第82話 失敗
突然来たアルとエリーちゃんに驚いているとアルにそう言われた。
「驚かせて悪いけど、少し話せるかな?」
俺は他のメンバーを迎えに行かなければならないので、村の外に置いてきた馬車の所まで話すことにした。
こんなに目立つ二人と話すとなると村人に注目されているだろうと思いきや、彼らは誰もこちらを見ていなかった。
「認識疎外魔法をかけてあるんだ。よく見たら誰かいるなと思うけれど、はっきりとよくわからないようしてある」
「そうなんだ、それで何か用なのか?」
「うん、その……ちょっと僕のミスがね、つい最近判明したんだが……。リアンこそこの村にいるなんて、もしかして討伐に失敗したのかい? 悪いけど先に情報を教えてくれないか?」
「……まぁいいけど、ちゃんと後で説明しろよ。オーガ討伐には成功したけどプラムが意識不明で、カイルも戦力不足で困っていたんだ」
俺はオーガ退治の様子を簡単に話した。
「アイリスが見つけてきた身を隠しつつも攻撃によさそうな場所で、オーガの待ち伏せに遭ったんだ。半成りが2匹に、半成りになりかけが数匹、他にも普通のがいて、20匹を超えていた。アイリスが半成り2匹に足止めを食ってね。そいつらほとんど下級デーモンに近い上に連携を取ってくるから、簡単に倒せなかったんだ。
俺もなりかけが結構強くて、浄化魔法をかける女子たちを守りつつだから手こずってしまった。カイルも相当頑張ってくれたんだが、攻撃を受けないようにするので精一杯だったんだ。それでプラムが意識を失って、サリーが自分を連れまわしたことに激怒して困っている」
彼女はすごく努力した。それでも実力が追いつけないのについてきて、あんな甘い考えを聞かされたらたまった物じゃない。その様子も軽く伝えた。
「そんなことがあったんだね。それにしても彼はまだ勇者じゃなかったんだ」
「ああ、それでそうなって欲しいとアイリスに申し入れたら、プラムが目覚めたらダンジョンに行くって」
するとアルは大きく安堵のため息をついた。
「よかった。間に合った……」
「どういうことさ?」
いつもより歯切れの悪いアルが言うにはこうだ。
この3年間アルフォンス君の振りをしつつ、この世界を守るために動いてきた中にダンジョン攻略がある。この世界にある全てのダンジョンを巡り、宝物を手にし、それを悪魔討伐が終了した時に世界に還元する。このことは以前にも聞いていたのでなぜまた言われたのかすぐにわからなかった。
「そのダンジョンの中には勇者になるための通過地点になるダンジョンもあった。転移していたからわからなかっただろうけど、君も前回連れて行ったんだよ。
その前に僕はエリーたちを連れて攻略した時に取得していたんだ。そして宝物を手にして還元するまでの間、ストレージに入れっぱなしにしていた。勇者の証である聖剣をね」
「はぁ? それじゃあカイルたちが取りに行っても……」
「当然のことながら、手に入らない。同じ聖剣が何本も存在していたら困るからね。それで討伐に失敗していないかと飛んできたんだ」
おいおい、俺たちそれで死んでいたかもしれないんだぞ。
アイリスがカイルを不審に思っていて、取得が遅くなったことが功を奏したってことだな。
アルもエリーちゃんもすごく反省していて、しょんぼりしていた。アルのストレージはエリーちゃんも共同で使っていて、普段は彼女が管理しているそうだ。
「せいけんとれたとき、モンスターボックスいっぱいのませきがとれたの。だからぜんぶストレージにいれてそのままだったの」
「今日精霊女王たちとお茶会をしてね。彼女たちにストレージ内の魔素を直接返還していたら、聖剣が見つかったんだ。持ち主が名前を付けられるよう無銘だったのも、わからなかった理由だ。
エリーは悪くないんだ。悪魔に利用されないよう、ドロップ品はストレージに置いておくと決めたのは僕だから」
言い訳がましいねとアルは自嘲していた。
「それでどうするんだ?」
エリーちゃんとアルが口々に言う。
「これからもとのところにおいてくるつもりなの」
