63話 学園で“最後の学園祭”の準備開始、三年生は演劇が目玉ですが…闇の気配も消えないんですの?
三年生の一大イベントといえば、学園祭。
過去二年、私は学園祭の騒ぎを散々経験してきたが、今年は私にとって最後の学園祭になる。演劇をはじめ、多数の出し物を三年生主体で行うのが慣例だという。
「演劇『聖女と邪竜』という題目が決まりましたよ」と先生が発表し、クラスメイトが「三年生はこれがメイン出し物だね!」と盛り上がる。
アニーがヒロイン役に抜擢され、リヒト殿下が竜役(!?)というキャスティングがすでに内定したとか。
「私が邪竜側…?」
と殿下は首を傾げながらも、「まぁ、ドラゴンに扮するなんて面白そうか?」と笑みを浮かべる。
アニーは「私は聖女ですし…自分の役を活かせるかも?」
とちょっと緊張気味。
「へえ、じゃあ私の役は何なのかしら?」と尋ねれば、先生が「セレスティア殿は悪の女司祭役を…いや、その、台本上ではちょっと敵側ですけど、演技力に期待してます!」
などと言うので、私は苦笑するばかり。
「悪の女司祭役……まるで悪役令嬢ムーブ再来じゃない。いまさら演じろって言われても、誰が信じるのかしら…」とボヤけば、
取り巻き令嬢ズが「ぜひ本領発揮してくださいませ!」と目を輝かせてくるので、私は頭を抱える。
演劇といえば通常、ヒロインが勇気を出して邪竜を倒す物語かと思うけれど、今回の脚本は「邪竜に心を操られた悪の女司祭が、聖女と王子に迎え撃たれる」という王道ファンタジーらしい。
アニーが演じる聖女がリヒト竜を救いながら、私の司祭キャラを討伐する……
という結末が想定されているらしいのだが、正直いって私は「現実には闇勢力を退治している側だし、悪役要素はとっくに消えたわよ?」と内心困惑している。
そのうえ、クラスメイトや先生は「セレスティアさん、昔は少し“悪役令嬢”っぽい雰囲気でしたし、演技にぴったりですよ!」と
根拠ない期待を寄せるからやりづらいことこの上ない。
私が「あの、別に今は悪役でも何でもないんですが……」
と返しても、みんな「演技演技! ぜひ思いきりドロドロなセリフを叫んでください!」と楽しそうに言うだけ。
「まあ、演劇は演劇だし、私も学園行事には前向きに参加するつもりだけれど、こんな情勢で本当に学園祭をやるの?」と思わず訊ねると、
先生いわく「王国も不穏ですが、だからこそ最後の学園祭を盛大にやって学生の士気を保ちたい」
とのこと。ある意味、ちぐはぐにも見えるが、この世界では行事を疎かにするとかえって闇勢力に飲み込まれる不安が高まるらしい。
「確かに……夏休み中に大事件が起きるかと思いきや、今のところは持ちこたえてるものね。でも学園祭は秋頃にあるんでしょ? その頃までに闇勢力が大きく動きそうな気配は拭えないわ」
私がそう漏らすと、アレクシスが
「だからこそ、奴らが学園祭を狙う可能性がある。前回、学園祭でモンスター騒動になったわけだし、また同じようなことが起きるかもしれない。むしろ今度はもっと大きな混乱を狙うかもな」
と冷静に推測する。私も思い出すだけでゾッとする。
「私が聖女役をやるなんて、現実そのままって感じですし、そこを闇勢力がどう見ているか……」
アニーは不安そうに肩を落とすが、先生たちは「問題ない! 学園としても万全の警備を敷く」と鼻息荒いので、私たちは逆らえない形で演劇準備を進めることになった。
リヒト殿下は竜役とはいえ、「何やら変なかぶり物や尻尾をつけるんだろう?」と恥ずかしがっているが、周囲から
「ぜひ殿下の英姿を!」
「むしろ仮面とかで格好いい竜人っぽくしましょうよ!」
と盛り上がる。
