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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第4話 悪役令息アルフォンス=レッドグレイブ

BLっぽいキャラが出てきますが、全くその展開になりませんのでレイディングはつけていません。

よろしくお願いいたします。


 カイルの正体に悩んでいる俺に、今一番聞きたくない声が呼びかけた。


「マックダーナルくん、どうやらパーティーメンバーがいなくてお困りのようだね。私が友人たちを紹介してあげてもいいんだよ」


 そう言って俺の手を撫でさする。


 テンペストだ。

 コイツ自身は3年生だが、取り巻き(という名のハーレム)に1年生もいる。


 俺は絶体絶命に陥って、絶望のどん底に叩き落された。



「あの……その……、テンペスト様にお願いするなんて申し訳ないです……。俺はもう少し自分で仲間を探してみます……」


「いやぁ、マックダーナル君の慎み深さは本当に愛らしい。遠慮はいらない。是非頼ってくれたまえ」


 絶対イヤだ~~~~~!!!!!

 俺はうつむくしかできず、俺の背中につつーと汗が流れていった。




 すると後ろから突然、ジャケットの襟首を掴まれ引き寄せられた。


「おい! ピンク頭の愚民。

 お前、僕との約束を破ってサボっていいと思ってんのか! ブヒッ」


 何なんだ? 藪から棒に。

 顔を上げるとそこには、アルフォンス・レッドグレイブが立っていた。

 アイリスの婚約者で序盤のキモデブ悪役令息だ。

 近くで見たら、やっぱデカい!

 美形キャラによく使われるプラチナブロンドなのが、何の役にも立ってなかった。

 使うところ、間違ってる。


「ええっ?」


「お前は僕の部屋の片づけを手伝うと言ったくせに、約束を破るなんていい度胸してるな。ブヒッ」


 ちなみにこのブヒッは鼻息である。

 キモデブは見た目だけでなく部屋も汚部屋で、とんでもなく不潔な男なのだ。



「これはこれはレッドグレイブくん。今マックダーナル君はこの私と話をしているのだよ」


 テンペストは見るのも話しかけるのも嫌そうに顔を背けながら言った。


「これはこれはテンペスト卿。ですがこの愚民は昼休みに僕と約束したのです。ブヒッ。僕の方が明らかに先約ですな。ブヒッ」


 約束なんかしていない。

 だがそう主張したら、テンペストのハーレム入りだ。

 どうすべきか迷っていたらキモデブが畳みかけた。


「テンペスト卿、あなたのお母君がウチにいくら金を借りているかここで申し上げてもかまいませんよ。ブヒッ」

 そう言って贅肉とニキビだらけのデカい面は醜悪な笑みを浮かべた。


「何だと!」


 テンペストは気色ばんだが、この国でコイツの家に借金していない貴族の方が少ない。

 キモデブの父親レッドグレイブ男爵は天才的な魔道具師で魔法石の鉱山を持つ、この国の収入の半分を彼が担っているのだ。そしてその金で高利貸しもしている。

 アイリスの家が借金したきっかけになった災害は多くの貴族を苦しめていたのだ。

 この学校で借りていないのは、きっとリリーのペンシルトン公爵家ぐらいだ。


「ユーリス様、ここはこらえてくださいませ。この恥知らずはあることないこと申しかねません」


 ハーレムメンバーの一人が諫めて、テンペストは引くことにしたようだ。


「このような者と話すなど耳が穢れる。みんな行こう。マックダーナル君もいつでも私を頼っていいからね」


 そう言って立ち去った。



 姿が見えなくなると、キモデブはようやく俺のジャケットを掴むのを止めた。


「行った。急に掴んで悪かったな」


 ……助けてくれたのか?


「あの……その……えっと……」


 何を言えばいいのかわからない。なんか俺、坂本みたいになってる。


「ああ、君がテンペスト卿の取り巻きになりたくなさそうだったからおせっかいを焼いたまでだ。学園で彼にものを言えるのは僕か、ペンシルトン嬢ぐらいだからな」


「でも……」


 こんなやり方、ただ敵を作るだけだぞ?


「気にしなくてもいい。僕はもうすぐ退学できるのだから」


「えっ、それは10月の話じゃ……」


 するとキモデブ豚はすぅーっと表情を消した。



「リアン・マクドナルド。どうして君は僕が10月に退学すると知っているんだ?」


 しまった! メインストーリーだからつい言ってしまった。


「君とはもう少し話をした方がよさそうだ。さっきの言い訳だが是非僕の部屋の掃除を手伝って貰おう」


 贅肉だらけのニキビ面がニヤリと笑って、彼は俺の首根っこを捉えて部屋まで引きずって行ったのだった。




 キモデブ男こと悪役令息アルフォンス・レッドグレイブは貴族用の学生寮の最上階奥角部屋をもらっていた。


 首根っこを掴まれるのは止めてもらったが、途中から腹から抱えられて肩にかけられてしまった。階段が歩きにくいからという。

 俺は攻略対象であるがゆえに小柄で160あるかないかなのだ。

 歩けると叫んだけれど有無を言わさずだった。


 でもこれでエリカに会えるのは確実だ。

 1度くらい掃除手伝おう。




 レッドグレイブが部屋のドアを開けると、かわいらしい声がした。

 思ったよりも幼い?


「おかえりなさい、お兄さま」


「ただいま、エリー」


 ガッチリ抱えられてて、頭はコイツの背中の方なので見ることが出来ない。


「その人、どうしたの? おけがしてるの?」


「いいや、大事なお客様なんだ。彼はリアン・マクドナルドくんだ。悪いけどお茶の用意してくれるかな」


「リアンさんね。きずなっていいお名前だわ。お茶すぐ入れてくるね」



 パタパタと歩く音が軽い。

 どう考えても幼女としか思えない。

 でもメイドのエリカは、大人っぽい黒髪美女だぞ?

 動物の姿の時は真っ黒な狼なのだ。

 なんだろう? ギャップ萌え狙いでかわいい声の声優さん当てたのか?

 っていうかあんな美女にお兄さま呼びさせてるのがキモい。



 そんなことを考えていたらやっと地面に下ろしてもらえた。


「そこに座っててくれ。ローブを脱いでくる」


 レッドグレイブは学生だがすでに魔法士なので、制服の上にローブを着込んでいるのだ。これみよがしで厭味ったらしい性格を表している。



 示されたソファに座って待っている間、部屋を見分してみた。

 汚部屋設定のはずなのにとても広くてきれいだし、垢ぬけたモダンな家具が揃えられている。

 どうやらこの部屋は俺たち平民と違って、スイートになっているようだ。入ってすぐの客間以外にヤツが入っていった私室兼寝室とエリカと思われる女の子のいるところがキッチンなんだろう。

 汚いのは寝室だけなのかもしれない。

 よく考えればメイドいるんだから、普通きれいだよな。



「待たせたね」

 寝室のドアが開いたのでそちらを見たら、俺は驚きのあまりポカンと口を開けてしまった。


 さっきまでキモデブ男のデカすぎるニキビ面だったのに、身長こそはかわらないがすっきりとした細マッチョの絶世の美青年が目の前に立っていたからだ。


 お前、どこの乙女ゲームの攻略対象だよ‼ キモデブ男はどこに行った?


お読みいただきありがとうございます。

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