76話 セレスティアの光魔法VS 闇の王、激突…でも勝てる気がしませんわ!
アレクシスを救出してから数秒後、王宮中央ホールのど真ん中に立つ“闇の王”へ向け、私たちが総攻撃の構えを取る。
しかし、目の前に広がる漆黒のオーラは尋常じゃない。ホールの天井がくすんだ黒色に染まり、床には魔法陣が複数重ね合わせて描かれ、そこから新たな魔物が次々と生まれているように見える。
「もう少しで空気全体が闇に満たされる……急がなくちゃ!」と私が焦りを口にすると、ガイが「おう、突っ込むぞ!」と勢いよく前へ飛び出し、巨大な剣を振るって魔物を切り裂く。
殿下も後に続き、二属性魔法で闇の使い手を牽制する。アレクシスは封印用の闇術を構え、アニーは後方から回復と補助を乗せる。
私が光魔法で援護しながら、最終的な一撃を狙うという流れだ。
「よし、先に雑魚を片付けて闇の王に集中砲火するのね!」
仲間同士で声を掛け合い、手際よく魔物を倒していく。
小~中型クラスなら前に比べて速やかに浄化できるようになり、モンスターの群れこそ多いが何とかなる気がする。問題はホール中央にどっしりと構える闇の王本体だ。
私が少しずつ近づいて杖をかざすと、あちらは私を意識したのか、冷やかな声を上げる。
「光の娘か……さっきの闇使いよりは厄介そうだな。だが、結局はこの圧倒的闇に呑まれるだけ」
挑発を受け流し、私は光の束を相手めがけて放つ。するとホール全体が閃光に染まり、周囲にいた魔物の大半が絶命したように見えるが、闇の王はまったく怯む様子もない。
私の光が届く前に、黒いヴェールを纏うように体を護ってしまうのだ。殿下やガイが隙を突こうと攻めても、黒ヴェールに剣先が跳ね返され、アレクシスの封印術も相殺される。
「くっ……固い! あんなバリア、どうすれば壊せるのよ!」と私が歯ぎしりする。
闇の王は高笑いしながら、腕を振りかざし、凄まじい衝撃波を放つ。
周囲に“闇の衝撃波”が波紋のように走り、私たちの足元が崩れかける。
騎士団も入り口付近で応戦しているが、闇の圧力は段違いで、皆が踏ん張るだけで精いっぱい。殿下が「セレスティア! あれを使え! 合体魔法か何かで一気に打ち崩すしかない!」と叫んでくる。
私も分かっているが、アニーと落ち着いて詠唱合わせをする余裕がないほど場が混乱している。
それでもやるしかない。私はアニーを手招きし、「アニー、あの合体魔法に賭けるわよ!」と指示。
アニーは震えながらも「はい、分かりました……ただあんな大きな相手に当てられるか……」と不安げだ。
殿下やガイ、アレクシスに「今から合体魔法を組むから少し稼いで!」と告げると、彼らは頷いて闇の王へ突撃していく。
正直リスキーすぎる行為だけど、私たちが大技を溜める間、少しでも相手の注意をそらしてほしい。
ガイの剣が闇のバリアに阻まれ、殿下の魔法も霧散するたび、彼らは痛ましい悲鳴を上げながら後退を余儀なくされるが、何とか耐えている。
一方、アレクシスが「フン、闇の王だかなんだか知らんが、俺と同じ闇系統……ここを封鎖してやる!」と意地になって術式を発動させようとするも、敵の圧倒的オーラに押し返されてしまう。
「うがっ……! やっぱり駄目か……」とアレクシスが苦悶の声を上げる横、アニーと私はホールの隅で向かい合い、必死で合体魔法の詠唱を開始する。
「光なる力よ、聖女の祈りと共に集え……!」
「聖なる大地よ、光の導きを……!」
二人の声が融合し、周囲にパチパチと電流にも似た白い閃光が走る。
訓練場で試したときのような熱が体の中心から立ち上り、私の杖にアニーの聖女力が乗ってくる。ホールの空気がピリピリ震え、周りの騎士たちが「な、何だ……すごい光だ!」と叫ぶが、私たちも集中で頭がいっぱいだ。
(この一撃でバリアを壊せるかもしれない……闇の王を倒せなくても少しはダメージを与えられるはず!)
