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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第83話 今後の相談


 俺が村はずれに置いておいた馬車をノックすると、窓から俺を確認してサリーがドアを開けてくれた。


「泊るところ見つかった?」


「ああ、アイリス様が地元の有力者に歓待を受けることになったので、そちらで泊めてくれるそうだ。とりあえず2,3日は大丈夫だと思う。カイルとチェリーはまだ探しているのか?」


「たぶんね。2人に戻ってきてもらわなきゃ」


 彼女がごそごそと布袋を漁って、中から1枚の魔法陣を取り出した。


「これは対になる魔法陣を持っている人にだけ、声が届く魔法陣なんだって」


「へぇ、便利なものだな」


「キースん家の秘蔵陣なんだって。だからじろじろ見ちゃダメよ。いつも一緒にいたから今まで使ってなかったけど」


 サリーが魔力を込めて、村の有力者に招待を受けたから探さなくていいと伝えると、村の中央にある井戸の側で待ち合せることになった。



 それで俺が御者台に向かおうとすると、サリーに呼び止められた。


「リアン、その剣どうしたの? 折れてたんじゃなかったっけ?」


 しまった!

 彼女は商人のせいか目端が利き、細かな特徴などを見分ける達人だ。俺の剣がリアン君の愛用の折れた剣だとすぐにわかったようだ。

 言い訳なんか全然考えてなかった。どうしよう……。


 するとリアン君の知識が浮かび上がってきた。


「実はこの前ここを出る時に、知り合いの鍛冶職人に会ったんだ。その時に修理を頼んでいたんだよ」


「ええっ! あんなに真っ二つの剣を直せるって凄腕じゃない! 是非紹介してよ」


「ダメだ。ここの職人じゃなく、流れ者なんだよ」


「ああ~、残念」


 流れ者の職人というのは一般的に言ってあまり地位が良くないし、腕が悪いと思われがちだ。なぜなら職人とは親方の工房で修行してずっとそこで働くか、独立して自分の店を出すか、婿入り先の職人になるかが基本だ。だけどそれからあぶれるというのは何か理由がある。よくあるのは盗みやケンカなどの罪を犯して、追い出されてしまうケースだ。または集団行動が出来ない、親方や客の意見に背くと言った場合もある。つまりちゃんとした仕事ができるのに流れ者になっているということはほとんどない。


 でもたまにいるんだ。実力があるのに追い出されてしまう職人ってのが。

 そういうのは大体が跡取りとみなされていたのに、どうしても親方が実子に継がせたい、婿入りするはずの相手に別の男と結婚されてしまったなど、本人ではどうしようもない理由で流れ者になってしまうケースだ。その人がどんなに腕が良くても、他の土地で迎え入れられることは稀だ。よそ者は嫌われるのは田舎になればなるほど避けられない。なぜなら同じ地元の人間の方がもめ事が起こりにくいからだ。


 リアン君の知り合いにそういう鍛冶職人がいて、人が居つかない北部では重宝されていた。例の弱いやつなら……というのも、腕利きの職人に対しては手を出さないのが慣例だ。仕事ができなくなったら困るからな。それでも身の危険は感じるらしく、どんなに引き留められてもある程度の仕事を請け負ったら逃げるように去っていく。そのことが思い浮かんだのだ。

 エリーちゃんはアルにくっついていろんなところに行っているみたいだし、この世界に工房があるわけじゃないから、ある意味流れ者の職人と言えなくもない。


「鉄くず用に売りたいナイフとか切れ味の悪い剣とかあったのにな。もう! そんな腕利きなら一言あたしにも言ってよ」


 ああ、ゴブリンナイフやオークに棍棒代わりにされてた切れない剣とかな。


「俺もダメ元で頼んだんだ。でも見事に直してくれたよ。それに鉄くずならこの村の鍛冶職人でもいいだろ?」


「甘いわね、リアン。流れ者ってことは元になる鉄だって手に入りにくいのよ。ああいう人たちに割高で売りつけるか、適正価格にして恩を売るかするのが基本よ」


「あの人はかわいそうな方の流れ者だから、あんまり厳しくしないで欲しいな」


 うん、サリーが根っからの商人なことはわかったよ。でも助かったけどなんか俺、リアン君に頼り過ぎじゃねーか? 全然自分で対応できてねーじゃん。

 それに最後のその職人に対するかわいそうと思う気持ちは……俺のじゃない。


 このままじゃダメだ。早く元の世界に戻らないと!

 俺は逸る心を抑えながら、待ち合わせ場所へ向かった。



 全員で白い騎士服に着替え、恙なく歓待を受けてやっと落ち着くことが出来た。プラムはまだ意識不明のままだが、村の薬師が見ていてくれるというので俺たちはアイリスの部屋に集まって今後の相談をすることになった。


 議題はもちろん、勇者の聖剣を取りに行くことについてだ。

 カイルは俺を連れて行かないことを主張し、アイリスは逆に俺を連れて行くことを主張した。


「俺が勇者にならなければ困るのはアイリスだろ?」


「でも負けては意味がないし、リアンはこのパーティーの重要な戦力よ。プラムが目覚めてもすぐ動けるかわからないし、彼を外すことは無意味だわ」


 俺としてはアルがダンジョンへ聖剣を置いてくれているから確実に獲れるとわかっている。だからついて行かない方がいいと思うが、もしかしたらカイルのレベルは勇者になれるほどないのかもしれない。ダンジョンで彼が負けると聖剣は取得できず、勇者になれない。そっちの方が大問題だな。


