67話 婚約破棄どころか“セレスティア大英雄”扱いに……私、なんだかもう気恥ずかしいですわ!
学園祭の最終日。私は昨日のモンスター騒動の片づけや負傷者のケアに手を貸しつつも、まだ舞台衣装を着たまま、あちこちに謝罪と挨拶を繰り返していた。
演劇が途中で中断し、多くの客がパニックに巻き込まれたからだ。
しかし、なぜか周囲の反応は
「セレスティア様、私たちを救ってくれてありがとうございます!」
「あの悪司祭の格好で本物の魔物を倒す姿、まさに二重の演出でしたね!」
など、やけにポジティブ。
中には「むしろリアルファンタジーで神回!」なんて冗談を言う観客もいる。
私は「これは演出じゃないんですよ」と苦笑するしかない。
この騒動で実際に怪我をした人は数名いるが、大きな犠牲者は出なかった。
転生者仲間が素早く動き、光魔法と聖女力で被害を最小限に抑えられたのが幸いだった。
学園側は何とかイベントを続行しようとしたが、結局大ホールは閉鎖され、メインプログラムだった演劇は中止。
私は「悪司祭が自滅するシーンまで演じられなかったわ……」と変な落胆を味わったが、クラスメイトが「いや、もうあれだけ活躍すれば十分伝説ですよ!」と持ち上げてくるからやりづらい。
一方、王太子リヒト殿下も邪竜姿を途中で捨てて戦闘に加わったため、「殿下もすごかった! さすが王族!」と称賛されているが、最終的には「セレスティアが先頭に立って魔物を撃破した」という印象がやはり強いようだ。
結果として、またも婚約破棄など言える空気ではなく、世間の評価は「セレスティア様こそ王太子との結婚にふさわしい!」とさらに固まったというから、殿下本人が半ば諦め顔になるのも無理はない。
「はぁ……昨日のパニックで、また私が目立ってしまったわね。学園祭の裏で闇勢力を炙り出す狙いだったのに、結局真犯人は姿を見せず……。ただ私の評価が爆上がりしただけ……」
落ち込む私に、ガイが笑顔で「いいじゃないっすか! 大事に至らなかったのはセレスティアさんのおかげだし、もう悪役とか言われないでしょ」と声をかけてくれる。
取り巻き令嬢ズは「“セレスティア様大英雄”扱いがもっと増しますわ!」と楽しそう。アレクシスは「俺の計画不足か……。ちっ、せめて黒幕の手がかりを掴みたかったんだが」と忸怩たる思いを吐き出している。
リヒト殿下も朝から「俺だってがんばったけど、結局セレスティアのほうが……。やっぱり断罪は……無理だな……」とぼそぼそ言うが、転生者みんなが一斉に「うん、無理無理!」と同意するしかない。
というか、学園側も王都の人々も、私が婚約破棄されるなんて想像もしていない様子だ。
実際、昨日の魔物襲撃で私がいなければ被害はもっと大きくなったはず。王太子の最優良パートナーと言われても反論はできない。
おかげで学園祭の閉幕時には、
「セレスティア殿、真の勇者……」
「悪の女司祭を演じながら本物の闇を撃退するなんて伝説級」
「もうこの人が悪役令嬢だなんて誰も思ってないよね?」
という噂が再燃していた。私は気恥ずかしいやら呆れるやらで、複雑な笑みしか浮かばない。
アニーはそんな私に、「あの、セレスティアさん……今さらですが、本当にありがとうございました。私も演劇中はどうしようかと思ったけど、一緒に撃退できて心強かったです」と涙ぐんで礼を述べる。
実際、アニーも聖女力で頑張ったからこそ迅速な救護ができたわけで、私としても感謝している。
「いいのよ、あなたがいなければあんなにスムーズに被害を抑えられなかったわ。お互いさまよ」
しかし、周囲が私たちに向ける“英雄視”はさらに強まり、先生やクラスメイトまでが
「もはやセレスティア様を断罪なんてありえない!」
「殿下も今さら破棄なんて言ったら、国民が黙ってない!」
と大騒ぎ。殿下が顔を赤らめて「わかってるよ……」と苦笑する光景が繰り返される。
私は少し遠慮がちに「本当、私だって結婚どうこうはまだ分からないけど、今は闇勢力が優先よ。
