70話 王都に魔物大群襲来、クーデターの予兆…私、まったく気が休まりませんわ!
王宮地下の捜査計画を進めようとしていた矢先、思わぬ事態が起きた。
ある夜、王都の郊外で魔物が大規模に出現し、農村を蹂躙したという報告が入ったのだ。
もともと小競り合いは続いていたけれど、今回ほどの大群は珍しい。しかも複数ヵ所でほぼ同時に暴れたらしく、騎士団や近衛が出動しても完全には抑えきれなかったらしい。
私もガイやレオナルト、アレクシスから連絡を受け、急いで騎士団側の支援に回ろうとしたが、王都に点在する複数の“魔物拠点”へ同時出動がかかっていて、指揮系統がパニックになっている。
さらにはリヒト殿下が「俺も参戦する!」と王宮を飛び出し、あちらこちらを奔走しているとの情報が入ったが、やたら無茶をしていないかと気が気でない。
結局、その夜から翌日にかけて、魔物の大群が王都郊外から順次せり出す形で街を脅かし始め、農村部のみならず市街地のほうにも一部が侵入してしまった。
私は光魔法をフル活用し、ガイと連携して何匹も撃退したものの、被害は完全には防げず、一部の建物が破壊され、住民が避難を余儀なくされる。まさに“これまでの小競り合い”を超えた規模だ。
「どうやら本格的に闇の勢力が動き始めたわね……。このタイミングで、しかも複数箇所で一斉に魔物が出てくるなんて、絶対に狙った行動よ」
息を切らせながら私が言うと、ガイが剣を肩に担ぎながら歯噛みする。
「ああ、こんなに手間取るなんて……黒幕が指揮してるなら、まるで軍隊並みに統率が取れてる感じだ。くそ、俺が何匹斬ってもキリがない!」
また、アレクシスは危機感をむき出しに「これは“クーデターの予兆”かもしれないぞ。闇の王が本気で王都を揺るがすなら、外から魔物を送り込みつつ、どこかで核心を突いてくる可能性が高い」
とぼそぼそ呟いている。
私も同感だ。
もし魔王が現れれば一瞬で戦況が崩壊しかねないし、騎士団がどれだけ奮闘しても今のままでは防ぎきれるか分からない。
それでも幸い、私が光魔法を全力で展開すれば中型クラスの魔物はほぼ動きを鈍らせられるし、ガイと殿下、騎士団がそれを斬り伏せる連携は一応機能している。
アニーや取り巻き令嬢ズも後方で回復・援護を担い、被害は最小限に留められているが、どれほど続くかが問題だ。夜通し戦闘すればこちらが疲弊するし、相手が引く気配は見えない。
その夜が明けて、なんとか緊急事態が落ち着いた頃には、
王都の一部が煙を上げ、農村が荒らされて哀れな光景が広がっていた。犠牲者こそ少ないものの、多くの民が家を失い、泣きながら騎士団の支援を待っている。
私も疲労困憊になりながら、救護に走り回った。すると現場で殿下とばったり会い、彼が「セレスティア……大丈夫か? 無事でよかった」と珍しく気遣ってくる。
「私は平気。殿下こそ、すごく動いてたわね。色んな拠点を回ってるって聞いたけど……」
殿下は苦渋の表情を浮かべ、「ああ、俺も必死だったが、お前の光魔法ほど決定力がないからな……。ともかく犠牲者が最小で済んだのは大きいが、こんなのまだ序章の気がするよ。クーデターが本格化すれば、もっと大変なことになる」とうつむく。
クーデター――それはつまり、“闇の王”なり闇魔導書の真犯人なりが、王家や王都の中枢を攻め落とす計画を進めているという意味だろう。
今回の魔物大群襲来がもしデモンストレーションにすぎないなら、次こそは王宮へ直撃するか、あるいは国王や殿下が狙われる最悪のシナリオが現実化するかもしれない。
私も薄々感じていたが、殿下の表情からは確信に近い不安が読み取れた。
「あの……学園の仲間も、これ以上に備えて動いてるわ。王宮地下の捜査プランもあるし、闇の封印をどう強化するかも検討している。でも、こうして大量に魔物を一斉に送り込まれると、どうしようもないわね……」
私が吐息まじりに言うと、ガイが泥だらけの鎧姿でやってきて、「おーい、こっち片付いたけど、まだ別の地区に魔獣が残ってるらしいぞ! 殿下とセレスティア、手分けしよう!」と呼びかける。
殿下は「ああ、分かった!」と即答し、私も「今行く!」と疲れを押して駆け出す。
そうやって一昼夜頑張り、なんとか魔物の大群をほぼ殲滅することに成功したが、街も農村もかなり被害を受けた。
