伐は完了した。



「あっ、あっけないものね。リアン、アレは何かしら?」


 アイリスの質問ももっともだ。この世界にまんじゅうなんてない。もしかしたらカイルにバレたかもしれない。俺は考えて慎重に答えた。


「ああ、異国の菓子で柔らかいけど、喉が詰まって怖いって聞いたことがあったんだ」


「なるほど、これからオーグルが出たらこの作戦で行きましょう」


「ああ、これなら俺にもできそうだ」


 少しだけカイルがやる気を見せてくれた。

 そうして俺たちは魔王城の奥へ突き進むのであった。


お読みいただきありがとうございます。


オーグルはペローの童話『長靴を履いた猫』に出てくるとても狂暴な人食い巨人です。変身能力もそのままです。そして猫の機転でオーグルを豆に変え、食べてしまうというオチで倒されてしまいます。これはその倒し方を私なりにアレンジしました。さすがにオーグルを食べたくないですから踏みつけの刑です。

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