90話 王太子、壇上で正式プロポーズ!? 公開の場で“悪役令嬢破棄”どころか結婚宣言ですわ!
卒業試験も無事終わり、学園では最終的な“卒業パーティー”に向けた準備が慌ただしく進められていた。
三年生全員が合格を果たし、あとはいよいよ祝賀会とともに学園生活を締めくくるだけ。私も、悪役令嬢として入学した当初は想像もしなかった穏やかな最終ステージを迎えていた。
そのパーティーは夜の大ホールで執り行われ、王太子リヒト殿下も特別に出席して生徒たちをねぎらう運びとなった。
元は「殿下が卒業生として壇上に立つのは少々オーバーなのでは?」という声もあったが、闇の王クーデターを乗り越えた後では誰もが「殿下もセレスティアも、学園の誇りですから!」と納得している。
もちろん私もアニーやガイ、アレクシスらと共に式の進行に協力する形になっていた。
そしてパーティー当日の夕刻、私は取り巻きやアニーの助力で特別なドレスに着替え、大ホールへと足を運ぶ。
すでに会場には在校生や保護者、貴族関係者が集まっていて、優雅な音楽が流れるなか卒業の祝福ムードが漂っていた。
私も「こんなにきらびやかな卒業パーティーになるなんて……」と思わず感慨深くなる。
やがて式が始まり、校長先生の祝辞や学園長の“卒業おめでとう”スピーチが続く。
クラス代表の挨拶を終え、次のプログラムとして「特別功労者の表彰」が行われることになっていた。
これは闇の王との戦いで功績を挙げた生徒たち
——つまりアニー、ガイ、アレクシス、私——へ、
学園および王家から感謝状を贈る形。呼び出しを受けて壇上に上がると、私たちは並んで深く一礼する。
場内には大勢の関係者が見守るなか、壇上でリヒト殿下が自ら表彰文を読み上げ、私たちを称えてくれる。
「今回のクーデター危機を乗り越えられたのは、諸君の働きが大きい。特にセレスティア・ノイエンドルフ殿とアニー・ブリジット殿は、聖なる輝きの合体魔法を放ち、闇の王を……」という凛とした殿下の声が響き、拍手が沸き起こる。
悪役令嬢だった私は何とも言えない気恥ずかしさを味わいつつ、褒められるのは悪くないなと小さく微笑む。
——しかし、そのあとに続いた殿下の行動は、私の想定を完全に越えていた。
表彰式が一通り終わった直後、殿下は私に向き直り、深呼吸のように胸を膨らませてから、大衆の面前ではっきり告げたのだ。
「セレスティア……俺はお前がいなければ国も、そして俺自身も破滅していただろう。今さら婚約破棄などあり得ないし、むしろ俺はもっと踏み込んだ形で、お前を正式に迎えたい。だから……」
そこで殿下はひざまずき、私の手をとってまっすぐ見上げる。
満場の視線が集中し、一瞬で会場が静まり返った。取り巻き令嬢ズやアニーは目を見開き、ガイとアレクシスも「おいおい、まさかここで……」と息を呑んでいるのが分かる。
殿下は微妙に震える声で続けた。 「セレスティア・ノイエンドルフ。……俺と結婚してくれ! これが正式な願いだ!」
会場が一瞬、押し黙る。そして次の瞬間、大きなどよめきと歓声が巻き起こった。
まさかの公開プロポーズに、生徒や関係者たちが「きゃあああ!」と興奮の声を上げ、拍手や口笛が飛び交う。
私自身も頭が真っ白になりかけながら、「え、え? いま……本当に私にプロポーズ……?」とパニック気味に呟く。
殿下はさらに手を握る力を強め、「国のためとかそんな次元じゃない。俺はお前が好きだ。この先、どんな苦難があっても共に歩いてほしい」と真っ直ぐに言葉を投げかける。
ああ、もう私はどうすればいいんだろう……。
私が破滅フラグを避けてきたどころか、こうして公式の場で愛の言葉を贈られているなんて。
取り巻きが涙を流して「セレスティア様〜!」と手を振り、他の生徒が「殿下、カッコいい!」と黄色い声を上げている様子を見ながら、頭がクラクラする。
しかし、私もこのまま逃げるわけにはいかない。ここで“断る”理由なんてどこにもないのだ。
殿下だって何度も共に戦ってくれ、私を破滅から救ってくれた仲間であり、今やかけがえのない相手。深呼吸して、私は顔を赤らめながら唇を開く。
「ふ、ふん……! ベ、別に嬉しくないわけじゃないですけど……断る理由がどこにあるのよ!」
我ながら変な返しになってしまい、場内からはさらに大きな拍手と笑いが起こる。
取り巻きが「ツンデレ炸裂ですね!」と言って指をさし、会場が温かい笑いに包まれた。殿下は安堵の表情を見せながら立ち上がり、私を抱き寄せるように軽く肩を支えてくれる。
「そっか……ありがとうございます!」 殿下が熱いまなざしで私を見つめると、周囲から「きゃー!」という歓声が再び飛ぶ。
こうして学園の壇上で、私は半ば公開的に殿下のプロポーズを受ける形になり、正式に「結婚します!」という宣言が結ばれたのだ。これまで幾度も「婚約破棄」が囁かれ、殿下自身も口にしそうになっていたのに……本当に遠い昔の話だ。
こうして祝福ムードが最高潮に達するなか、取り巻きやアニー、学園長や多くの生徒たちが一斉に拍手し、「おめでとうございます!」の声が飛び交う。
登壇したまま頬を紅潮させている私と殿下が、互いに照れくさい微笑みを浮かべる。誰も嫌味を言ったり邪魔したりしないのが、この学園の転生者だらけらしいところだ。
かつては王太子断罪イベントを警戒していた私が、逆に王太子から壇上で「結婚してくれ!」と堂々宣言されるに至った。
破滅が完全に消えただけでなく、王都や学園全体に祝福される最高の結末へ突き進む。胸が熱くなるほど恥ずかしいけれど、悪い気はしない。
式が終わるや否や、私はステージ袖へと殿下に導かれ、「ふぅ……恥ずかしかったわ」と顔を押さえるが、殿下は「悪い。けど、これが一番堂々としてると思ったんだ」と曖昧に笑う。
その横でガイやアレクシスが「殿下、やっと“王道ハッピーエンド”だな」「まあ俺の恋は実らなかったが、いいか」と言い合い、アニーが「これが新しいラブコメの形ですね!」と瞳を輝かせる。
取り巻きやレオナルトも寄ってきて、「姉上、おめでとうございます!」と涙ぐみ、「ああ、BL妄想は封印しますよ!」などと騒ぐ。
私はもう呆れつつも笑うしかない。本当に破滅ルートが存在した世界とは思えないほど笑顔に包まれた光景だ。ステージ裏には花束が積み重なり、祝辞の言葉がいくつも届けられている。今が“ハッピーエンド”の真っ最中だと実感する。
こうして学園の卒業パーティーでリヒト殿下が私に“結婚してくれ”と堂々宣言し、婚約続行どころか「もう結婚前提!」を公言する流れになった。
まさに徹底的に“断罪イベント”の真逆を突き進んだ私の運命。観衆が盛大に拍手喝采し、「これ以上の盛り上がりはない!」と盛り上がる雰囲気に浸りながら、私は「破滅」なんて単語を懐かしくすら感じるのだった.......
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