第1話 絶賛絶望中
たいへん久しぶりに投稿させていただきます。
タイトルは「それでもいせかいはまわっている」と読みます。
拙作『錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでください』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890677055/episodes/1177354054890677130
の続編になります。
読まなくても話が通じるようにしますので、少々説明的な表現がありますがお許ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
「悪いけどもうパーティーメンバーは決まってるんだ。
それにお前魔法剣士だろ。俺と被ってんだよね」
その後で小声で「だいたい男の娘なんてキモいし」と主人公である青い髪のカイルにつぶやかれたが、俺は断じて女装なんてしていない。女顔なだけだ。
◇
俺の名前は、川原亮平。ゲームをこよなく愛する以外は取り立てて目立つことのないごく普通の男子中校生(卒業予定)だ。もちろん本来の俺は女顔ではない。
そして今絶賛絶望中だ。
それについてちょっくら長くなるが俺の話を聞いてほしいって、いったい誰に言ってんだよ。
俺はちょうど高校受験も終わり、あとは1カ月後の卒業式だけってところだった。
受験が終わるまでゲームなしを乗り超え、念願の高校に合格した俺は健康に支障が出ない程度ならガッツリプレイすることを親に許してもらっていた。
それで行きつけの新品も中古ソフトも扱っている正規ゲームショップにとっておきの1本を買いに行った。
ここは一番安全性の高いカーライル社のVR機器のメンテを行える代理店でもある。
昔は古本屋でも中古ソフトを扱っていたらしいけど、今はVRが主流のため専門店以外の販売は禁止されている。
前の持ち主のプレイデータが残っていると個体識別ができなくなってデータがロックされてしまうのだ。
これは不正プレイを避けるためと、プレイヤーの精神が傷つかないようにするための措置だ。
だから下手な中古品を買うのはただただ無駄になる可能性が高い。
正規ショップでクリーニングしてもらったものでないと危なくて使えないのだ。
えっ? 新品買えばいいじゃんって?
普通の中校生がVRソフトをそんな何本もポンポン買えるかよ。
あれば中古で済ませたいってのが本音だ。
しかも俺はちゃんと正規店で新品を買ったんだ。これだけは断言したい。
店の中の扉を開けるとちょうど出てこようとした人物とぶつかりそうになった。
「す、すみません……」
消え入りそうな声で謝る相手を見れば、クラスメイトの坂本祐だった。
坂本はクラスの陰キャグループの一員で、いつも隅っこで集まっている。
グループが違うのでほとんど話をしないが、ユリもののアニメについて熱く語っているのを聞いたことがある。
俺に話したんじゃなくて、興奮してデカい声になってただけだけど。
「よう坂本。お前もゲーム買いに来たのか?」
「あっ、うん……」
「俺も買いに来たんだ。詳しいんだったらなんかおススメある?」
「あの……その……ごめん、俺急いでるから……」
「そっか、引き留めてワリぃ」
俺の言葉が終わる前にそそくさと坂本は去っていった。
袋に何本もソフトが入っているみたいだ。FXで儲けてるって噂本当かも。
仲良くないヤツとはあんま趣味の話、したくないみたいだな。
でもスゲーびくびくしてたな。前はもうちょっと元気そうだったけど。
俺は陽キャでもないけど陰キャってほどでもない。
なんていうか平凡モブだ。
だからジャンルが違うと思われてるのかもしれない。
とにかく気を取り直して店内を見てみると、今日は店長の村瀬さんはおらず、バイトのお姉さんだった。
ちょっとハズレ……。
いやお姉さんは悪い人ではない。
銀縁眼鏡に後ろで1つにくくっているだけの地味ななりだが結構な美人で、有名私大に通っているそうだ。
見るからに平凡そうな40代独身男性の叔父である村瀬さんと違って、とても壁があるのだ。
本当はゲーム知識もすごいし、プロゲーマーからも一目置かれるくらいのプレイヤーらしい。
ただしゲームキャラ以外の男は受け付けない(これも村瀬さん談)らしく、非常に話しかけづらい。
普段だったらレジさえやってもらえばそんな愛想なんてどうでもいいんだけど、今回は選んだ1本が中学生最後のゲームになるのだ。
だからどうしてもアドバイスがもらいたかった。
村瀬さんだったら、アナログゲームやギャルゲーの話にも乗ってくれるし、俺の好みもわかってくれていて最適な1本を選ぶ手伝いをしてくれたのに。
それでも俺は勇気を出して声をかけてみた。
このヒト、速水さんって言うんだな。
普段話さないので初めてネームプレートを見た。
「あの……、今一番おススメのソフトはありますか?
最新でなくても大丈夫です」
いや、へたれと言わないでくれ。
なんか妙な威圧感があるんだよ、このヒト。
好みとか、ジャンルとか伝えもしないでどうやって選ぶんだって感じだけど、これ以上言えなかったんだ。
でも意外なことにちゃんとした返答があった。
「ソルダム社の『レジェンド オブ フラワーヒロイン ファンタジア』」
こちらを見もしないで答えたが、返事が返ってきただけマシである。
それでまずはそのおススメのソフトを見てみた。
おお! やっぱいいかもしれない。
ソルダム社は有名なギャルゲーを出した会社で前はお堅い漢字の名前だったんだけど、その中でも一人のキャラクターが社会現象になるほどの人気を博したのだ。
その名は前野すもも様。
甘いオレンジピンクのふわふわ髪にサファイア色の大きな瞳、小柄で童顔だけど巨乳で均整の取れた姿な上に、主人公を思う健気で一途な姿にみんなのハートを打ち抜いたのだ。
あまりに人気が出て、その次のアイドル育成ゲームにも出るとその人気を不動のものにしたのだ。
彼女は今でもゲームから派生したVR清純派アイドルとしてトップクラスの人気者だ。その人気にあやかろうと社名をソルダムに変更したくらいなのだ。
もちろん俺もファンである。
えっ? プラムじゃないのかって?
