68話 真の闇の魔術師が王宮を狙う兆候…私、学園にいるけど落ち着きませんわ!
学園祭から数日後、王宮で怪しい黒ローブが目撃されたという報せが私の耳に飛び込んできた。
しかも夜間に王宮内の回廊で闇の気配が確認され、一部の兵士が取り押さえようとしたが、逃げられたらしい。
「また黒ローブ……。本当に王家を狙っているのね。リヒト殿下や国王が危険じゃない!」と焦る私に、義弟レオナルトが「大丈夫ですよ、殿下も最近は学園と王宮を行ったり来たり忙しいですけど、護衛を増やしてるそうです。姉上のほうが狙われる可能性もあるから、お互い警戒しましょう」となだめる。
たしかに、私も学園祭で目立ったばかりだし、闇勢力からすれば“光の女”として抹殺候補にされている可能性が高い。
今はガイやアレクシスも協力して学園周辺を警戒し、私やアニーを護る体制が敷かれているが、相手が本気ならいつどこで襲われるか分からない。
加えて、王宮や学園関係者の間で不気味な噂も増えている。
「王の秘宝が再び狙われているのでは?」
「闇魔導書の真の主が魔王降臨を準備しているって噂もあるらしい」
など、信憑性は定かでないが空気がピリピリしている。
殿下は王宮の会議で「学園祭のモンスター騒動は序章にすぎないかもしれない」と話しているという。
(学園祭の戦闘でも黒幕は姿を見せずに逃げたし、本当の危機はこれからなのかもしれない。やっぱり簡単には片付かないわね……)
私はモヤモヤしながらも、学園での授業や日常に表向きは戻っている。
先生も「これから卒業までラストスパート。
就職や王宮勤めを目指す者は頑張りましょう」と告げ、クラスメイトが「闇なんて怖くないさ!」などと無理やり勇気を出している様子が痛々しい。
そんな中、私はお昼休みにアニーと屋外のベンチでランチをしていた。
彼女が神妙な顔で言う。「実は王宮内で“黒幕”らしき者が『光の令嬢と聖女が邪魔だ』と呟いていた、と兵士が聞いたらしいです……やはり私たちが狙われてるかもしれません」
「そう……まあ覚悟はしてるわ。私が闇の一撃を受けて倒れれば国民も動揺するだろうし、あなたが狙われれば聖女の回復がなくなる。あちらとしては私たちを潰すのが手っ取り早いでしょうね」
アニーは俯き、「でも、そんなの怖いじゃないですか……。セレスティアさんだって絶対大丈夫とは限りませんし、私も命を狙われる覚悟なんて……」と震える。
私も不安がないと言えば嘘になる。
しかし、すでにここまで来た以上、前世の“破滅フラグ回避”とは比較にならない大きな戦いに巻き込まれているのだ。私はアニーの手をそっと握って励ます。
「大丈夫よ。私たちには殿下やガイ、アレクシス、レオナルト――転生仲間がいるし、王宮も警備を強化してる。私が闇を祓う光魔法を磨いて、あなたが聖女力で補佐すれば、魔王であろうと何であろうときっと倒せるはず。練習もしてきたんだから」
それを聞いたアニーは少し涙目になりながら、「はい……セレスティアさんとなら、怖いけど頑張れます!」と微笑んでくれる。
私が彼女の背中を撫でていると、取り巻き令嬢ズが遠目に「まぁ、尊い……まるで仲良し姉妹ですわ!」なんて言っていて、私は少し照れ臭くなる。
けれども、屋外ベンチから校庭を眺めれば、そこには何事もなくのんびり過ごす他の生徒の姿。闇勢力が王宮を狙っている現状とは対照的に、学園の昼休みは平和そのものに見える。
モブ生徒らが「最近学園祭も終わり、落ち着いたね」とか言い合うのを聞いていると、「本当に落ち着いてる? 闇は確実に近づいてるのに……」と歯がゆくなる。
アレクシスが後ろからそっと近づき、「俺も昨夜、王宮地下周辺を探ったんだが、真犯人の姿は見つからなかった。黒ローブが出入りした形跡はあるが、すぐ消えている。巧妙だな……」と報告してくる。
ガイはガイで「俺も騎士科の連中と夜間巡回してるけど、大きな魔物は出てこなくて拍子抜け。向こうが決定打を温存してるのかも?」と憤慨している。
(つまり、闇勢力が王宮を狙う兆候はあるのに、動きは小出しで掴めないまま……。黒幕が抜け目なく暗躍しているってことね)
こうなると、私としては“悪役令嬢としての婚約破棄”などますます眼中にない。
いや、周りの空気も同じで、もし殿下が「そろそろ断罪イベントだ!」などと言い出したら逆に「この非常時に何を言ってるんだ?」と白眼視されるだけだろう。
事実、殿下が最近は落ち込んでばかりいるので、きっともう自分から破棄発言しないだろうと私は予想している。
