第73話 プロパガンダ
魔王討伐の旅に出発して1週間、俺たちはオークの集落を潰しに向かっている。メインはサリー、チェリー、カイルで癒しのためプラムも付けている。俺とアイリスは彼女たちが逃したオークを残さず仕留める役だ。
すぐ魔王城じゃないのかって?
だってこれは国王からの依頼だから、避ける訳には行かないんだ。
依頼されたのは4つでゴブリン、オーク、オーガ、下級デーモンとまるでレベル上げのために用意されたような敵だ。ゴブリンは3日前に倒して、オークの殲滅が済んだら、次はオーガだ。まだサリーたちだけでは不安なんだよな。でも彼女たちには是非強くなってもらわないといけないから、これらの依頼でレベルアップしてもらう。
この討伐をするときは国から与えられた白い騎士服を着用しなければならない。これは国王のイメージアップのためのプロパガンダだからだ。
清冽な剣聖であるアイリスとそれに付き従う若き騎士(ちゃんと騎士なの俺だけ)たちが、国王の命で危険なモンスターを退治して国中を回っていると印象付けるためのものだ。
最初のゴブリンの集落はそれほど難しくなかった。
まずプラムに俺たち全員へバフをかけてもらってから俺の風魔法で集落を覆い維持している間に、チェリーとカイルの火魔法で焼き討ちにしたのだ。集落外にいた残りをサリーとアイリスで倒して討伐完了だ。
だが白い騎士服がゴブリンの煤で真っ黒になった。いやゴブリンの成分は死んだら消えるのだが、一緒に焼けた集落の材料になった木々や動物の皮なんかはそのまま汚れとして残るのだ。全く白なんて戦闘に不向きな色合いだと思う。
汚れを落とす前に倒したゴブリンの魔石やドロップ品をみんなで拾う。これが俺たちの収入になり6:4で分け、さらに4を3等分して俺、サリー、チェリーで分ける。
魔石はともかくゴブリンのドロップに大したものはない。錆びたナイフはいい方で石器や木の棍棒など俺たちには使いにくい。
でも有用なのにみんなが拾わないものがある。それがゴブリンのふんどしだ。みんないらないようなので俺が拾う。これはリアン君の知識だが北部ではほとんどの季節が雪に閉ざされているので、外で火がつけにくい。だがこのふんどしならしっかりと燃えるのだ。
ゴブリンはよく燃える。別の世界でもそういう設定なのが多いそうだ。アル曰く、システムを作った神の1人が世界の基本設定の中にゴブリンはよく燃えるとしているのだという。理由は知らないそうだ。それを模倣しているから同じように燃えるのだろうとのことだ。
もちろん模倣していない世界では違っていて家族思いだったり、賢人のように思慮深い性格の者がいたり、とんでもなく練度の高い戦士がいたりするらしい。
「だからゴブリンは低能で弱いって思い込むのは危険だ。それは他の生命体もそうだ。リアンがもしまた異世界に転移してしまったら、まずはよく観察することだ。相手がどんな存在なのか。敵が味方か。仲間になれるか。姿が似ていて人間のように見えても人食いモンスターかもしれないからね」
討伐が終わったらプラムがその土地を癒す。モンスターの集落跡地は穢れていて、何年も使い物にならないのだ。これは聖女である彼女にしかできない御業だ。
彼女がその土地に跪き、祈りを捧げるとキラキラとした光が集まってくる。なかなかファンタジックな光景だ。そして燃えカスだった土がふかふかの腐葉土に変わり、いくつもの芽が生えてきたところで終了だ。これ以上癒すと魔力過多になって、再度モンスターが集まりやすくなるのだ。
次は騎士服の洗濯だ。実際に水で洗う訳じゃない。チェリーの浄化の魔法陣でキレイにするのだ。これは有料で俺もサリーも支払う。はっきり言って今回の討伐は金にならない。しかも向こうは6割取っているのだ。だけど彼女には結婚資金という金が要るのだ。
戦闘や移動に必要なものならサリーが経費として認めている。だがこの白い騎士服の洗浄はぶっちゃけ余分な仕事だ。国に黙って行けば、しなくてもよかった。
最初は仲間だからとプラムが請け負っていたが彼女には土地の癒しもあるし、白い服はすぐ汚れる。時には数時間も経たないうちにだ。戦闘は国王の依頼だけではない。盗賊が襲ってきたこともある。美女が多いので立ち寄った先の村人に見初められて、夜のお花摘みへ行った際に襲われかけたこともある。
だがそんなことよりも生活の汚れが少なくない。食べこぼしはカイル以外しないが、偵察に行けば土や草の汁で汚れ、狩りをすれば獣の血で汚れる。カッコイイと村の子どもに懐かれて、手の跡が付いているのを見た時ちょっと震えが走った。
なぜなら3日で十数回の浄化魔法にさすがのプラムも途中で根を上げ、チェリーも多すぎると拒否し始めたからだ。
それで決まったのが国王の依頼以外は白の騎士服を着用しないこと、その浄化はチェリーがしてそのかわりに洗浄代を払うということになったのだ。
ゴブリンの煤汚れは戦闘の結果だから経費として落ちるのでサリーが払ってくれる。お金を払うことにしてよかったよ。あの手の跡が付いていた時の、プラムとチェリーの目のつり上がりにはマジ殺意が含まれてた。
馬車の旅も大体安定してきている。最初カイルはブーブーっていたが、道中ずっと女子にばかり囲まれていると息がつまるらしく、自分から馬車上に登っていくようになった。そこなら横になって昼寝もできるしな。
俺はずっと御者台だ。別に自動走行だから中にいてもいいんだけど、そこでならエリカと話ができるし、時々お客さんが来る。
ある時例の鍋のふたがカチャカチャいうので、ふたを開けてみたらモカが入っていた。
「今日は熊鍋か?」
「イヤ―、食べないで!」
そうニヤリと笑ってお約束のように言いあってから、お土産のおやつを一緒に食べる。実はこれ俺の無事を確認するための、エリーちゃんの過保護の結果なのだ。
ちなみに御者台での話は外には漏れないので、馬車の中の女性陣も外にいるカイルも見聞きすることはない。
このひとときは俺がリアン=マクドナルドではなく、亮平として話ができる貴重な時間でもある。
まだ1週間にしかならないが、今のところは順調な旅である。
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