第77話 罠
俺たちが王都を出てから3週間目の中頃だ。オーク退治からかなり時間たっているが俺たちは出来るだけ、冒険者の活動に重点を置くことにした。目的は早くカイル、サリー、チェリーにレベルアップしてもらうためにだ。こういう時にはプレイヤーでないことがもどかしい。仲間のキャラのステータスさえ見られれば、簡単に戦略を立てられるし、効率よく能力が上げられるのに。
だから地道に依頼されたモンスター討伐や盗賊退治を粛々と行っている。何かめぼしいアイテムなどが拾えないかと思っていたのだが、一番いいのがあのオークキングの剣で、あとは換金するしかない程度のレベルの低い物ばかりだった。
とはいえ今週中にオーガを退治して、下位デーモンを倒さないと魔王城へは進めない。
魔王城へ入るための条件が下位デーモンの討伐なのだ。しかも人数分、倒してないといけない。俺とアイリスは条件を満たしているのであと4体倒さなければならない。もし3体しか倒せない場合はサリーを宿屋へ置いて行くことが決まっている。
「みんな聞いてくれ。次のオーガ退治の作戦を考えてみた」
オーガとは人食い鬼というのが一番わかりやすいだろうか。巨人とまでは言わないが成人男性の最低でも1.5倍以上ある筋骨隆々とした巨体に毛が伸び放題、腐った肉の匂いを纏う怪物だ。人を喰らった後は腹が出る残忍な人型モンスターで、人肉食なのは人間に恐怖を与えながら効率よく魔素を吸収するためだそうだ。ただ頭があまり良くないというのがこちらの利点だろうか。
存在するだけで瘴気が発生し、どんどんその地を穢していく。ゴブリンやオークも同じだけど土地の荒廃ぶりは比じゃない。
それだけ強い穢れを纏っているので浄化魔法系が良く効く。つまりプラムとチェリーの魔法陣の出番だ。
「まずオーガの集落をプラムの聖女の結界で覆い、同時にチェリーの魔法陣で浄化魔法を発動する。奴らが弱ったところで残りのメンバーで襲撃し全部討伐する。概ねはこれでいいと思う」
「そんなに簡単に相手が弱るかしら?」
「もちろん半成りもいるでしょうから楽な討伐ではありません。アイリス様」
半成りとは、知能の低いオーガの中から下位デーモンに上がっていくような個体が時折現れるのだ。当然オークキングよりもずっと強い。頭のいい個体だけのエリート集団が出来て、まるで騎士のような見事な統率の取れた動きをし複雑な攻撃を仕掛けてくることも出来る。それでも浄化魔法は弱点なので出来るだけ全部に浴びせておきたい。
「この作戦は特にプラムとチェリーの比重が重くなる。それで彼女たちの側に魔法系の護衛がいる。この場合は俺だ」
「そうね、わたくしは剣にすべての能力を使うことになるから向かないわね」
「あたしも護衛が出来るほど強くないし」
そうアイリスとサリーは納得したが、カイルがごねた。
「おい! 俺も魔法剣士だぞ‼」
「ああ、だがオークキングの剣を使うために、ほとんどの魔力を身体強化に振っているだろ? これまでの討伐を見てもお前が魔法を使えばいいところで使っているところを見たことがない」
「あれは、魔力を温存しただけだ‼」
「それで1体20分もかけて倒していたら、体力の方がなくなるじゃねーか。いいか? 死んじまったら元も子もねーんだよ! 今回は俺たちにも余裕がない。枯渇するほど使っていたならともかく、少しの魔力で効率よく倒さないとオーガにやられる。それにオークのようにのろい動きならともかく、オーガは動きが速い。オークキングの剣を使ってとろとろ動くより、普通の剣を使って急所を狙って倒していった方が絶対いい」
「それであの剣をお前が持つって言うのか⁈」
「いいや、アレは俺には重すぎる。俺も普通の剣で倒しに行くよ」
「アイリス!」
カイルは自分の味方をするように呼びかけたが彼女は彼の意に反する答えをした。
「リアンの言う通りね。そしてプラムたちの護衛は一番危険で重要な所なの。以前のあなたなら頼めたけど、今のあなたには無理だわ」
「そこは俺がやんなきゃダメなんだよ!」
よくわからないがもしかしたらゲームの攻略上重要なポイントなのかもしれない。こういう時に細かな攻略情報を持ってないのがもどかしいな。
それで相談した結果、二手に分かれるのを止めて全員でプラムとチェリーを守りながら戦うことになった。俺としては彼女たちの魔法が完成するまで、気を惹いて欲しかったんだけどな。
俺、カイル、アイリスはオーガの集落が見えて魔法攻撃を仕掛けやすい所を探すために偵察に出かけた。あまりにも近いとプラムたちを危険に晒す。それにこっちから見えるということは向こうからも察知されやすい。だから身を隠しながら集落の状況がわかる場所を探しに行ったのだ。
だが条件に合う場所がなかなか見つからない。つまり知能の高い個体、半成りがいるに違いない。俺は作戦の変更を言い出そうとすると、アイリスがかなりおあつらえ向きな場所を見つけてきた。だがそこに足を踏み入れた瞬間、首の後ろがチリチリするような、何かやってはいけないことをやってしまったような気がしてならなかった。
これはリアン君の知識だ。半成りは知能も高くいろいろな罠が仕掛けてくる。それなのにこんなおあつらえ向きの場所があること自体おかしい。なぜなら彼らが自分たちの危険を呼び込む場所を残しておく必要がないからだ。ならどうしてここが残っている?
「マズい! みんな退避だ。これは罠だ‼」
そう思った瞬間、俺たちはオーガに囲まれていることに気が付いたのだった。
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