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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした

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第90話 いさかい


 夕食後、俺はリンダさんに2人で話せるようにしてもらった。そこで高価な賄賂を渡すつもりだからだ。融通を利かせてもらうために彼女に渡したものは、エリカ(精霊)が触れた宝石30個だ。必要経費ってエリーちゃんが俺にたくさんくれたうちの一部だ。これは幹部クラスの女性が5人で、その下にだいたい4,5人の幹部候補がいる。足りないと言われなかったので、これでいいんだろう。



「それで下級デーモンの目撃情報は?」


「春の被害が大きくてみんな慎重になっているんだ。あまり遠出をしないからさほどないね。魔王城の側か、よく湧くところぐらいだよ」


「そっか。じゃあそのあたりを行くしかないね。ありがとう、明日にでも出て行くよ」


「ちょっとリアン、あんたビビアンに顔をみせないつもりなの? 今生の別れになるかもしれないんだよ」


 ビビアンとはリアン君の母親の名前だ。悪いけど俺と会ったら中身が息子じゃないとバレるかもしれない。


「魔法学校に進学する時点で親子の縁を切ってもらっている。戸籍を変えるのが面倒だからマクドナルド姓は使っているけど、討伐が終えればシンプソンになるしな。それに母さんに会えば周りの人間にもバレるし、そうなれば洗礼を受けないといけないだろ」


「どちらにせよ、あたしがこの宝石を配ったらわかることだよ?」


「今は魔王討伐にだけ専念したいんだ。カイルが下級デーモンを倒したら、そのまま魔王城へ行くつもりだ」


「ここで休んでいかないつもりなの?」


「したら絶対に男どもが襲ってくるだろ。そっちの方が煩わしい。食料やポーションなんかはもう馬車に積み込んであるし、多少は休めるからいい」


「馬車?」


「俺が仕える予定の次期伯爵様は大変貴重な魔道馬車をこの討伐のために貸してくださったんだ。俺にしか使えないって制限付きだけどな。それがあるから問題ない」


 もはや何を言っても聴かないとわかったのだろう。リンダはおでこに手を当て深いため息をついた。


「……あたしはアンタが生まれた時から知っている。だから絶対に生きて帰ってきて、ちゃんと自分でビビアンに詫びを入れな。わかったね」


「わかった、リンダ、ありがとう。サリーは残って北部に商品を持ち込んでくれるので今後もよろしく頼むよ」


「はいはい、アンタは昔から要領のいい子だったね」


 恩に着るとか言いたいけど言わない。次に会う時は俺ではなく、リアン君だからだ。彼に俺の感謝の肩代わりをしてもらうのはおかしいからな。

 その後、北部人しか知らない抜け道を通って、モンスターが大量に出るスポットに向かうことになった。



「そんなの、勝手に決めないで欲しいわ」


 俺とリンダさんが決めたことに対して、反論してきたのは意外にもプラムだった。


「なぜ? 北部に用事でもあるのか? だったらそれを先に済まそう。一体何がしたいんだ?」


「……」


「俺に言えないことか……。わかった、プラムと護衛にアイリス様だけ別行動を取ろう。ただしカイルには俺たちと来てもらう」


「何言っているの! カイルも必要よ」


「俺がカイルを連れて行くのは彼のためだ。この間説明した北部の悪習のためって言ったらわかるだろ?」


 カイルとプラムはマズいものを飲み込んだみたいな顔になった。俺だって当然嫌だ。こういう時に仲裁に入ってくれるのがサリーだ。彼女が居なくなる今後の討伐は面倒なことが多いだろうな。


「と、とにかくケンカは止めよう。プラムの用事はそんなに必要なものなの?」


「ええ、カイルを強化するためにもね」


 そうなんだ、この辺でそういう強化できるところがあるのか。知らなかった。


「そこに俺がついて行くと、勇者の称号を奪うとかになるのか?」


「そういうのではないわ。ちょっと会いたい人がいるのよ」


「それならなおさら俺に聞いた方が良くないか? この辺りの事なら人でもモノでも大抵知っているぞ。俺がイヤならリンダに頼めるし」


「……」


「プラム、わたくしはその方について知らないけれど、リアンは頼ってもいいと思うわ」


 アイリスも説得してくれたが彼女は頑なだった。



「そっか、とにかく俺は忠告した。チェリー、魔王城入場のために、下級デーモンを1匹狩りに行こう。たぶん枯れ泉で狩れる」


「「枯れ泉??」」


 今度はプラムとカイルが同時に声をあげた。


「ああ、3年前までは豊かな水を湛える泉だったんだが、魔王に侵されてすっかり枯れてしまったんだ。今ではやつらの領地としての見回りなのかオーガや下級デーモンがよく目撃されるんだ。俺たちはオーガなら当たり、下級デーモンならハズレって呼んでいる」


 オーガなら自力で倒せるけど、下級デーモンならその可能性がぐんと低くなるからな。今回は下級デーモンが当たりだけど。

 あれっ? 何だか2人の顔色が悪い。


「もしかして泉に行くつもりだったのか? そう言えば昔あそこは聖なる泉って呼ばれていたからな。でも今は1滴の水もないぞ」


「魔王から取り返せば……」


「つまりプラムが浄化して取り戻してくれるというのか? それはありがたいけど魔王討伐の前にそんなに力を使っていいのか? また取り返されるんじゃないか?」


「リアンはそこの水を飲んだことがあるのか?」


 カイルが珍しく俺の名前を呼んだ。


「ああ、ガキの頃からだから10年ぐらい毎日飲んでた。……もしかしてあの泉の水が強化につながるのか?」


「……」


「うーん、10年飲んでいたからわからないけど、それで特別強くなったような気はしない。でも勇者だったら違うのかもしれないな。とにかく泉を取り返すためには魔王を倒すしかないと俺は思う」


 するとプラムが狂ったように悪態をつき始めた。


「ウソだろ! 強化ポイントがぁ~! 何だよこのムリゲー。北部の連中は使えなさすぎだろ‼ どんだけ間抜けなんだよ!!!」


 珍しく男言葉を使って頭を抱えていたが内容が悪い。ここはその北部のど真ん中なんだが……。ああ、俺たちの話し合いを見守っていたリンダの目が厳しくなった。


「おいプラム、北部の人間をお前がいつ使える立場になったんだ? ここにいる人たちに失礼だろ。訂正して謝れ。お前の態度のせいで、俺たちまで同類に見られるだろーが」


 彼女はハッと我に返って、冷たい表情の北部の女性たちを確認した後、申し訳ありませんでしたと頭を下げていた。それくらいで許してもらえると思うなよ。間違いなく要注意人物になってしまった。俺からアイリスとサリーとチェリーはまだまともだととりなしておこう。


 ただ1つだけ間違いなくわかった。

 もともと怪しいと思っていたけどプラム、まさかこの世界の人間じゃないなんて考えもしなかった。何らかの関係で自分の正体を隠している程度だとおもっていた。


 たとえカイルから言葉を聞いていたとしても、こういう本音が出た場でムリゲーなんてこの世界の人間なら絶対言わないもんな。


お読みいただきありがとうございます。

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