88話 パーティー本番、まさかの“婚約破棄やめます宣言”! 悪役令嬢の断罪フラグ、完全終了ですわ!
そしてやって来た卒業パーティー当日。
朝から学園のホールは華麗に飾られ、三年生はみんなドレスやタキシード風の礼装に身を包んでいる。
私も取り巻きにコーディネートしてもらい、淡いクリーム色のドレスに髪を結い上げたスタイルで会場入りしていた。
久々に“夜会”級の華やかな衣装だけれど、闇の王クーデター後の平和モードに馴染むにはちょうどいいのかもしれない。
会場を見渡すと、各テーブルにご馳走が並び、ステージでは先生たちが祝辞を述べ、在校生が拍手を贈ってくれる。
三年生全員が合格し、学園を巣立つお祝いの意味合いが強いパーティーだが、そこに王太子リヒト殿下が堂々と登場し、一斉に視線を集めた瞬間——私はちょっと胸騒ぎを覚えた。なぜなら、殿下がいつになく真剣な表情で、壇上へすたすた歩いているからだ。
「皆さん、この三年間、お疲れさまでした。国を揺るがすクーデターや闇の王の出現など、幾多の試練がありましたが、こうして卒業パーティーを迎えられたことを嬉しく思います……」
儀礼的な挨拶をしているが、声には微妙に熱がこもっている気がする。
近くにいたアニーや取り巻きも「殿下、なんかいつもと違う……?」とひそひそやり合う。
私も嫌な予感
——もしくは何か大きなイベントが起きそうな期待——を感じながら見守る。
すると殿下は壇上で、一通り学園生活への労いを述べたあと、急にこちら(私のほう)に視線を向け、少し笑みを浮かべながら言った。
「……ところで、俺はずっと“婚約破棄イベント”を狙っていたのだが……いや、正直言おう。この場で断罪を宣言しようと思っていた。それが俺の前世からの望みでもあったし……でも、どうだろう。いまや誰もセレスティアを悪役と見ていない。むしろ国を救った英雄で、学園でも皆から愛されている。俺が断罪を叫んでも、逆に俺が叩かれるだけさ……」
場内がザワッと揺れて、取り巻きや在校生が「え、今さら婚約破棄を言うの?」と戸惑うようにざわめき始める。リヒト殿下は堂々と続ける。
「だから、もう諦める。ここで断罪したって誰も喜ばないし、現実にはセレスティアとの絆が大きくなりすぎた。そう……結局、俺はセレスティアを破滅させるつもりだったけれど、やはり……俺の負けだ」
殿下の口から出た意外な告白に、私は呆気に取られる。
これまでモヤモヤ抱えていた“断罪イベント”を公の場で“もうやりません”と宣言したようなものだ。しかも堂々と「負け」と言い切っている。
取り巻きらが「ああ……ついに殿下がギブアップ!?」と呻き声を上げ、在校生も“え、何そのカミングアウト?”という戸惑い混じりの拍手をしている。
そんな騒然とした空気を意に介さず、殿下は続ける。
「……セレスティア、俺はお前を悪役令嬢と決めつけ、破滅フラグを煽るつもりだった。前世のゲーム脳で妄想してただけ。でもお前はそんな次元を超えて強くて優しく、ついには国を救ってしまった。今さら断罪なんか誰が信じる? ……だから、学園最後の舞台で改めて言う。俺はお前を婚約破棄しない。むしろこれからも隣で歩んでほしい」
もう、場内からは「きゃー!」という悲鳴に近い歓声が飛ぶ。取り巻きが「やったあ!」と涙ぐみ、アニーやガイ、アレクシスも微笑ましそうに拍手している。
私も心臓が高鳴りすぎて頭が真っ白だが、殿下が素直に“破棄をやめる”と宣言してくれたのは、非常にありがたい。それ以上に、こんなに大勢の前で堂々と告げるなんて思わなかったから驚きが大きい。
「は、はい……私も、破滅フラグなんてもう踏む気ありません……」
当たり前の返事が思わず口から漏れてしまい、周囲が爆笑したり拍手したりで一気に盛り上がる。
殿下は照れた顔で「俺も、もう悪役令嬢断罪とかどうでもいい。今はお前とならどんな将来でも受け入れられる」と小さく加えるから、会場はさらに歓声が大きくなる。
おそらく“公開告白”に近いシーンに化しているのだろう。
こうして殿下が「婚約破棄?」ではなく「続行」という結論を改めて表明した瞬間、期せずして私は学園生たちから「おめでとう!」と祝福される形になった。
いつもなら妨害者や当て馬がいて波乱を起こすかもしれないが、誰一人邪魔する者はおらず、悪役令嬢転生が完全に報われるハッピーな場面だけが広がっている。
最初に噂された“断罪パーティー”どころか、“結婚おめでとうパーティー”みたいになってきた空気を感じ、私は苦笑しつつも胸にこみ上げるものがあった。
三年前の入学時はビクビクしたのに、今こうして堂々とみんなに認められ、殿下が学園全員の前で「破棄なんてしない!」と宣言してくれている。どれだけ運命を逆転させたらこうなるのか、私自身が一番信じられない。
「……殿下、ほんとに断罪はあきらめるの?」
パーティー後、私は小声でリヒトを問いかけると、彼は照れを押し殺してそっと笑う。
「ああ、もういい。破滅フラグなんて時代遅れだ。むしろお前と結婚したいくらいだよ。……いや、実際、そうなる可能性高いけど、まあ、お前の気持ちも大事にしたいし」
「……ふふ、それでいいわ。私も、破滅はもうまっぴらよ」
二人のやり取りを眺めていた取り巻きが「やっと“王道ハッピーエンド”ですわね!」と目を潤ませ、アニーも「これが新しい学園ストーリー……本当に嬉しいです!」と優しく微笑む。
周囲の転生者も拍手や喝采モード。こうして、卒業パーティーの真っただ中でリヒトが正式に“破棄を取り下げ”宣言を行い、学園最後の断罪フラグが完全に潰えたのだ。
私はパーティー会場を出たあと、一人で空を見上げて思う。「もう私は破滅しないんだな……いや、最初からしなかったけど、これで完全決着ね」と。少し複雑だが、喜びのほうが大きい。
悪役令嬢転生にもいろいろあれど、こんなにあっさりと断罪フラグが消えるなんて、誰も予想しなかっただろう。本当に私がこの学園から卒業するときは、王太子との未来を夢見るだけで済むのだ。
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