だって男がプラム社のソフト買いにくいじゃん。
なんか甘―たるい感じがするんだよね。
いや、極甘ラブコメを求めてるときもあるけどさ。
で、この『レジェンド オブ フラワーヒロイン ファンタジア』は、すもも様がプラムちゃんと名前を変えて主人公の幼馴染として登場するのだ。
この名前と被んないために、ソルダム社にしたのかも。
内容はギャルゲー要素満載で、剣と魔法の世界での学園ものRPGだ。
出てくる女の子たちが花や果物の名前だからフラワーヒロインなんだって。
RPG要素のあるギャルゲーじゃないのかって?
ギャルゲー要素はヒロインたちを仲間にする手段で、最終エンドは魔王を倒すことだからRPGなのだ。
ちょっとしたキスやラッキースケベがあるくらいの全年齢向けだしな。
会社の総力を結集して作った作品で、看板キャラであるすもも様を投入してくるあたり本気度が窺える。
ネットでの評判も上々なので、気にはなってたんだよなー。
決めた! これにする。
中古ソフトを狙ってきたけど人気ゲームで在庫がなかったので、高かったけど俺は新品のソフトを買うことにしたのだった。
家に戻って、親に今日からゲームすると宣言して俺は準備に取り掛かった。
まず初見は公式ページに上がっていたメインストーリーとキャラクター情報だけを読んでプレイするのが俺の流儀だ。
攻略情報は2回目からでいい。
たとえそれでバッドエンドになっても、俺自身で選んだ答えならどういう結末になるかわかるからだ。
きちんと食事と水分をしっかりとってトイレを済ませた後、俺はカーライル社のゴーグル型VR機を取り付けた。
カーライル社は生体コンピュータとVR機器の第一人者である会社だ。
生体コンピュータとは、俺もちゃんとわかってるわけじゃないけどDNAにコンピュータの機能を埋め込むことによって脳を端末にすることが出来るんだ。
これによって端末を持ち歩くことも、電池切れの心配も、ウイルスに感染することも、ハッカーに情報を盗まれることも、他人にアカウントを乗っ取られることもない。
だってそのためには持ち主のゲノム情報のすべてを知らないといけないし、本人の思考の動きなんかも関係するんだせ。
つまり誘拐でもされない限り、絶対無理ってこと。
脳の機能さえ正常なら、目や耳の不自由な人に映像や音が届けられるんだ。
元々はこれを目的に開発されたらしい。
とにかく反応速度も速いし、計算なんかも正確にできる。
ただし昔は匿名での投稿が許されたけど、端末が自分の脳だからごまかしがきかない。
噂でだけどあまりに後ろ暗い情報ばっかにアクセスしていると公安に捕まるなんて話もある。
それに脳の機能に問題があれば使えないし、使用者の選択が大いに関係するので誤った情報にアクセスしてしまうことは避けられない。
宗教や個人の考えによって、使わないヒトもいる。
ものすごく少数派だけどな。
そしてもう1つ条件があって、15歳以上にならないと生体コンピュータはダウンロードできない。
海外では15歳の誕生日以降だけど、日本では中学卒業が義務付けられている。
つまり俺はまだ外部端末を使わないとダメなんだ。
それで俺はVRゲームをするために、幼稚園からのお年玉貯金で買える一番いいものを中学を入学した時に手に入れたのだ。
それから3年近くは経っているがとても快適で信頼できる機械だし、受験でしばらく使えなかったので、その間に行きつけの今日行ったショップでメンテナンスもしてもらっていた。
こいつともこのゲームでおさらばなんだな。
卒業したら、高校入学前に生体コンピュータに切り替えるから。
だからこそ、金をケチって半端なことしたくなかった。
重要なことだから何度でも言う。
つまりメンテしてもらったばかりのVR機と新品のソフトだったんだ。
だから何の問題もなかったはずなのだ。
それなのにログインしたら、突然エラー音が鳴り響いた。
『プレイヤーの個体識別情報が重複しています。プレイヤーの精神に異常をきたす恐れがあります。直ちにログアウトしてください』
う、ウソだろ……? 新品だぞ?
VRゴーグルだって、メンテの受け取りの時にちゃんと試運転もしたんだ。
もしかしてテスト品のソフトが間違えて交じっていたのか?
そう思って俺は急いでログアウトしたが、目の前が真っ暗になり意識を失ってしまった……。
カクヨムさんでもアップしていますが、そちらでは章題つけております。
「ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした」
あらすじ風長文タイトルです。
なろうさんが久しぶり過ぎて、使い方がわかっていません。
章題がつけられませんでした。
間違っていたらごめんなさい。
とりあえず続く間は毎日19時にアップします。今日だけ17時です。
時間変更しました。
あとそんなにストックないです。
どうぞよろしくお願いいたします。