第95話 特定?
俺たちはプラム救出のため、魔王城へ向かうことになった。だが彼女は聖女としてこのパーティーの要の1人だ。どう考えても戦力が足りない。それで俺はみんなにある提案をした。
「アイリス様はお嫌かもしれませんが……ここはアルフォンス様のお力をお借りしませんか?」
「それはどういうことなの?」
「元々この魔王討伐が失敗、あるいは断念した時に迎えを寄こしてくださることになっていたんです。その魔道具の手紙を使って援助を請うのです」
アイリスはイヤそうに顔をしかめて黙ってしまった。彼女は婚約者であることを放棄するためにこの討伐に出た。それほど嫌うアルフォンス君に手助けしてもらうのはプライドや罪悪感を刺激するのだろう。
「……不本意ですがそうしましょう。プラムなしでこの討伐に成功は厳しいですもの」
「でも手助けって、プラムは聖女なのよ? 浄化の力を代わりに行使できる人ってそうそういないと思うんだけど……。私だってほとんど補助程度だし……」
チェリーが歯切れ悪く言う。彼女も不安なのだろう。これまではプラムが呪文を唱えるまでの時間稼ぎをするのが彼女の役目だった。彼女の魔法陣はそれほど高度なものではないのだ。モンスターやデーモンが瀕死の重傷であれば止めを刺したり、足止めしたり程度できる。でも土地を癒すといった強力な魔法には適していないのだ。
「俺は精霊様を派遣していただけないか聞くつもりだ。アルフォンス様は小さなエリー様と大人のエリカ様のおふたりを召喚されている。どちらかを、できればエリカ様を寄こしていただきたいと思っている」
今現在エリカは俺の影の中にいるんだけどね。でもモカたちと違ってステルススキルがない彼女は他のみんなに悟られないようにほとんど戦闘に加わっていないんだ。最初は戦ってもらうはずだったんだけど、アイリスの勘がさえわたって彼女が行動しようとすると気配を感じるのだ。恋に溺れた状態でも腐っても剣聖なのである。ちなみにモカたちのステルススキルは神の領域なので人間では察知できないそうだ。
このパーティーのリーダである彼女の許可を得たことで俺はすぐさま助力を求める手紙を出した。手紙に魔力を込めると紙飛行機型になって少し飛ぶと転移した。その鮮やかな魔法にチェリーが目を輝かせた。
「こんなすごい魔道具初めて見たわ。さすがレッドグレイブ男爵だわ。サリーが知ったら商品化の権利を欲しがるわよ」
アルやエリーちゃんが普通に使っていたので知らなかったが、この世界にこ手紙を瞬時に送るような技術はないのだ。それに魔道具の基本は魔法陣の上手な構築と運用である。魔法陣士である彼女なら憧れるか。
「さすがにこれの許可は出さないんじゃないか? 出してもこれまで付き合いのあるところだろ」
だってこれはエリーちゃんが作った魔道具だ。神の力は使っていないそうだが、この世界にない技術らしい。だいたい転移なんて体のない精霊しかできないのに物質が飛んで行くのだ。
「レッドグレイブ男爵はアイツには無関心だったはずなのに……変われば変わるものね」
さすがに婚約者だから事情に通じている。アイリスの言う通りだ。男爵やその息のかかった使用人は問題さえ起こさなければ無視してるし、アルも必要最低限にしか接触しない。でもいろいろ言うとボロが出るから、最近仕えたばかりだから知らないとだけ伝えた。
手紙を出して数時間後にメイド服姿のエリカがモカを抱えてやってきた。カイルは推しの登場に色めきだったが、エリカは気にも留めない。精霊にとって大切なのはお気に入りだけ。俺は初回の魂を持つエリーちゃんの子どもとして認識されているが、アイリスやカイルは彼女に冷たく暴言を吐くのでそれと同等の対応、つまりガン無視である。ちょっとやりづらいけど、彼女の表向きの主であるアルに対して無礼だからということにしておこう。
「エリカ様とその眷属様は俺とチェリーを守るために来てくださった。討伐にも手を貸してくださるそうだ。アルフォンス様に対する非礼のことでお怒りだから用があるときは俺を通してくれ」
「わかりました。ご助力感謝します」
アイリスは自分に非があるのですぐ飲み込んでくれたが、カイルは諦めきれない様子で馬車の外壁に当たっていた。その程度では壊れないけど、それもアルフォンス君に対する非礼だからな。
そのまま馬車に乗って魔王城に向かった。エリカとモカ(ステルスでミランダとモリー)は俺と御者台だ。モフモフのこぐまは俺の膝の上に乗っている。元女子中学生がやることとは思えないが、今はクマだからいいそうだ。
魔王城に近づけば近づくほど霧が立ち込め瘴気が濃くなり苦しくなるそうだが、エリーちゃんの結界はそれを感じさせない。時々攻撃も受けているそうだが全部はじき返している。
カイルはいつも馬車の上で寝ころんでいたが、エリカが気になって仕方がないのか上から覗こうとバタバタしている。日よけがあるので見えも聞かれもしないが気配が鬱陶しいので瘴気を理由に馬車の中に入ってもらった。
「モカはステルスのままでよかったんじゃないか?」
「だって隠れて攻撃するのにちょっと飽きちゃったんだもん」
バレないようにするためチェリーやサリーの攻撃を隠れ蓑にしたり、見てないところでしか力が振るえなかったりでフラストレーションがたまっていたそうだ。
「前は転移で向かったから知らなかったけど、やっぱり魔王城への道のりって行くだけで大変だよな」
「まぁそうだけど、ゲームとしての難易度は高くないよ。だって元はギャルゲーなんだし」
「もっと戦闘とか多いんだと思ってたよ」
「みんなソルダム社はギャルゲーって思ってるし、恋愛のスパイスでしかないもの。一応今はアイリスルートってことになるんだけど、本当はもっと強力な仲間であるかわいい女の子を落とさないといけないのよ。そうなれば難易度も上がるルートが開けるんだけど。あの泉は攻略が上手くいっていないときの救済措置なのよね」
それは二股三股の結果、アイリスの機嫌を損ねたとき用なのだという。
「モカ、詳しいな」
「だってこのゲーム、あたしもプレイしたもん。伯父さまが他のヒトの目線も欲しいっていうからさ。ミランダやモリーがすると思わないでしょ」
「確かに」
「でも今状況は悪いわ。カイルはアイリスの心を失っている。このままだと彼女の力を借りられずにバッドエンドよ。でもあたしたちが何とかするからね」
「ありがとう。それでプラムはどうなったの?」
「捕まえているけど、ログアウトしたみたいよ」
「逃げたのか?」
「ううん、無理。逃げられないと思う。カーライル社もちゃんとお仕事してるからね。現実世界で逃れられないと知ったら、またゲームにログインするわ」
「それじゃあ、犯人を特定したんだ」
「そうだろうけど聞いてないよ。あたしたちの仕事はこのゲームをハッピーエンドに導いて、完全に終わらせることだから」
ものすごく気になるけど、聞いてないなら教えてもらえない。そうこうしているうちに霧が晴れ、目の前が開けた。とうとうついた。元は貴族の居城だと聞いていたが、今は禍々しくもおぞましい魔王城の前だ。
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