国を守らなきゃ」と言えば、取り巻き令嬢ズが「国を守る王太子妃……さすがですわ!」と勝手に盛り上がる。
ちぐはぐすぎるが、私自身も否定できない状況だ。
結局、学園祭は大混乱に終わり、出演者も観客も余裕がなくなって閉幕。
その翌日には先生が「皆さん、お疲れさまでした。大変な事件がありましたが、怪我も少なく済み、
これはセレスティア殿と王太子殿下、そして騎士科の活躍によるところ大です」と全体に報告した。私だけじゃなく殿下やガイ、アニー、アレクシスらも感謝されているわけで、悪役や婚約破棄の話題が出る余地などどこにもない。
かくして私は学園の中でさらに評価を高め、“もう婚約破棄や断罪なんて噂すらバカバカしい”という空気が完全に定着する。
たった二年ちょっと前には「悪役令嬢の破滅フラグ!」「断罪エンドに備えなきゃ!」と必死だったのに、今や私が“ハッピーエンドまっしぐら”と思われてもおかしくない状況だ。
しかし、本人としては「そんな単純な話じゃないでしょう? 闇の王がいつ出てくるか分からないのに……」という不安を抱えていて、喜べる気分ではない。
第三者から見れば“婚約破棄どころか王太子妃ルート確定”かもしれないが、私自身はまだ国を救ったわけでもないし、闇魔導書の黒幕を倒せたわけでもない。
そのうえ、演劇は中断されたままで、私の“自滅シーン”や殿下の“竜が浄化されて人間に戻る”シーンなど、肝心のクライマックスは披露できなかった。
モブからは「観たかったのに……」と残念がられ、取り巻き令嬢ズは「またリベンジしたいですよね!」と持ち上げてくるが、今年の学園祭はもう終わったのだ。
「まぁ、現実で私が破滅するよりいいじゃない……。舞台上で死ぬ役だけど、現実は生きて国を護かなきゃならないんだし」
そう開き直って嘆息する私に、ガイが笑いながら「大英雄扱いされるの嫌ですか? 素直に受けておけばいいのに」と言ってくる。
たしかに、いま学園中の視線は「セレスティア様が再び国を救った」というムードで、私が恥ずかしがってもどうしようもないほど盛り上がっている。
昔の私なら考えられないほど愛されているし、悪口を言う人なんかいない。
むしろ殿下が苦笑まじりに「破棄どころか“早く結婚しろ”なんて周りが騒ぎそうで怖いよ……」とこぼし、アニーが「それはそれでハッピーエンドですよね?」とからかうという、これまでと逆転した構図が見られるほどだ。
私が「私自身はまだ結婚どうこう考えてないのに……そもそも闇の王を倒さなきゃ先行き不安すぎる」と言えば、アレクシスが「だよな。俺たちがまず真の黒幕を潰さないと平和も恋愛もないさ」と相槌を打つ。
この奇妙なやり取りが、黒幕を倒すまではずっと続くのかもしれない。
こうして、私は婚約破棄どころか“セレスティア大英雄”として学園と王都の支持を得る形になり、学園祭後はさらに目立つ存在となってしまった。
いよいよ本当の意味で破滅フラグは吹き飛び、代わりに国崩壊フラグの回避へ舵を切る――二者択一なら当然“国崩壊を防ぎたい”に決まっている。私はこの道を選び、迷わず光魔法を究極まで鍛えるつもりだ。
国を救うには黒幕――おそらく“魔王”――との最終決戦は避けられない。
でもその時が来れば、断罪どころか私が中心に立って戦うことになる。
みんながそれを望んでいる。かつての悪役令嬢としては、あまりに転倒した立場だけれど、私ももう抵抗する気はない。もし自分にできるなら国を守るのみ。
こうして学園祭から一夜明け、私は取り巻き令嬢ズの「ほんとにすごかったですねー!」というテンションにやや引きつつ、そして今度は演劇最中の魔物襲撃を乗り越え、“セレスティア大英雄”と称される。
街や王宮からさらなる期待を背負い、悪役要素はますます消え去る一方だ。
次なる闇の行動が何なのかは分からないが、この熱狂の裏に潜む危機感をひしひしと感じながら、私は日常を再開したのだった。
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