民衆の一部は王宮や学園へ避難しているし、騎士団もヘトヘト。
黒幕は依然として影も形も見せないまま――この現状が“クーデターの予兆”ではなければ何なのか。
翌朝、王宮から国王と宰相が声明を出し、「王都全域に厳重警戒を敷く。騎士団を倍増し、闇魔法の痕跡があれば即報告するように」と布告した。
ただ、それが遅きに失している感は否めず、民たちは皆おびえ、「闇の王が復活する」と噂する者も少なくない。
私がアニーやアレクシスと再会し、「これ、本当にすぐクーデターが起きそうね……。王族や国に対する挑発としか思えないわ」と言えば、アニーはうなずきながら「ええ、まるで“魔王が現れるぞ”と宣告しているみたい。私たちの三人詠唱や封印術が間に合うかどうか……」と怯える。
アレクシスは「やはり王宮地下の捜索が急務だ。あそこに何か大陣が刻まれてる可能性がある。
もし完成したら一気に街が魔物の巣窟になるぞ」と警鐘を鳴らす。
ガイや殿下は残党処理に奔走し、レオナルトは学園で私の身辺を護る――そんな形で一時は乗り切ったものの、誰もが「次はもっとヤバい襲撃が来る」と覚悟している。
私が心のなかで思うのは、「このままだと本当に国が滅ぶかもしれない。私が破滅フラグを回避して喜んでいる場合じゃなく、すぐ最終決戦かもしれない」といった焦りだ。
だが、はっきりしたことはまだ少ない。王宮で計画されていた地下捜索も、今回の大襲撃で人員を割かれ、当初の日程より遅れているらしい。
黒幕にとっては好都合だろう。私は「こうやって時間稼ぎを狙われているのね……」と苛立ちを募らせる。
殿下も重い顔で言う。「クーデターが本格化するなら、もう遠慮はいらない。
王家を守るためにも、俺は王都全軍を率いて大々的な探索を進めるよ。セレスティア、お前も学園にこもってる場合じゃないかもしれないな」
「ええ、私もいつでも出動できるようにするわ。学園側には事情を話してあるから……。もし闇勢力がまた襲来するなら、先頭に立って戦うわよ!」と返せば、殿下は困った顔で微笑む。
「ほんと、前世ではお前を断罪するはずだったのにな……。いまじゃ俺のほうが助けられてばかりだ」
「……」と何も言えずにいる私に、ガイが「殿下、そんな昔のことはいいじゃないっすか! 今はセレスティアさんがいないと国が危ないんだから。婚約破棄なんてありえないっすよね?」と無神経に笑う。
殿下はやれやれと肩をすくめ、「分かってるよ。口にするたび空回りなんだから……」と苦笑するしかない。
こうして私の破滅フラグや婚約破棄の話題は完全に空気化し、誰も真面目に取り合わない。
一方で王都は危機に陥り、魔物の大群がまた来るかもしれない不安が国中を覆っている。確かに“クーデターの予兆”が加速しているとしか思えない。
私は帰り道、レオナルトに小さく問いかけた。「あんた、私が生き残ってこの国が救われたら、その後どうなると思う?」と。
弟は嬉しそうに目を輝かせ、
「そりゃ、姉上は殿下と結婚してハッピーエンドですよ! BL的には殿下×騎士とかも萌えますが、姉上最優先なので……」と身勝手に盛り上がっている。
「……ああ、そう。私自身はそんな先の未来なんて想像できてないわ。まずはこのクーデターが起きるかどうか、魔王が顕現するかどうか……本当に恐ろしいのよ」
と呟くと、レオナルトは少し表情を和らげながら「姉上なら大丈夫です。僕が守りますから」と力強く宣言した。
結果として、王都の一斉襲撃は一夜で鎮圧できたものの、私たちの不安は増大しただけだった。
闇魔導書の真犯人が王都を大混乱に陥れる先制攻撃をしてきた可能性が高く、すなわち“クーデターの予兆”は現実化しつつある。私がどれほど光魔法を振るっても、敵が本腰を入れればこんなものじゃ済まないだろう。
こうして王都を襲った魔物大群の惨状から始まり、私たちが必死に救援してどうにか耐えたものの、さらに重大な危機が迫っていると示唆されて終わる。
もはや破滅エンドは私には来ないが、“国崩壊エンド”は今すぐにも起こり得る
――そう考えたら胸がざわついて仕方ない。婚約破棄など論外の世界に突入したと痛感する夜だった......
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