「俺としてはついて行っても、残されてもかまいません。ただサリーには別の仕事を与えてはいかがですか?」


 俺はアルが教えてくれた彼女の出来る仕事について話した。


「北部ではいつも戦いと隣り合わせの辛い生活を送っています。物資も少ないですし、心もすさんでいます。そこに勇者パーティーが現れることは喜ばしいことですが、嬉しく思わない者も少なくありません」


「どういうこと? わたくしたちは魔王を倒すのよ?」


「だから倒せれば問題はないのですが、倒せず撤退されたときのことを考えたら全く嬉しくないのです。あの地は優秀な勇士が時折デーモンを間引きに戦いに赴きます。間引かなければ土地の力が弱り、人体に影響を及ぼすからです。ですが負けることも少なくありません。その場合報復が来ます。勇者パーティーが呑み込まれるなら自業自得ですが全く関係のない住民、特に女性が狙われやすいんです。ただでさえ少ない女性たちは北部の宝です。中途半端な力で魔王と戦うなど許しがたい行為です」


 そして今のこのパーティーはその中途半端な戦力しかないのだ。それにリアン君のように、北部の多くの人間が戦闘能力の値踏みが出来る。カイルがチェリーがサリーが弱いということが一目瞭然なのだ。


「行くからには失敗は許されません。北部の人間にとって死んで終わりではないんです。そのことはご理解ください」


 だから名誉ある死なんて甘い考えなんか持たないでくれ、アイリス。


「それを懐柔するためにも彼らに利を与えないといけません。それが食料やその他いろいろなものを売る商人の存在です。サリーはカイルが勇者になりに下級デーモンを倒している間、北部での開店準備と商品集めを行ってもらいます。そして俺たちの討伐が終わった後もそこに店を置いてください。王都の店に頼んで北部に入るまでは男性がいても構いませんが、その後は女性だけ来てもらってください。少ない期間で入れ替えればさほど問題は少ないと思われます」


 サリーから手が上がった。


「質問! どうして女性だけなの? 運搬や警備のことを考えれば、男性の方がいいんだけど……」


「北部のおかしな風習に、弱い男は何をされても文句が言えないんだ。店員なんかできる優男なんかが来たら大人気だぜ。男娼としてな。だから俺は死ぬ気で強くなった。1日に何十人も相手にしなくちゃいけないなんて、恐ろしいからな」


 俺の言葉を聞いて、元々知っていたアイリス以外は真っ青になった。


「何十人も……なの?」


「ウソでしょ……」


 サリーたちは女性もそんな目に遭うと思ったようなので訂正しておく。


「ただし女性や子どもは宝だから除外だが男は15歳を越えたらダメだ。カイル、死ぬ気で強くならないと強姦されると思ってくれ。勇者の称号ぐらいで諦めてくれはしない」


「そんなっ……!」


 カイルが悲痛な声をあげる。男の娘でも嫌がるんだから、行為そのものはもっと最悪だよな。


「だから北部に入るまでの運搬や警備のために男を連れてくることは構わないがその後は身体強化が出来る女性が望ましい。その後の仕入れなども同じように行い、その時店員を交代させること。長くいると結婚を迫られるし、誰でも好きな男とヤッて子どもを残してくれと言われかねない」


「北部は思ったよりも恐ろしい所なのね。年配の男性や既婚者でもダメなの?」


「戦闘の熱に煽られた男は多少の老いなんて気にしないし、既婚者は除外だが犯罪が行われないとは限らない。北部で生きていけるくらい戦闘能力があったとしても多勢に無勢だ。だが女性を襲ったら、どんな男でも最下位に落ちるから絶対にしない。だから女性を使うのが最も安全で安心なんだ」


「リアンの案だと私は店長になるのよ? 無理やり結婚させられない?」


「そこは勇者パーティーの一員で一時的なものだと言い張るしかないな。学校だってあるし。もちろんサリーがあの地を気に入って、ずっといたいと思ったらそこにいてくれていいが俺はお勧めしない。だからこそ魔王討伐は絶対に成功させないといけないんだ。だがそれが確定されない間、俺たちを邪険にして邪魔されるかもしれないってことだ」


「つまりその間の懐柔策ニンジンが、サリーのお店ってことね」


「俺たちがあちらにいる間だけでいい。だが店がずっとあるということは北部にとって大きな利になるし、サリーの実家も儲かる。報奨金として金はみんなため込んでいるからな。もし俺たちが1度で倒しきれなくても反発が少なくなる」


 俺は頷いたし、サリーは戦闘よりもそちらの方が自分の能力が生かせるとやる気になったようだ。


「あたし、すぐに実家に手紙を書きます。父や祖父ならその分の資金物資人材を確保してくれるわ。女性ならば安全なのは間違いないのね?」


「ああ、人間相手ならその点は保証する。だから男である俺は逃げるしかなかったんだ。つまり下級デーモンを倒した後のことを考えても、カイルは絶対に勇者として強くならないとダメだ。少なくとも俺ぐらいにはなってくれ」


 さすがにそうなると失敗できないと思ったのか、カイルは俺のダンジョン行きを認めることになった。

 ああ、俺は勇者になれないと言ってあげられないのが残念だ。


お読みいただきありがとうございます。

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