77話 婚約破棄どころではなく“俺たちの世界”を守る連携…私、泣きそうなくらい感謝していますわ!
「セレスティア、今は婚約云々じゃない……お前と力を合わせる!」
殿下が歯を食いしばりながら、王宮ホールの混乱の中で私に駆け寄ってきた。
闇の王は魔力の奔流を絶えず吐き出し、あちこちから悲鳴や衝撃音が鳴り響いている。私はアニーを支えつつ、何とか踏みとどまっていたが、もう体力が限界に近い。
それでも殿下が私のそばに来てくれた瞬間、少し心強く感じるのは事実だ。かつての断罪イベントなど今や完全に消え失せ、彼も私を“国にとって必要不可欠な存在”と認めている。
「俺が王太子として最善を尽くす。だが今はお前がいないと勝てない。アニーやガイ、アレクシス、みんなが協力してくれる……国を守るのは、俺たち全員の仕事だ!」
その言葉にガイが
「そうっすね! もう婚約破棄とか言ってる暇ないっすよね!」
と血気盛んに笑い、アレクシスが「……ああ、俺も過去の野心なんて捨てたんだ。闇王を倒さずにこの世界が崩壊するわけにはいかん」と不敵な笑みを返す。
アニーは「はい、私は聖女としてここで倒れられません!」と必死の形相。
こうして私たちが意を決して闇の王に再チャレンジしようと息を合わせたとき、闇の王が「ふん……下らんヒロイックごっこは終わりにしてやる!」と豪快に腕を振り回し、ホールの半分を覆うほどの闇の波動をぶつけてくる。
一発で十数名の騎士が吹き飛ばされ、ガイや殿下も苦痛の声を上げながら踏ん張る。私だって後方に大きく弾かれ、壁に背中を打ちつけてしまった。
「ぐっ……強すぎ……!」と血を吐きそうになるほどのダメージを受けながら、それでも光を絶やすわけにはいかない。
私たちが協力して何とか耐え、その後ろでアニーが回復魔法を展開してくれる。
アレクシスは防御陣を張り直し、ガイが立ち上がって剣を構え直す。殿下も剣先を震わせながら「まだだ……こんなところで負けるわけがない!」と叫ぶ。
私が歯を食いしばりながらアニーと視線を交わす。
「アニー、もう一度やりましょう、合体魔法を……!」
アニーも苦しげだが、「はい、最後の力を振り絞ります……!」とうなずく。
今回ばかりはタイミングを揃えなければならない。殿下、ガイ、アレクシス、そして残存の騎士団が闇の王を引きつけ、私たちが落ち着いて詠唱できる時間を稼ぐのだ。
殿下は短く指示を出す。
「よし、アレクシス、ガイ、俺と一緒に正面から特攻する。どんなに痛くても怯むな。セレスティアが詠唱を終えるまで数秒でいい、耐えるんだ!」
「おう、任せろ!」とガイが吠え、アレクシスは「まあ死にかけたが、もう一度やるしかないな……」と気持ちを整える。
騎士たちも「王太子殿下とセレスティア様を守れ!」と気合いが入っている。
そして全員が意を決し、闇の王へ突撃する。
黒い稲妻のような魔法が幾重にも襲いかかるが、殿下たちが体を張って受け止め、瓦礫と化した床を血まみれになりながら踏み込んでいく。
その壮絶な光景は、かつての学園の平和な日常では考えられない。私の周囲も、騎士団員の呻きや魔物の咆哮が入り混じり、一面の地獄絵図みたいだ。
でも、だからこそ私は泣きそうなほど感謝している。みんなが一丸となって私とアニーに力を託してくれているのだ。
かつては“婚約破棄”とか“悪役令嬢断罪”とか、そんなレベルで騒いでいた殿下もいまや迷いなく前線で血を流して戦っている。私を守ってくれている。それだけで胸が熱くなる。
私はアニーを抱えるようにしてホールの隅へ移動し、合体魔法の詠唱を始める。魔法の集中を乱すものを排除するため、アレクシスの結界と騎士団が壁を作ってくれている。破滅フラグどころか、破滅を阻止するための陣形だ。
「光なる力よ……聖女とともに……魔を打ち払い……」
「聖なる祈りと光の共鳴、世界を護る意志に答えて……!」
先ほどの失敗を繰り返さないよう、深い呼吸で魔力を高め、アニーとのシンクロ率を上げる。
頭の中で“この一撃で闇の王を削るんだ!”と念じると、身体の奥からかつてないレベルの光熱がこみ上げてくる。
視界の端で騎士団が次々と闇の刺突を受け悲鳴を上げるが、どうにか守りを崩さず踏みとどまっている。ガイや殿下も瀕死になりながら闇に斬り込んでいる。
私が成すべきは、ここで最強の光を放って結果を出すこと。
「あとは私たちが頑張るんだ……アニー……!」
