第80話 急がば回れ2
プラムが倒れたのは魔力の使い過ぎによる枯渇が原因だった。俺やカイルがギリギリだったように彼女も限界まで戦っていたのだろう。むしろ彼女の方がチェリーやサリーが側に居て、守らなければならないと気が張っていたのかもしれない。
彼女の手に触れてみると夏なのにひどく冷たい。危険な兆候だ。それで俺とカイルで彼女を持ち上げ、サリーとチェリーが馬車のベッドを用意して横たわらせた。こういう時にアイリスは役に立たないが貴族令嬢だから仕方がない。周辺の警備に当たって欲しいと頼んでおいた。
それにしてもこのままではいけない。俺たちはまだ魔王城へ向かえる実力がないのだ。
「アイリス様、お話があります。みんなにも……特にカイルだ」
「でもプラムがまだ……1人にできないわ」
馬車のベッドに横たえた彼女をチェリーが心配そうに見つめた。魔力枯渇は一つ間違えれば命を失う。意識を失くしている間にそのまま息を引き取るなんてこともある。だから側に誰かが付いていて見張っていなければならない。
「あたしが見てるよ。この中で一番余力があるのはあたしだから」
みんなポーションで魔力を補ったとはいえ、実は倒れなかっただけで本当に魔力枯渇直前だった。でも俺たちが落したオーガの首を潰すだけの役割だったサリーはまだそこまでではなかったようだ。
それで後で話すと約束して、俺はアイリス、カイル、チェリーに提案をした。
「このまま下級デーモン討伐に行くのは危険です。俺たちの実力が伴っていないからです。デーモンクラスになると、より浄化の力が必要になります。プラムとチェリー、そして剣聖としてアイリス様も出来るでしょうが、俺もカイルもサリーも出来ません。
やらなくてはならないことは2つ。1つ目はプラムをちゃんとしたところで養生させることです。彼女はこの討伐の要の1人です。意識を失くすほどの魔力枯渇は本当に危険なんです」
俺が3人を見回すとみんなもそれをわかっているようだ。アイリスは渋々、カイルとチェリーは深く頷いた。
「そしてもう1つがカイル、君に勇者になってもらうことだ」
アイリスがハッと息を飲んだ。彼女はカイルを疑っていて、勇者にしたくないのかもしれない。だけどそんなこと言ってられない。もちろんアイリスが作戦の失敗を認めて、魔王城へ行くのを止めてくれればいいが多分そうはならないだろう。なぜならこれは彼女の尊厳が失われる危機だからだ。
かと言って無理やり進んだら全員死ぬ。アイリスはそれを名誉ある死として狙っているのかもしれないが俺は元の世界に帰りたいし、サリーやチェリーを無事に帰らせたい。プラムだって仇討ちを成功させたいはずだ。カイルもまだまだゲームを楽しみたいはずだ。俺が帰ったらアルが彼を捕まえるかもしれないけど。
「俺はカイルがどうやって勇者になるのかをしらない。でもアイリス様が彼に目をかけるのはその素質があるからでしょう?
ここは戦略的撤退が必要です。このまま先に進んでも自殺行為です。先にプラムを回復させて、カイルに勇者になってもらって戦力を増強させてから先に進むべきです。急がば回れです」
「でもそれでは時間が間に合わないわ!」
「9月の末日が期限ですが、レッドグレイブ様がウォルフォード伯爵位を継承してからでも間に合うと思います。
この討伐は国王陛下が認めたものです。もちろん討伐から逃げたのなら別ですが、討伐中なら貴族として婚約破棄はできません。戦地にいる婚約者を捨てることは王命を出した陛下を貶めることになるからです。男爵の意向があれど、魔王討伐の行く末は他国にも注目されているはずです。名誉を重んじる貴族ならそうは出来ません。
もちろん引き延ばしすぎはダメですけど」
「……」
「勇者になりに行くのに何か問題があるのですか?」
アイリスは口ごもったが、代わりにカイルが答えた。
「お前がいたら、勇者はお前がなるかもしれない」
ゲームをやっていなかったから知らなかった。リアンが勇者になるルートがあるのか……。そう言えばライバルでもあるんだった。カイルの成長を促す役割だけではないんだ。でもだったらどうしてアルは俺を勇者にしなかったんだろう?
いや今そんなこと考えている場合でない。
「お、俺が勇者ですか? 信じられない……いったいどうしてそうなるんだ?」
そう尋ねたが答えてはもらえなかった。何かの条件に当てはまってしまったんだろう。
「だったらその間、俺はこの前の村まで戻って待っていますよ。俺は勇者になるよりもフレデリカとの約束を守ることが大事ですから。勇者になる資格なんてありません。カイルが勇者になっている間にプラムの養生もそこで行えばいいです。北部に入れば夏でもひどく寒いので、体の直りが遅くなりますから」
「それでは戦力が低すぎるわ……プラムは必要なの」
「でも俺が勇者になったら困るでしょう? アイリス様の正当性はカイルが勇者になって魔王を倒すことに掛かっていると思います。今のままでは婚約者がいるのに浮気をしたことになりますが、カイルが勇者なら話は違ってきます」
「そうだけどプラムには来てもらわないと。浄化の力も必要なの」
「チェリーの魔法陣では無理ですか?」
「わからないわ。やり方は見つけているけど、やったことはないんですもの」
そんな、わかってるならやればいいじゃん! 本気で心中ねらいだったのか?
こんな中途半端な状態で魔王が倒せるわけねーだろ。
おいカイル! お前ゲームやってるんだから、今後の展開を知っているだろ? なんか情報出せよ!
胸倉掴んで揺さぶっても聞き出したいと思ったが口に出して言うことは出来ない。
「とにかくプラムをどこか安全なところで休ませるのは必要だと思います。彼女は働きすぎなんです。私がもっと役に立てればよかったんだけど……」
そう言いながらチェリーが悲し気に俯いた。魔法陣のレベルが低いから同じ浄化でも効果が薄いのだ。たいして役に立たないというのは彼女にとってこれまでのパーティーで受けた傷と同じだ。かなり辛く悔しいに違いない。
とにかくオーク退治の時に立ち寄った村まで戻ることになった。そうでないとプラムを休ませられないからだ。
お読みいただきありがとうございます。
まだ頭痛が残っていますが大分風邪もマシになりました。ありがとうございます。引き続き3日ごと連載続けてまいりますのでよろしくお願いいたします。
リアンのセリフに敬語と交互が入り混じっているけど、敬語はアイリスに、口語はカイルに言っています。




