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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第76話 女心は難しい

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


 白い騎士服に着替えて地元の冒険者ギルドに魔石の換金へ行くと、オークを退治し穢れを祓った俺たちは熱烈な歓迎を受けた。ヤツらは人々をさらって殺し、森を荒らして人々を恐怖に陥れていたからだ。一部にはもっと早く来てくれれば被害者が減ったということも言われたが全員未成年の学生であり、なかなか許可が下りなかったと弁明したら渋々引いてくれた。


 サリーがここで食料を仕入れたいというので荷物持ちにチェリーを、使う野菜選びにプラムと行ってもらった。その間に俺とアイリスはここの鍛冶屋に俺の剣を修理できないか相談しに行った。オークキングが俺を攻撃したのは彼女の失態だからと弁償したいと言ってくれたからだ。

 鍛冶屋の答えはNOだ。剣を短くして新しい鞘をつけることを薦められ、それならアイリスの懇意にしている鍛冶屋の方がいいということになってしまった。ここに長居する暇はないしね。



「大事な剣だったのね」


「はい、学園に来る前に父から餞別としてもらいました。俺がシンプソン子爵家の跡継ぎになるために学ぶので、もうマクドナルド家に戻りませんから」


「そう……。シンプソン嬢は何というお名前だったかしら? どうしてお亡くなりに?」


「フレデリカです。下級デーモンの討伐に出かけたのですが、そこに上級デーモンがやって来たようです。一緒に行った勇士も死亡しました。全員武器を持っていた利き手だけを残して……」


 何のためにそんなむごい殺し方をするのだろうと思っていたら、アルが教えてくれた。


「悪魔の力になるのは人々の思念……恐怖や怨念などの昏い想い、そして魔素だ。世界を構成するすべては魔素になる。人もしかりだ。優れた勇士はより強い魔素に鍛え抜かれていて格好の獲物だ。恐怖を与えるために利き手は切り離し、残せば生き残った人々に恐怖を与える。他は最大まで吸収するために取り込まれてしまったのだろう。ただ契約したわけでないので、魂までは取り込まれていないと思う」


 魂を取り込まれると永遠に転生できない、ただの悪魔の構成魔素になるだけなんだという。そうでなかったことが救いだが、それでもやりきれない気持ちになる。


「彼女は俺に魔剣と爵位を残してくれました。魔剣は爵位に付随しているのでどうしても俺は貴族にならないといけません。本当は全然なりたくないんですが」


「わたくしとは逆ね」


「そうなんですか? アイリス様は平民になっても構わないんだと思っていました」


「わたくしはまだ子どもで、貴族の持つ力に守られているのですもの。剣聖としてこうして恵まれた討伐に出られたのも貴族だからで、ただの平民出の剣聖ならただひたすらに戦うことだけを求められていたでしょう」


 それはプラムへの対応を見て強く思ったそうだ。彼女は聖女と名乗っていなかったが、癒しの力があるので頻繁に国や教会から次から次へと癒しの仕事が舞い込んでいた。アイリスがいずれ自分と共に魔王討伐に連れて行くと言わなければボロ雑巾のように使い尽くされていたのだ。


「それから……その、ありがとう」


「何がですか?」


「あの剣のこと……わたくしの身の安全を考えてくれたのでしょう?」


 あのことでお礼を言われるなんて思ってもみなかった。


「そうですが仲間のカイルが使いこなせるなら、その方がいいかもしれません。あの条件が他の方法で開示されないとも限りませんし」


「……そうね」




 食料や消耗品の買い出しもすみ、次のオーガ討伐へ馬車を走らせる。俺以外は馬車の中だ。さすがに夏の日中は日差しが強くて、相当日焼けしたようだ。プラムに癒しを貰うほどで、その後も幌を掛けただけでは暑すぎるとさすがのカイルも女ばかりの馬車の中に乗り込んでいった。

 温度調整が出来るはずなのにと不思議に思っていたら、いつの間にか御者台の隣の席に座っていたモカがニヤリと笑った。


「リアンが忙しく働いているのに、アイツずっと昼寝してるんだもん。ちょっとぐらい痛い目をみたらいいのよ」


 どうやら彼女が日差しを遮らないように、エリーちゃんに言ってくれたらしい。


「別にいいのに。それよりアイツ、あの剣使いこなせそうか?」


 モカにはカイルの情報を調べてくれるようにも頼んであった。ヤツは弱いせいか、ひどく秘密主義で実力を明かそうとしないのだ。


「うーんとね、すごく下手だけどリアンよりは軽く持てるみたい。それでも身体強化必須。魔法剣士としては当てにしない方がいいよ。剣に振り回されているから」


「だよな。俺ももうちょっと体格が良ければなぁ。それでもアレは持つ気にならないけど」


 俺というかリアン君は男の娘ヒロインに選ばれるだけあって、華奢で背が低めなのだ。ヒロインたちの中では高い方だけど。それにオークキングの剣はなんとなく禍々しいのだ。よく切れるただそれだけで、それ以上の性能を求めたくない。



「俺さぁ、アイリスの気持ちがよくわかんないんだ。カイルの事疑っているくせに、自分が死んだら王になれる剣をすんなり渡すんだよ。モカならわかるか?」


 一応、同じ女の子だからな。ってかそういうことを聞けるのは彼女しかいない。

 モカはしばらく考え込んでいたが、1つの答えを出したようだ。


「あたしさぁ、前の人生の時は恋1つしないで死んじゃったんだよね。その後はずっと熊生だし。だから絶対とは言えないけど、信じたいんじゃないかな?」


「信じたい」


「だってアイツ、アイリスの恋人なんでしょ。どこかまだ疑いきれなくて、望みをかけているのかも……女心ってやつよ」


 それならそれでいい。でもなんか物騒な雰囲気もあったんだよなぁ。女心は難しい。



「そうそう、エリーからの伝言。折れた剣、直すって。エリーはね、神工匠かみのたくみっていうスキルがあるんだよ」


 エリーちゃんのいた世界の錬金術師は、俺が考える錬金窯に素材入れて錬成するだけじゃない。あらゆるモノづくりに精通して最適な素材でより良いものを作り出す職人なのだそうだ。だからヒトが作り出すありとあらゆる技術を学んだそうで、文化が変われば新技術もまた生まれるのでどんどんアップデートしてるんだそうだ。

 今回の場合は錬金術じゃなく、これを溶かして実際に鍛錬するという。


「エリーちゃんの、あのちっこい手で鍛冶するのか?」


「そうよ。火魔法の得意な子がお手伝いするの。エリーが火入れして、カンカン打つのよ」


「その、例のバレちゃいけない力が付いたりしないか?」


 剣に神力がついて、正体がバレてはいけないんだろ?


「だから普通の手作業でするんじゃない。でも1度だけ力が使えるようにするって。使い道をよく考えてね」


「……つまり、魔王と戦う時ってことだね」


 それなら魔王が倒れる時で、知られても問題はない。


「そう、でも魔王はプレイヤーであるカイルが倒さなきゃダメ」


「俺が上手くやんなきゃだめってことだね」


 責任重大だが俺が帰るためにはやらないといけない。心配が拭えたわけではないけど。


「大丈夫だって! あたしもできるだけ来るし、リカがサポートしてくれるからさ」


 そう言って背中をトントンされて、モカはリアン君の剣を持って鍋の中へ入ってしまった。

 モカはいつも前向きでいいなぁ。そんな彼女も1度死んでて、戦いに身を投じているんだ。俺は今この戦いをやるだけなのに、心の重たい何かがぬぐえなかった。



お読みいただきありがとうございます。

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