むしろ「セレスティアがいないと国がヤバい」という認識が広まっており、学園内でも「殿下とセレスティア様が結婚して国を護る構図が理想だよね~」と噂されるほどだ。
私が戸惑いつつも否定しないから、どこか既定路線みたいに扱われている。かつての私なら破滅フラグを回避できただけで満足だったが、今や「破滅どころか未来の王妃……」と周りがどんどん盛り上がっているのだから困ったものだ。
ともあれ、私は学園で授業を受けながらも、王宮の暗躍に目を光らせている。
アニーや殿下、アレクシス、ガイ、レオナルト――みんながそれぞれの役割で情報を探っているが、魔王降臨の真実や闇魔導書の最終的な使い道を確定できずにいる。
私は自分にできるのは光魔法の練度を上げ続け、いつどこで魔物が襲っても対処できるよう備えるだけ。
(ほんと、いまさら私が“悪役令嬢”として破滅するはずなんて流れはどこへ行ったのやら……まるで別のゲームをやっている感覚よね)
ある放課後、レオナルトが王宮経由で仕入れた噂を教えてくれた。
「黒ローブが小声で『もうすぐ王家を倒す日が来る』と呟いて消えたとか……。本当に王宮を狙ってるのかな。姉上、殿下をどう思います?」
と不安げだ。私は苦い顔で返す。
「王族を狙うなら、まずは国王か殿下がターゲットでしょう。でも、闇の王が復活すれば国中がダメージを受けるわ。早めに止めたいのに、相手が隠れ続けているから手が打てない……」
ガイやアレクシスが乗り込めば即発見できると思いきや、どうも向こうの魔法が一段上らしく、うまくすり抜けられてしまうらしい。そんな歯がゆい状態が続く以上、私たちも焦るが手詰まりという状況だ。
リヒト殿下は幾度も「くそ、せっかく王都防衛を強化したのに、奴らはピンポイントで出没しては逃げる。せめて一度大規模戦を仕掛けてくれれば、こっちも総力を挙げられるのに……」と苛立ちを隠さない。
もともと婚約破棄を企図していた殿下だが、今や本気で国を守る王太子として覚醒しつつあるのかもしれない。
私が見ても、殿下の行動力は以前より増している。ただし私が先に魔物を倒すせいで見せ場を取られがちだが、それでも頑張っているのが分かる。
「このまま一度も黒幕と交戦せず、突然大規模召喚で一気に国が飲み込まれる……なんて事態だけは避けたいわね」
私がそう零すと、アニーは「ええ、絶対嫌です。もし魔王が本格的に出るなら、私たちが封印術を完成させる前に襲われるかもしれません。私も聖女力をさらに訓練しておきます!」と覚悟を強めている。
私も同調し、「私も光魔法で絶対負けないようにするわ」と杖を握りしめる。
こうして学園は三年生になっても落ち着かない状況が続く。
授業は普通に行われているけれど、王宮や街での魔物の噂は絶えず、どこかに不安の影がちらつく。
私が破滅するどころか、国が崩壊する可能性はまだ消えていない。
もし“魔王”なる存在が降臨すれば、私やアニー、殿下たちが前面に立つしかないが、そこに婚約破棄や断罪という余地は微塵もない。今さら誰が私を責めても、国民が許すわけないのだ。
結局、王宮を狙う黒ローブの正体はまだ掴めず、学園では普通に試験や授業がこなされていく。
一方で私たち転生者は水面下でつながり合い、いつでも闇と戦う準備をしている。
私も「悪役令嬢として最後まで残るはずが、完全にヒロイン立ち位置なんだけど……もういいわ!」と吹っ切ってしまった。婚約破棄など考えるだけ無駄だし、今は闇への対抗に全力集中するだけ。
こうして終盤、私は学園の窓から遠く王宮を見つめ、「このまま何事もなく済むとは思えないわ。いずれ必ず大きな衝突が起きる――その時、私は破滅するんじゃなく、光で闇を討たなきゃ……」と心に誓う。
もはや破滅フラグどころか“王太子婚約者としての立場が固まる”フラグしか見当たらないが、国が無事ならそれでいい。
たとえ魔王が現れようとも、私はもう自分を隠さず光魔法を炸裂させる。頭の片隅には「大きな戦いが近い」という直感があり、手のひらにじんわり汗が滲むのを感じる。
学園での日常と、王宮での闇への対策――どちらも並行する中、破滅フラグは完璧に忘れられ、私の周囲はその話題をまったく出さない。
婚約破棄という気配は完全に霧散し、今はただ“いつ襲うか分からない闇の魔術師”の動向を警戒し続けるだけの日々である。
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