62話 王都“魔物対策”強化の最前線にリヒトたちが立つ…なのに私がいちばん魔物を倒してますの?
三年生になった途端、学園側の配慮で長めの“春休み明け”期間が設けられていると聞き、
私たちは少し余裕を持って授業に臨むことができる……
と思いきや、国王からの指示で王都の魔物対策が一気に強化されたため、リヒト殿下やガイ、アレクシスらは初日からてんてこ舞いだ。
「殿下、王宮でも“そろそろ本腰を入れて魔物退治をやらねば国中の不安が高まる”という声が大きくて、近衛騎士と学園精鋭が合同で巡回するプランが始動しましたよ!」
そんなふうに教員の一人が報告してきて、殿下は
「了解した。俺も当然前線へ出る。セレスティア、いざというときはお前も呼ぶからな」とやる気を見せる。
私としては「いいわよ、私が出動したら魔物は一撃でしょうね」と何気なく返したら、
殿下が「ああ……そうだな、ほんと俺の見せ場が……」とショックを受けているので、私も申し訳なさを感じてしまう。
とはいえ、すでに王都では地味に魔物出没が頻発し、周囲からは
「セレスティア様がいれば安心」
「殿下が来ても、どうせセレスティア様が先に倒すんでしょ?」
なんて揶揄がなされている。殿下本人はそれを聞くたびに落ち込むが、もう自分が作り出した婚約破棄計画は動きようがないという現実を受け入れるしかないようだ。
私が複雑そうに見守っていると、ガイが肩を叩きながら「いや殿下、俺だってセレスティアさんには敵わないっすよ? 光魔法が汎用性高すぎて、下手に剣を振るう前に魔物が弱ってるんだから」
と慰めている光景が繰り返される。学校のみんなも最早「セレスティア様最強」と言うのが当たり前で、そこに悪意はない。
そんな状況下、私が「王都“魔物対策”を強化って、具体的にはどんなふうに?」とアニーに尋ねると、彼女は王宮の情報を聞きかじったらしく、「闇魔導書を追う捜査が本格化し、転生者や学園組に協力を要請する計画もあるみたいです」と教えてくれる。もし本当に大規模な魔王召喚があるなら、私たち転生者のゲーム知識が活きるかもしれない。
アニー自身は聖女として、王都の教会とも連携を取り始めており、近いうちに“封印術の特別研修”を行う予定だとか。私は私で光魔法の強化に余念がなく、殿下やガイ、アレクシスが市街巡回で魔物と戦うたび、必要に応じて呼び出されて先頭に立つ。
こうして王都“魔物対策”の最前線は、転生者たちが取り仕切るような形になりつつある。
問題は、やはり私が最強の一端を担いすぎて、殿下やガイが活躍しにくい点だ。何度か市街で発生した小競り合いも、私の光魔法で大半が鎮圧され、「殿下が追いついたときは終わっていた」なんて展開が繰り返される。
殿下は「いや、俺だって王太子だぞ!」と声を張り上げるも、周囲が「でもセレスティア様が先に…」で終了。
さすがに殿下も「もういい、せめてセレスティアと一緒に現場へ駆けつけよう。そうすれば少しは連携した形で活躍できる」と半ばヤケクソ気味に主張し、
私も「いいわよ、別に。あなたが来てくれるなら心強いし」と答えるが、いざ闇魔物が出ると先に私が見つけてしまうケースが多く、結局またも殿下が活躍する前に決着する。
周りから「セレスティア様、実は殿下より頼りになるのでは?」
などと噂されるほどで、もはや婚約破棄の話題など本当に誰も信じない。「あんな有能で国を何度も救ってくれている令嬢を捨てるなんて、殿下は正気か?」とまで揶揄されるくらいだ。
リヒト殿下はその度にくぐもった声で「いや、俺も別に捨てたいわけじゃなくて……もともとゲーム的なイベントを…ううっ、なんでもない…」と言い訳して黙り込む。
もはや私すら気を遣う気力がなく、「殿下、今は闇勢力対策が優先でしょ?」とやんわり話を終わらせるだけ。
