表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/99

第89話 北部へ


 1週間のカイルの修行が終わり、次の下級デーモン討伐に向かうことになった。それで当然現れる質問をサリーから受けた。


「それで下級デーモンってどこにいるの?」


「知らない」


 俺がそう言うとみんな、はぁ? って顔をして俺を見つめた。


「リアンが知らないってことは冒険者ギルドなら知っているのかな?」


「たぶん知らないんじゃないか? でも目撃情報なら北部で集めていると思う」



 北部はリアン君の故郷であり、婚約者のフレデリカを失った土地だ。元々は広大なウィンダルフェルト公爵領と5つの貴族の領地が合わさったのもで各自別の名前がついていた。20年前この地に魔王が降り立つと公爵の城を魔王城に変え、周辺の領地を瘴気で覆ってしまった。たまたま新年のあいさつで貴族たちは王都にいたから助かったが、彼らはすべての財産と領民を失い王家の厄介者になっている。


 残された領民たちはというとすぐに殺されるわけではなく、時々一部の家が積み木のように壊されたり、住民が攫われて殺されたりしていた。中には気骨のある住民が襲ってきたモンスターを倒し、宝やドロップを得た。それが勇士の始まりだった。


 瘴気に覆われていても住めないほどひどい訳ではなく、その土地がすべてダンジョン化したようにモンスターたちが現れ、金になるとわかると各地から冒険者たちが腕に覚えがある者もない者もやって来た。

 そうなると起こったのが住民との諍いだ。特に荒くれ者の多い冒険者が土地の女性を襲う事件が起こり、女子どもに手を出してはいけないという決まりが出来た。その後戦いにより減った人口を補うために成人してすぐの結婚が推奨され、女性の意志を尊重するために男を試し選ぶようになり、あぶれた男たちが弱い男を虐げるようになったのだ。


 北部での主な仕事は日々現れるモンスターの討伐である。人口が少ないのですべての住民は戦闘員であり子どもでもどこにどんなモンスターが出たか、あるいはその痕跡について報告する義務があった。つまり北部に現れるモンスターの情報は北部の住民の中で共有されるのだ。それはまだ討伐がおぼつかない子どもを守り、危険な敵を避けられるようにする配慮であり、誰に討伐させるかを決めるためのものでもあった。つまり情報が彼らの命を繋いでいるのだ。



「サリーに店を出してもらったのは、物資の代わりにその情報を得るためだったんだよ。北部に気持ちよく協力してもらえないと、相当足を引っ張られる。それに北部の悪い慣習から弱いカイルを守るためでもある」


「はぁ? 俺は弱くねーし」


「弱くなくても、数の力で寝込みを襲われたらどうしようもないだろ。そのためにあそこの女性たちに滞在中は匿ってもらわないといけない。だから日用品や布だの装飾品だの、女性たちが困っているもの、欲しがりそうなものを中心に揃えてもらったんだ」


 北部では強いことが正義だ、表向きは。だがそれでも物資と金を握っている女性たちには強く出られない。彼女たちに嫌われたら、金も物も当然恋人も出来なくなる。いやもっと死活問題である一緒に討伐してくれる仲間がいなくなるのだ。その仲間たちにも何も与えられなくなるから。


 外からやって来た横柄な男たちが女性たちのリーダーであるマーゴに平伏しているのを幼い時にリアン君は見ていた。彼女は北部で生きる最年長の女性で50代くらいだ。たくさん子どもを産み、貫禄ある強い女性でリアン君もお世話になった人である。子ども心に刺さる出来事だったが、そうやって幼い時から反抗させないようにしていたのかもしれない。でもちゃんと決まりを守っていれば、彼女たちもそんなことはしない。守らない方が悪いのだ。



 俺たちが北部の集落の1つ、魔王城のお膝元ある元ウィンダルフェルト公爵領に入ったのは話し合いの翌日だった。入る前に白い騎士服に着替え、身なりを整えていく。俺たちは正式な国王の命を受けた討伐隊だと北部の民に見せつけないといけない。


 俺が馬車を止め、扉を開くと真っ先にカイルが勝手に下りた。学校でも礼儀作法を習ったのだから、アイリスのエスコートぐらいすればいいのに……。それで俺がアイリスの手を取り下ろすと、プラム、サリー、チェリーが順に降りて来た。


 集落からはマーゴが出てくると思ったら、リンダという40代の女性が出てきた。当然リアン君は彼女の世話にもなっている。この世話っていうのは夜の方もだ。リアン君はあまりにかわいくて、集落の幹部クラスの女性たちのほとんどとベッドを共にしている。別に虐待みたいな感じじゃなく、添い寝だったりお喋りだけしたりも多い。


「リアン、おかえり」


「悪い、リンダ。帰ってきたわけではない。俺たちは国王陛下から魔王討伐を正式に命令されている。生きて帰れば一生あちら暮らしさ。俺は子爵になって、伯爵様に仕えることになっている」


「なんてこった。ここ一番の美男子がねぇ。でも王都って恐ろしい所なんだね」


「そうでもないさ。みんなぬるま湯につかってのんびりし過ぎなくらいだ」


「いいや、アンタ相当無理して戦ってきたんだろ。ここを出た時よりも格段に強くなっているからね」


「……そうでなければここに戻ってこられないさ」


 それはアルたちとダンジョン攻略に出ていたせいだ。俺は前回の能力をなぜか引き継いでいるし、エリーちゃんの加護の力もある。ここの人間は全員戦闘能力の値踏みが出来るから誤魔化しきれないな。カイルが弱いのがバレバレになる。


「それよりマーゴは? 腹でも壊してるのか?」


「いや、夏前に子どもを狙った襲撃があってね。マーゴが子どもたちを逃がしたんだ。その時にね」


「……そうか」


 俺の中のリアン君の心がざわめく。マーゴが長生きしていたのは慎重で無理な戦いに持ち込まず、うまく逃げ延びていたからだ。それが戦闘能力の低い女性たちの生きるすべなのだ。その彼女が子どもたちのために死んだのだ。


「ああ、下級デーモンに突っ込んで、魔石を奪ったんだ。初の下級デーモン討伐が成功したっていうのに死んじまった。でも虫の息とはいえ、生きて帰ってきたんだ。あたしはマーゴを誇りに思うよ」


「俺もだ」


 だがしんみりしてもいられない。今ここを仕切っているのはリンダなので彼女に仲間を紹介した。


「こちらが剣聖アイリス様、聖女プラム様だ。もう一人が優秀な魔法陣士であるチェリー。サリーは商人で1度品物を持ってきたから紹介はいらないよな。そしてあちらの方が勇者カイル様だ」


 俺がみんなを紹介するとリンダがポカンとした顔になり、俺を引っ張ってコソコソと声を潜めた。


「……あんな弱っちいのが勇者?」


「まだなったところなんだよ。それで使い物にならなくなると困るから女性たちの保護を求めたいんだ」


「なるほどそれで物資がいつも手に入るように商人を連れてきたんだね」


 さすが、物分かりが早い。そういうことで頼みますよ、リンダさん。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