07話 教室初日なのに誰も私を敵視しませんわ!? どうなってるの…?
入学式を終え、私は期待と不安を抱えながら1年A組の教室へ足を踏み入れる。
おそらく王太子リヒト殿下も同じクラスだろうし、“ヒロイン”アニーもいるかもしれない。そして当然、取り巻きや義弟も。
普通なら「婚約者のいる女なんて」「悪役令嬢の高慢娘だ」みたいに妬まれてもおかしくない状況なのだが……。
「おはようございます、セレスティア様!」
「わぁ、本物だ……! 学園の華になりそうですね!」
挨拶を交わすクラスメイトたちは、皆にこやかに手を振ってくれる。どこにも敵意の色がない。
かといって陰口を叩くふうでもなく、「よろしくね~」と極めてフレンドリー。
(え……? 私が悪役令嬢だという噂は、どこへ行ったの? それとも陰でコソコソやってるのかしら?)
そんな疑問が浮かぶと同時に、転生者だらけ説が脳裏をよぎる。
つまり、クラスメイトの多くが「この学園はゲームの舞台だ」と承知のうえで、“あ、これお約束のヤツね”と冷静に様子見している可能性があるってことだ。
(まさか……全員がグルになって、私を学園生活で泳がせて楽しんでいるとか……?)
背筋がゾクッとするが、同時に“実害”はなさそうなので、むしろ平和。
私が席についてぼんやりしていると、隣に座った令嬢が「セレスティア様、お隣いいですか? 私、前世であなた推しでした!」と囁いてくる。
「え、い、今なんて……?」
「ふふ、いえいえ、なんでも。ところでノートを見せてくださいね~」
うわぁ、やっぱり転生者いた……!
その後、ホームルームが始まるが、リヒト殿下は既にクラスの中心にいて、軽々しく談笑している。
アニーも隅のほうにちょこんと座っているが、目立つような仕草は一切なく、むしろ私のほうを気にして視線をそらしているようだ。
(本来ならヒロインVS悪役令嬢の因縁が、もっと序盤から激突するはずじゃない? でも今のところ対立の“た”の字もない……)
そんな私の戸惑いをよそに、取り巻き令嬢ズが「セレスティア様、さっそく“支配的な高笑い”を披露しては?」と小声で囁くが、私は首を振った。
「こんなフレンドリーな空気の中で、いきなり高笑いなんかしたら浮きまくるでしょ……!」
「でも、悪役令嬢には“仕切り”が大事ですよ!」
「……いいから黙ってて!」
リヒト殿下のほうに目をやると、彼は彼で「このままじゃ婚約破棄のネタが作りにくい」といった表情を浮かべていた。
まるで“誰かセレスティアに絡んでくれよ”“ヒロインよ、もっと前面に出てこいよ”と心の声が聞こえるみたい。——だが実際には誰も絡んでこない。
(これ、もしかして転生者たちが“ああ、ここはまだ盛り上がる場面じゃないしね”とか言って気を利かせている可能性が高い……)
こうして、私が思い描いていたような“悪役令嬢への嫉妬や罵倒”は一切起こらないまま、教室初日は終了。
私は放課後の廊下で深いため息をつく。
「なんなのよ……誰かが私を虐めてくれないと、逆に落ち着かないわ……!」
——まさか私が“罵倒してほしい”なんて思う日が来るとは、夢にも思わなかった。
結局、破滅フラグは立つどころか、みんなが私を温かく受け入れてくれるものだから、私のほうが困惑するばかりなのである。
毎日投稿頑張ってますΣ੧(❛□❛✿)
保存といいねお願いします……!




