第五章 七つの仮面
第五章 七つの仮面
九月のある放課後。 金彦は、生徒会室の前で立ち止まっていた。
中では、生徒会副会長の如月 陸が、教師と何かを話している。
「――天野金彦の行動記録? ええ、まとめてあります。指示通り、週報にしています」
壁越しに聞こえたその一言で、背筋に冷たいものが走った。
“やはり、如月は……父の差し金だった”
彼は偶然などではなかった。
金彦の行動を監視し、美織との関係を引き裂くために送り込まれた、父・昭継の“手札”。
それが、如月陸の“本当の顔”だった。
偽りの転校生
その夜。
金彦は父の秘書に成りすまし、裏の情報ネットワークを通じて如月の履歴を洗った。
結果は明白だった。
・如月陸は実名ではない。戸籍すら偽装。 ・出身地は架空の町。 ・中学校の記録は天野グループの関連校
「……完全に作られた“監視者”だ」
金彦は机を叩いた。
「どこまで……俺を、縛る気だよ……!」
だが、それ以上に胸に迫るのは、美織を“利用”しようとする父の冷酷さだった。
金彦の誕生日、七月七日。
それすら“計画の一部”であったのなら、どこまでが本物だったのか。
――いや、美織の想いだけは、絶対に嘘じゃない。
そう信じていた。
決意の朝
翌日、朝のHR前。
「おはよう、天野くん」
如月が、いつものように微笑みながら声をかけてきた。
だが金彦は、その視線にまっすぐ返した。
「隠すつもりは、ないんだな」 「……何のことかな」
「俺は、お前の“仮面”を剥ぐ。その時が来るまで、好きに動け」
如月はその言葉に、薄く口元を歪めた。
「期待してるよ。……でも、君はまだ“駒”の役割すら知らない」
そう言い残し、如月は自席に戻っていった。
その姿を見つめながら、金彦は拳を握った。
“俺は絶対に、君に美織を渡さない”
姫路美織、攫われる
それから数日後。
学校を休んだ美織が、突然、連絡を絶った。
LINEも、電話も通じない。
焦った金彦は、駅前のマンションへ駆けつけた。
だが、そこに美織の姿はなかった。
「昨日、引っ越したみたいですよ」
管理人の言葉。
金彦は震える指で、美織の母親に電話をかけた。
『……申し訳ありません。急に、天野家の方から……進学支援の話をいただいて』
“父が、美織を奪った”
その事実が胸を貫いた。
その夜、金彦は一人、真っ暗な部屋で呟いた。
「奪ったのなら、取り戻す」
「……今度こそ、全部のルールを壊してでも」
決意の光が、闇の中で確かに燃え上がった。