第六章 鎖を断つ日
第六章 鎖を断つ日
美織が姿を消してから、金彦の世界は一変した。
朝、昼、夜、彼の心は不安と怒りで満ちていた。
「どうして……どうして俺たちを、こんなふうに引き離すんだ……!」
机に散らばった短冊を見つめながら、拳を強く握りしめた。
彼の母、優子は既に亡くなっていたが、金彦は母の遺した短冊に不思議な力を感じていた。
「お母さん、俺はもう我慢できない。美織を取り戻す。あの人の鎖を、全部断ち切る……!」
その日、彼はついに父・昭継の執務室へ向かう決意を固める。
豪奢なビルの最上階にある部屋の扉を叩くと、中から冷たい声が響いた。
「入れ。」
金彦は足を踏み入れ、震える声で言った。
「父さん、もう限界だ。美織を返してほしい。」
昭継は薄く笑いながら言った。
「いいだろう。だが、条件がある。」
その条件とは、これまで以上に厳しい制約と、金彦自身の未来を財閥の意志に委ねる契約だった。
だが金彦は首を横に振った。
「俺はもう、そんな鎖は受け入れない。母さんが願った自由を俺は守りたい。」
その言葉に、昭継は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに冷たい目を向けた。
「ならば、お前は家を出ていく覚悟を持て。」
金彦は決意を胸に、その場を後にした。
帰り道、彼は母の短冊を手に強く誓った。
「どんな壁があっても、俺は負けない。美織を必ず取り戻す。」
そうして、金彦の反撃の火蓋が切られたのだった。
夏の終わりが近づく九月初旬。澄んだ青空が街を照らすなか、金彦の胸は重苦しい雲に覆われていた。
美織が忽然と姿を消してから、もう一週間が過ぎている。学校でも家でも、彼女の存在がぽっかりと空いたままだ。
母の遺した短冊を何度も手に取り、彼はその一文字一文字に意味を探った。幼い頃、母が七夕に託した願い。それは、ただの夢物語ではなかったと知る日が来るとは。
「お母さん、俺は……もう、我慢できない。美織を取り戻したい。」
拳を机に強く打ち付け、金彦は決意を新たにした。
家族の名に縛られ、権力に翻弄されてきた過去。だが、もう逃げられない。今こそ、父・昭継と真っ向から向き合い、自らの意志で道を切り開く時だ。
豪奢なビルの最上階にある執務室。重厚な扉をノックする金彦の心は緊張に震えていた。
「入れ。」冷たい声が響く。
扉の向こうにいるのは、金彦が幼い頃から恐れてきた父親、天野昭継だ。圧倒的な存在感を放つ男は、まるで家族すらも自らの所有物としか思っていない。
「父さん、話がある。」
「何だ? 時間は無駄にできんぞ。」昭継は淡々と言った。
「美織を返してほしい。」
昭継は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに冷笑を浮かべた。
「フフ、息子よ。美織は単なる“コマ”だ。お前の自由なんて、そんなに甘いものではない。」
「俺はもう、家族の言いなりにはならない。母さんが願った自由を俺は守りたい。」
金彦の瞳は鋭く光った。
「ならば、覚悟を持て。家を出て行く覚悟だ。」
その言葉は、もはや彼の人生の分岐点を意味していた。
金彦は帰路、母の写真を手に取った。優子はかつて、どんな願いを込めて短冊を書いたのか。
彼女の想いは、今も金彦の胸に生き続けている。
「母さん、俺は負けない。美織を必ず取り戻す。そして、俺たちの未来を掴む。」
金彦の闘いが、今始まる。
学校の廊下で、金彦は携帯を握りしめていた。美織からの連絡は一切ない。父の圧力で彼女はどこか遠くに連れて行かれたらしい──そんな疑念が心を支配していた。
「美織、俺は必ずお前を取り戻す。」
強く決意し、彼は仲間探しを始める。バイト先の書店の店長、親友の慎也、そして昔の恩師。誰かに頼らなければ、この戦いは越えられない。
同時に、母・優子の残した日記と短冊を読み返す。そこには「自由と愛を掴むために諦めないこと」のメッセージが込められていた。母の想いが金彦に勇気を与えた。
一方、父・昭継は自らの権力を駆使し、金彦を完全に家の外に追いやろうとしていた。だが金彦の闘志は揺るがない。
「俺の人生は俺のものだ。」
少しずつ、金彦は自分自身を取り戻し、未来を切り開く強さを身につけていく。
金彦は夜の街を歩きながら、スマホで調べていた。美織が突然姿を消したあの駅前マンションからの移動先を探るためだ。しかし、天野家の力は強大で、情報は簡単には見つからなかった。
「…こんなに全てを覆い隠されるなんて。」
途方に暮れたその時、背後から声がかかった。
「探しているのは、これか?」
振り返ると、バイト先の店長、佐伯が手に一枚の紙を持っていた。
「え? どうして…?」
佐伯は静かに言った。
「俺も昔、似たような目に遭った。父親に縛られてな。でも、あきらめちゃいけない。これ、昨日、美織さんの友達から預かったんだ。」
そこには美織が金彦に送ったメッセージが書かれていた。詳細は明かせないが、何とか助けてほしいという切実な願いが込められていた。
金彦の胸に希望の火が灯る。
「ありがとう、佐伯さん。俺は絶対に彼女を取り戻す。」
その夜、金彦は慎也と会った。
「俺一人じゃ無理かもしれない。協力してくれるか?」
慎也はすぐに頷いた。
「もちろんだ。俺たちの友達を守るのは当然だろ?」
次の日、金彦は学校の図書館で母・優子の日記を読み返した。
「自由を願うなら、まずは自分を知ること。」
母の言葉が響いた。
金彦は母が幼い頃に抱いていた夢と苦悩を知り、自分の今の闘いが彼女の想いを継ぐことだと確信する。
金彦の決意は固まった。
「父さんの鎖を断ち切り、美織を取り戻す。」
その夜、彼は静かに星空を見上げた。
七夕の願いをもう一度胸に。
その夜、金彦は決心を固めていた。父の権力に押しつぶされそうになりながらも、彼の胸には母・優子の想いがしっかりと根付いていた。
翌朝、金彦は慎也と共に、密かに父の監視をかいくぐって動き出す。
まずは美織が移された可能性のある天野グループの関連施設を洗い出すため、慎也のコネを使い情報収集を開始した。
「父さんの手が届くところは、全部調べよう。どこに隠れても見つけ出す。」金彦の目はかつてないほどに鋭く光っていた。
同時に、美織が残したわずかな手掛かりを頼りに、彼女の意思を感じ取り、絶対に諦めない決意を新たにする。
だが、その動きは当然、父・昭継の耳にも入り始めていた。
「天野金彦。甘く見てはいけない。」冷ややかな声が重く響く。
権力と策略が交錯する中で、金彦の真の戦いが今、幕を開ける。