アニーが震える声で「はい、セレスティアさん。絶対に負けません!」と呼応すると、私たちの周囲が眩い結界に包まれる。
合体魔法の前兆で、私の杖先が虹色を帯び始め、アニーの聖女光と混ざり合う。感覚としては頭が焼けるほど熱く、同時に魂が研ぎ澄まされるような恍惚もある。
闇の王が「あの光は……! ちっ、そう簡単に詠唱などさせるか!」と怒声を轟かせ、凄まじい闇の波を送り込むが、ガイや殿下が必死にブロックし、アレクシスが封鎖を補助し、騎士団が縦列で受け止める。
血飛沫が舞い、瓦礫が砕け、悲壮な光景だが、誰も退かない。
みんなが歯を食いしばり「ここが山場だ……セレスティアとアニーが放つまで!」と声を合わせる。
「すぐ終わるわ……お願い、頑張って……!」
私は叫び、さらに光を溜める。手が熱く痺れて、体力も限界近いが、ここで逃げるなら国は潰れる。
悪役令嬢の破滅なんて可愛いレベルじゃない、国崩壊にみんなが巻き込まれる。だから私は逃げない。残されている力をすべて注ぎ込み、これまで積み重ねてきた“光の奇跡”を信じる。
そしてついに、合体魔法の詠唱が最終段階に達したと感じたとき、私とアニーは目を合わせて短くうなずく。
あとは一気に放つだけ――。
私は杖を振り上げ、アニーが祈りの手を天へ伸ばす。
「さぁ、これで終わりよ……!」
光が膨れ上がり、空間がびりびりと振動する。
闇の王もそれを察知し、最後の猛攻を仕掛けようと腕を振りかざしているが、殿下やガイが身体を張って防いでくれている。
アレクシスも必死に闇魔法で逆流を止めている。騎士団が口々に「セレスティア様、アニー様、お願いします……!」と心の底から叫ぶ声が聞こえる。
もう泣きそうだ。かつては婚約破棄を恐れていた自分が、この国の最後の希望としてここまで期待されるなんて……。だけど、だからこそ私も応えなきゃならない。
「闇よ、消え失せろ……!」
私たちは同時に大叫びし、光の特大ビームを闇の王の懐へ叩き込む。その瞬間、ホールが白一色に染まるほどの閃光が炸裂し、轟音と衝撃波が辺りを吹き飛ばす。
周囲の瓦礫や魔物が次々と消し飛び、闇のオーラも断片的に崩れ去っていく。誰もが目を閉じて耳を塞ぎ、巨大なエネルギーの爆発を感じるのみ。
(やったか……!?)
閃光が収束し、私はぐったり膝をつきながら視線を上げる。目の前には深い黒煙が立ちこめ、瓦礫の山のようになったホールの中央が見え隠れしている。強烈なエネルギーを叩き込んだのは確かで、闇の王の姿が一瞬かき消えたように見えた。
周囲の仲間たちが苦痛の声を上げつつも、お互いを支え合って立ち上がり、「倒したのか……?」と息を飲む。誰も確信が持てない。私もアニーも魔力を使い果たし、立っているのがやっと。
「はぁ……はぁ……」と大きく息を吸う。
あれだけの力を放ってなお、闇の王が死ななかったらどうするんだろう?
私とアニーは完全にエネルギー切れに近い。騎士団だってほとんど戦闘不能。ガイや殿下も満身創痍だし、アレクシスもよろめいている。これ以上の攻撃はもう難しい。
「お願い……倒れて……」と心の中で祈る。
私が破滅しないためにも、そして国が滅びないためにも、ここで勝利しなくちゃいけない。けれど――
黒煙の奥から、かすかにあの低い笑い声が聞こえた。
「……愚かなる人間ども。よくぞここまで追い詰めたが……まだ私を滅ぼすには至らぬよ……」
私は背筋が凍る思いだった。煙の向こうに、うっすらと闇の王の人影が残っている。
確かにオーラは弱まった感じはあるが、完全には消えていない。頭の中が真っ白になる。
これだけやって倒せないなんて……どうすれば?
たちが総力を結集したにもかかわらず、闇の王を仕留め損ねる絶望感が滲む。何度も婚約破棄の危機を乗り越えてきた私が、ここへ来て“国崩壊”という本当の破滅フラグに直面している。
しかし仲間たちとの連携は確かで、ここで諦めるわけにはいかない。
そう、これは“俺たちの世界”を守るための戦いであり、もう婚約など二の次。私は涙を浮かべながら、闇の王のシルエットを睨む。
次の一手をどう出すか――魔力は空だが、何か奇跡を起こす方法はないのか……。
「闇の王を、本当に倒す手立てはあるの……?」そんな不安が胸を蝕むが、私は立ち止まるわけにはいかないのだ……
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