殿下が「もはや断罪イベントどころじゃない……」と苦笑する一幕も見られ、私は「まあ、いいじゃない。面白そうだし」となだめる。
私が演じる悪の女司祭は、邪竜に操られるシーンが多いそうで、「なんとかそのダークさを醸し出してほしい」と演出係に頼まれたけれど、
いまの私が悪役を演じても「セレスティア様、演技が可愛い!」と誉められるだけで、到底恐れられない気がする。
取り巻き令嬢ズが「いやいや、思いきり高笑いしましょう!」とアドバイスし、
私は「いいわよ、やるだけやってみる」と諦め半分で受け入れた。
その一方で、アレクシスやガイは「裏でモンスターを召喚して学園祭パニックを起こすやつが出るかも」と警戒し、自警団メンバーを集めて作戦会議をしている。
もともと昨年も学園祭でモンスター騒ぎがあったし、闇勢力が再度狙ってくる可能性が大。
私も心から同意しながら、「なら私たちも本番までにしっかり準備して、いざとなれば光魔法と聖女力で対応するしかないわね」と覚悟を固める。
王都での魔物対策が続く中、学園祭という大イベントを挟めば、当然敵に付け入る隙も与える。私が悪役の役を演じるころには、現実の闇がどんな形で学園を襲うか分からないのだ。
こうして“三年生最後の学園祭”の準備がスタートした。私は演劇の稽古に加えて、王宮や騎士団とも連絡を取りつつ、闇勢力が動く前に少しでも情報を集める。
婚約破棄だの破滅フラグだの言っている場合ではなく、いつ魔物が大挙して押し寄せるか分からない緊張感が学園全体を覆い始めている。
それでも生徒の多くは
「悪役令嬢セレスティア様が司祭役って、面白そう」
「リヒト殿下が竜役なんて、思いきった配役だな」
「アニーさんは本物の聖女だし、どんな舞台になるんだ?」
と意外に浮かれ気味だ。殿下本人は恥ずかしそうだが、私から見れば「もう割り切って楽しんだほうがいいわよ」と思う。
それに、実際には“闇の王”が現れたらこんな演劇とは比べ物にならない惨事が来るかもしれないから、今のうちに楽しめるだけ楽しんでおくのも悪くない。
とはいえ、先生や騎士科もこっそり準備を進めている。もし学園祭当日に何か起これば、すぐ戦闘モードに移れるように合図を決めているし、ガイやアレクシス、殿下、私、アニー、レオナルトが一丸となって対応する算段も練られている。
こうして現実では私は“光”として闇と戦う。舞台上では“邪竜に仕える悪の女司祭”を演じる
――二重構造のおかしさに、頭がどうにかなりそうだ。
周囲は「セレスティア様の二面性が見られて楽しみ!」と言うが、私は複雑な心境で稽古に臨むことになる。
ここまで来ると、もう本当に悪役令嬢としての私が存在する余地はない。
学園内で誰も私を恐れず、むしろ好奇心たっぷりに「どんな悪役演技を披露するんだろう?」とワクワクしているだけ。そして私が破滅するわけもなく、現実には闇を払うどころか最終決戦に備える中心人物――
演劇の稽古が始まれば、リヒト殿下との邪竜×司祭の絡みが増えるが、それは私にとってただのイベントであり、婚約破棄など生じるはずもない。
闇勢力が襲撃してきたら即バトルモードへ切り替えられるよう準備しながら、「今年の学園祭こそ無事に終わるといいのだけど……」と願うばかり。
なにしろ、前回の学園祭はモンスター召喚で大混乱になったのだから。
私たち三年生が仕掛ける“最後の学園祭”。そこへ闇勢力が何かを企む可能性は相当に高い。私は司祭役の衣装を試着しながら、
「本当の悪役が攻めてくる前に、舞台上の偽悪役を演じきるしかないのね……」
と自嘲気味に笑った
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