「どうやって再度取りに行ってもらうか悩んでいたけど、まだ取ってきてなかったのなら間に合うよね」
エリーちゃんとアルが顔を合わせてニコニコしていた。
俺は呆れてつい言ってしまった。
「神様が失敗してどうするんだよ」
「神と言ったって僕らはつい最近まで人間だったんだ。それに神だって失敗する。でなければ悪魔に侵攻されるなんて許すわけがない。
そうだ、いちどコレ持ってみてくれないか?」
アルが突然鞘入りの剣を投げつけてきたので受けた。シンプルな古い剣で重くはないが、ピクリとも鞘から抜けない。
「やはりリアンでは勇者になれなかったか……」
えっ、これが聖剣なのか? もっと派手派手しいものかと思った。ちなみに成長型の聖剣なんだそうだ。
「俺、勇者になれるかもって、カイルに言われたんだけど」
「それは条件を満たしているかもしれないので、そう思われたのだろう。条件は難しいことではない。剣聖と聖女の信頼を得て、寝食を共にし、背中を預けること。だからな」
本当に単純なものだ。だけど逆に言えば貴族や騎士なら平民のプラムと、平民なら貴族のアイリスと相容れず寝食なんて共にしないか。つまり同じパーティーにならない限り不可能ってことだ。
「でも俺は条件を満たしていなかったんだ……」
「それはそうだろう。寝食を共にして背中を預けるはともかく、彼女たちの心からの信頼を受けているとは思えないだろう?」
確かにそうだ。俺はアイリスに対して説教臭いし、プラムは俺とあまり話さない。もしかしたらこの条件を満たさないためだったのかもしれない。
「条件は知っていたので僕らも試していたんだよ。それでリアンが勇者になれなかったのは僕がストレージに聖剣を入れっぱなしだったからと気が気じゃなかった。でもやはりこの世界の剣聖と聖女でなかったからダメだったみたいだ」
「そんなの、していたか?」
「僕は勇者の称号もあるけど、剣聖のスキルも持っているんだ」
「ただしくは、けんしんね」
けんしん? 献身? 検診?
「剣の神の剣神さ。大聖女のモリーとはかなり寝食を共にしてもらったし」
寝食って、あれか! 俺のポケットに入って守ってもらったヤツ!
そういや部屋で一緒に飯食ってたし、パジャマのポケットにも入っていたな……。
「僕が剣聖でなかったからかもしれない。すまない、リアン」
「いや、そんなこと謝られてもしょうがないし。それでこれからどうするんだ?」
「さっきも言ったけど、ダンジョンに置いてくる。アイリスたちはいつ出発するんだ?」
「プラムの容態次第だからわからない。それに今夜はこの村の有力者に食事に招待されてる。国王のためのプロパガンダだ」
「なら今すぐ行けば間に合うね。行ってくるよ」
「まって、おにいさま」
エリーちゃんは別の剣を俺に差し出した。柄に巻いた皮に見覚えがある。リアン君が親父さんからもらった剣だ
「あのけん、なおしたの。リアンのぶじもいのってあるわ」
「ありがとう、エリーちゃん」
「せいけんとうちあっても、おれないから。あんしんして!」
「この聖剣より格が高い剣になっているからね」
女神自らの手で直されて、しかも祈りまで籠っているなんて。それは確かにレベルが高いだろう。ってかそれを俺が持っていいのか?
そう聞いたら、勇者が聖剣を育て上げれば格が上がるそうだ。
それをカイルがするのか?
「そうだ、サリーのことだけど、彼女はもう戦闘に連れて行かない方がいい。
彼女には別の任務、例えば北部の人たちとの折衝に当たらせるんだ。資金を使って北部に足りないものを仕入れさせて懐柔するんだよ。それなら勇者パーティーを受け入れても北部の利になるからね。もし討伐に失敗されたら一番荒れるのは北部だから、余計なことをすると言い出すヤツらも出ると思う。あの土地を捨てたリアン君の面目も立つしね」
「うん、提案してみるよ」
ちょうど馬車のすぐ側まで来た時に、エリーちゃんが俺の頬にキスをして2人は去っていった。
これで聖剣がカイルの手に入る、たぶん。
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