08話 アレクシス公爵子息の闇オーラ、誰も怖がらないって本当!?
私が学園に入って数日。
授業にも少しずつ慣れてきた頃、「裏庭に怪しい魔力を感じる」という噂を耳にした。
「夜な夜な不気味な声が響き、謎の魔法陣がうっすら見える……」など、まるでホラーのような話だ。
私にとっては無関係……と思っていたが、どうやらその中心にいるのがアレクシス・ダイスフェルト公爵家嫡男らしいと聞いて胸がざわつく。
(アレクシス……確か、リヒト殿下の次くらいに家柄が高い公爵家の息子で、クールで近寄りがたいという噂だったわね。王太子ルートが定番なら、アレクシスはサブ攻略対象……とか?)
前世のゲーム知識だと、闇魔法を扱うキャラは中盤以降で“闇落ち”してシナリオを掻き回すケースが多い。
「ってことは、まさか私にとって新たな破滅フラグが……?」
不安になりつつ、私は放課後の裏庭へ足を運んでみる。
すると、やや陰気な雰囲気の木陰に、アレクシスが立っていた。――黒いマントを羽織り、手に杖を持ち、呪文らしきものをぶつぶつと唱えている。
「ふはは……この闇の力こそ、真なる力……いや、まだ不十分だ。いずれ王家をも凌駕する絶対的力を……!」などと、だいぶ中二病っぽいセリフを口走っているではないか。
(こ、これは……完璧に“闇魔法系ルート”突入の典型……!)
私は思わず物陰に隠れて見守るが、視界の端に見えたのは……同じく隠れてアレクシスを眺めている別のクラスメイト数名。
「あ、あれ闇ルートじゃない?」「ゲーム的にいうとダークヒーロー枠? でも本格的に暴れ出すまで様子見かな」などと呟いている。
(うわ、やっぱり周りも転生者だらけ!? しかも当事者のアレクシスが真剣に呪文を唱えているのを、遠巻きに“楽しそう”に観察しているって、どういうこと!?)
そのうちの一人が、私に気づいて「あ、セレスティア様も見物ですか?」なんて気軽に話しかけてきた。
「いや、見物って……あの人は闇魔法を使おうとしているんでしょ? 危ないんじゃ……」
「大丈夫ですよ、万一暴走しても誰かが止めるでしょうし。最悪、セレスティア様が光魔法を習得したらワンチャン勝てるかも?」
「ワンチャン……?」
私の耳にちょいちょい飛び込む元の世界の言葉。もう突っ込み疲れてきたわ……。
「……アレクシス、誰も本気で止めないどころか放置されてるけど、本人はどう思ってるのかしら……」
恐る恐る近づいてみると、アレクシスは呪文を途中でやめ、怪訝な顔でこちらを見た。
「な、なんだ……。こんなにも人が覗いているとは思わなかった。お前たち、怖くないのか? 俺は闇魔法を極める男だぞ……」
周囲のクラスメイトが「怖い怖い、あはは」と全然怖がっていない様子で曖昧に笑う。
アレクシスは「お、おい、ビビれよ!」と言わんばかりに眉間に皺を寄せているが、誰も悲鳴を上げないし逃げもしない。
(なるほど……“悪役令嬢を断罪する闇ルート”とかを狙っているのかもしれないけど、周りが全員転生者で事情を知っているからノリきれないんだろうな……)
私は気まずそうに「ご、ごめんなさい。私もいま初めて拝見しましたが……別に怖くはないです」と素直に言うと、アレクシスの目がピクッと動いた。
「そうか……なら、いい。しかし俺はいつか、この力で……ふんっ!」
最後だけ威嚇するように杖を振ってみせるが、クラスメイト数人が「は~い、お疲れさま~」と軽く拍手して立ち去っていく。
アレクシスは「お、おい……!」と食い下がるが、もう相手にされていない感じだ。
「……なによ、これ。私が求めていた“悪役ピンチイベント”でもなんでもないわ。むしろアレクシスのほうがピンチじゃない?」
呆気にとられている私に、彼は少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ふん、貴様もどうせ俺を小馬鹿にしているんだろう。いずれわかる……この闇こそが最強だとな」
「……そう、頑張ってね?」
結局、私にはどうすることもできず、その場を離れるしかなかった。
アレクシスが闇魔法の習得に励もうが、周りは「そのうち何か起きるかもね~」くらいにしか思っていない。
そして私は私で、うまく“悪役令嬢イベント”を起こせないまま、日々を過ごすことになったのだった。
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