その一方で、魔物の質が少しずつ上がっているのを感じる。以前は小型が多かったけれど、最近は飛行タイプや中型獣など、多少手ごわい相手が混じり始めた。
ガイも「さすがに一撃では仕留められない奴も出てきた。まぁ俺が勝つけど」と得意げに言うが、本当に安心しきっていいのか疑問だ。
アレクシスが「敵の真の強大さはこんなものじゃない。魔王が出ればこんなの序の口だろう」と冷ややかに指摘してくるから、私も気を抜けない。
「王都“魔物対策”強化」は確かに進んでおり、騎士団や学園生が夜間巡回を増やしているが、黒幕の居所は依然として掴めず。
教会の情報によれば「いまだ大規模召喚が行われた形跡はない」が、裏を返せば近いうちに本番が来る可能性も高いとの見方だ。
そんな状況下で私は何度か夜間の練習に付き合い、光の攻撃魔法や範囲結界の強度を高めようと努力している。アニーが聖女力でサポートすれば、私の光魔法はさらに威力を増すらしいけれど、殿下やアレクシスの存在も加わるなら、三重四重の相乗効果が期待できる。
「これ、もはや婚約破棄を気にしてる暇なんかないわね。闇の軍勢を迎え撃つ配置を固めるほうが百倍大事よ」
私がそう口にすると、レオナルトが「それに、姉上を破滅させる要素がないってことですね!」とニコニコ顔。
アレクシスは鼻で笑って「そもそも誰もセレスティアを悪役だと信じていないからな」とつぶやく。
殿下は「……わかってる。もはや俺もどんな顔すればいいのか」と自嘲しているが、学園や王都での評判的には「セレスティア様こそ王妃にふさわしい」の大合唱だ。正
直、殿下が破棄など叫べば国民から総バッシングされるだろう。
闇勢力の活発化が“魔物対策”を加速し、それによって私が益々活躍する――その連鎖が止まらない以上、リヒト殿下の願望は今後も空回りするしかないのだろう。
悪役令嬢の破滅ルートなど入り込む余地がないほど、国の危機が大きくなっているのだから。
私の胸には一抹の不安と使命感が渦巻いている。国を守るために力を尽くすのはいいが、いつ“魔王降臨”が起こるか分からない緊張状態が続くと、気が抜けない。とはいえ今は私がやれることをやり続けるだけ……。
そう思いながら、私は騎士団の呼び出しに応じて何度も魔物退治に駆けつけ、学園に戻れば周囲に「セレスティア様がまた王都を救った!」と歓迎され、殿下が横で「ちくしょう…また俺の立場が…」と呟く構図が続いている。
もう婚約破棄という言葉を聞いても誰一人として慌てないし、私自身も「はいはい、現実無理でしょ?」と思ってしまうほどだ。
こうして王都“魔物対策”は表面上は順調だが、私としては不気味な予感を拭えないまま日々の出動を繰り返している。闇の本体が姿を見せない以上、いくら対策を強化しても決定打にはならず、“魔王降臨”のタイミングを待っているかのような嫌な空気が漂っている。
「闇勢力が静かなうちに一気に叩きたいのに、居所がつかめない……。小規模な魔物を倒すだけじゃ限界があるわ」
そう独りごちる私の耳に、アニーが「教会で見つけた古文書によると、魔王には特定の封印手順が必須らしいですよ。出現と同時に急襲しないと取り返しのつかない事態になるかも……」と囁く。私はその言葉を聞き、光魔法の杖をさらに握りしめるのだった。
悪役令嬢どころか“王太子の補佐役”以上に国を引っ張ってしまっている自分を意識しながら、私の三年生生活は始まってまだ数日。婚約破棄云々より先に、魔物狩りに駆け回る日常が増えているのが現実だ。果たしてこのまま、私は「光の英雄」として国の危機を救う道へ突き進むのか……。
リヒト殿下の見せ場はほとんど私に取られ、婚約破棄はまたしても遠のくばかり
。国中が不穏なら、なおさら破滅どころか私が輝き続けるという皮肉な状況が続くのだった。
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