表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二章 星空の誓い

第二章 星空の誓い

七月七日。 その奇跡のような一日が過ぎた翌日、校内はざわついていた。

「ねえ、昨日の放送聞いた!?」「あれ、公開告白ってやつだよね……」

教室の空気が妙にざわついているのを、金彦は黙って受け流した。例によって彼の机の周囲は半径一メートル以内に誰も近寄らない。だが、その目は昨日の放送の内容に釘付けだった。

本人たちが教室で語ることはない。

美織は普段通り女子グループの中に溶け込んでいたが、時折こちらをちらりと見て、すぐに視線を逸らした。

それが「秘密の恋」のルール。 年に一度だけ会える、ただの夢のような関係。

……のはずだった。

バイト先での再会

七月下旬、期末テストが終わり、夏休みが始まる直前のある夕方。

金彦は駅前の書店で、アルバイトのレジ打ちをしていた。

「いらっしゃいませー……」

と、何気なく顔を上げた瞬間。

「……あ」

視線がぶつかった。

目の前に立っていたのは、姫路美織だった。

髪をおろし、制服ではなく白のカットソーにベージュのスカート。夏らしい涼やかな装いで、手には小さな文庫本。

「え、えと……会うの、禁止じゃ……」

「本、買いに来ただけ。偶然だよ?」

にこりと笑う彼女の顔に、金彦は思わずレジ操作を間違えた。

「い、いらっしゃいませ……じゃなくて……! ちが、これは……」

「かねちゃん、緊張しすぎ」

小声でそう囁かれて、心臓が跳ねた。

他の店員や客の目を気にしながらも、ふたりの間に流れる空気は確かに違っていた。

「……ここで、バイトしてたんだ」

「うん。夕方のシフトだけ、週4で。学費のために」

「……そっか」

美織は少し、目を伏せた。

「かねちゃんって……やっぱり、ちゃんとしてるんだね」

「いや、そんなこと……」

照れたように首をかいたその瞬間、店内放送が流れた。

『天野くん、休憩交代お願いします』

「じゃあ……」

「ううん。せっかくだから、ちょっとだけ……」

美織が差し出したのは、小さなレシートの裏に書かれたメモだった。

『裏の公園、15分後』

金彦の心臓は、また跳ねた。

裏の公園にて

レジを後にして、制服のまま裏道を抜け、公園のベンチに向かう。

夕暮れが公園をオレンジに染め、蝉の鳴き声が夏を告げていた。

「こっち」

ベンチに腰かけた美織が、隣をぽんぽんと叩いた。

「……父さんに知られたら、まずい」

「わかってる。でも、あの日……あんな風に告白して、恋人になったのに……一年待てって、辛いよ」

「俺だって……そう思ってる」

ふたりは並んで座り、しばし黙って空を仰いだ。

「ねえ、もしさ……ほんとに、毎日会えたら……どんな感じなんだろうね」

「朝、駅で会って……一緒に登校して……昼休みは、お弁当一緒に食べて……」

「放課後、手を繋いで帰ったり、寄り道したり……」

「そんなの……夢のまた夢だ」

金彦が苦笑する。だが、美織は首を振った。

「諦めたら、ほんとに叶わなくなる。私は、来年までの365日、ぜんぶ……君の味方だよ」

そう言って、美織は金彦の手をそっと握った。

「だから、365日分の、想いを少しずつ、ここで渡しに来る」

「……毎日、じゃないけど。時々、偶然に」

「偶然って、便利な言葉だな」

ふたりは静かに笑いあった。

遠くで線路を走る電車の音が響いた。

それが、日常へ戻る合図。

「またね」

「うん。また偶然に」

夜風が吹いた。

空にはまだ星は見えなかったが――その代わり、心にははっきりと、誓いの光が灯っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