私は息を飲み込み、アニーと目を合わせる。「せーの……!」で杖を大きく振りかざし、中央に向けて叩きつけるように光魔法を解き放つ。
「聖女×光」合体魔法が眩い光線となってホール中を満たし、闇のヴェールに一直線に衝突する。一瞬、闇と光がせめぎ合い、爆音とともに閃光が弾ける。
「……やった!? バリアを破った?」
私が目を凝らすと、たしかに一部が崩壊しているように見える。しかし闇の王は後ろへ大きく後退するように浮遊し、闇のオーラを再度纏い始めた。完全には破壊しきれていない。
「小賢しい……だが、この程度の光では我を討てぬ」
低い声が響き、闇の王のシルエットがまだはっきりと残っている。
アニーも膝をついて「ごめんなさい、セレスティアさん……ダメージは入ったけど、決定打にはならなかったみたい……」
と泣きそうな顔だ。私も呼吸が苦しいほど体力を削られ、すぐには二撃目を放てない。
それでも闇の王のバリアが一瞬削れたことにより、殿下やガイたちが一気に前へ突撃するチャンスが生まれる。彼らが闇の王の懐に入り、攻撃を加えるが、今度は霧のような闇が渦巻いて剣を受け流され、反撃の黒い槍が乱舞してしまう。
何度かガイが危うく貫かれかけ、殿下が間一髪でかばうシーンがあって冷や汗ものだ。
「ぐぅう……! かなり強い……! セレスティアでも、合体魔法でも崩せないなんて……!」とガイが悔しそうに唸る。
殿下も「くそ! やはり国崩壊フラグを折るにはこれだけじゃ足りないのか……」と苦い顔をする。
アレクシスは闇の封鎖を狙うが、圧倒的な力の前に歯が立たない。「やはり俺とやつでは格が違いすぎる……!」
このままでは私たちが先に力尽きるかもしれない。
アニーと私で発揮できる“合体魔法”も一発放ってしまい、再チャージには時間が必要だ。魔物の数も衰えず、部屋の奥から湧き出てくる。
今はまだ闇の王が本調子ではない?
それでもこの強さ……。
「どうすればいいの!? 何か大きな策を……」と私が息を切らして叫ぶと、殿下が目を血走らせて「アレクシス、ガイ……それに騎士団のみんな、総力で奴を押さえ込み、もう一度セレスティアが大技を撃つ時間を稼げ!」と指示を出す。
騎士たちも「はっ!」と即答し、集団で闇の王に突撃を仕掛ける。
私とアニーは再び息を整えながら合体魔法の再チャージを試みるが、闇の雰囲気が濃すぎて集中が乱れがちだ。かたわらのアニーが「うう、頭が痛い……」と呻き、私も眼前がチカチカする。
どこかで大きな魔力衝突が起きているせいか、闇の波動が何度も襲ってきて体が重い。
「きゃあっ!」という悲鳴が後方から聞こえ、振り返ると、騎士団の一部が闇の呪いを受けて倒れ込んでいる。そこに崩れた瓦礫が落ちかけるのを見て、慌てて私は光バリアを展開し、防ぐのが精一杯。
とても再度の大魔法を練る余裕はない。こんな混戦状態じゃ集中できないし、みんなのサポートが追いつかない。
「もう……どうしたら……」と視界が滲む。
闇の王はいまも悠然と浮かんでおり、「愚かな人間ども……私の闇から逃れる術はない」と冷酷な声をホールに響かせる。
その声に紛れて聞こえるのは、ガイや殿下の苦闘のうめき。アレクシスが必死に闇を相殺しようとしている音。そしてアニーが必死で回復を唱えている声。
私だって光でフォローしているが、どれほど粘れるか見通しが立たない。
(やっぱり一発の合体魔法じゃ足りないんだ……こんな圧倒的な闇が相手じゃ、何倍にも強化しないと倒せない。どうすれば? 私自身がもっと力を引き出せればいいけれど……)
そんな焦りのなか、私はわずかに希望を捨てない。これがまさに決戦前夜の苦戦。最終的にもっと強力な“聖女×光”の上位版を発動できれば勝機はあるかもしれない。
私とアニー、殿下たちが協力すれば必ず道は開けると信じたい。
でも現状はただ激突するしかない。私たちは闇の衝撃を食い止め、わずかな隙に光弾をぶつけてはあしらわれ、騎士団が次々と傷ついていく。
私がエネルギーを溜める暇を与えないとばかりに、闇の王は絶え間なく黒い波動を放ってきて、こちらを翻弄する。
合体魔法で一度はバリアを削ったものの、完全には壊せなかった。仲間たちが踏ん張っているうちにもう一回……と考えるが、敵の攻勢が強まる一方で、思うように力を合わせられない。
破滅フラグを乗り越えたはずの私が、ここで闇の王に負けてしまったら、それこそ国が破滅してしまうではないか。
今のところ、光魔法も圧倒的には届かず、心が折れかける。一体どうすれば突破口を見出せるのか……
すさまじい闇の威圧感に膝が震えながら、私は必死に光をかき集め、次なる一手を探っているのであった……
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