61話 三年生突入、私、思いきりツンデレを捨てかけていますわ!
三年目の春――
私はクレリア魔法学園の三年生として新しいクラスに顔を出す。
といっても、もう私が気負うような“悪役令嬢”ムーブをする必要はまったくない。むしろ周囲は最初から「セレスティア様、今年もよろしくお願いいたします!」と笑顔で迎えてくれ、“断罪”という単語など誰一人として出さない。
「……ほんと、私がツンデレであっても誰も突っ込まないのね。もういいわ、私、自然体でやらせてもらいます」
登校初日の朝、そうつぶやいても誰も変な顔をしないどころか、取り巻き令嬢ズが「とうとうセレスティア様が本来の魅力を完全に解放するのですわ!」
と喜んでいる始末。二年前なら私が“オホホホ”と笑うだけで震え上がる子がいたのに、今やそれが“愛嬌”扱いなのだから、完全に悪役路線は捨て去られたも同然だ。
一方、王都や王宮では相変わらず闇勢力の動きが活発化していて、夏休み中の私たちはあれこれ奔走させられた。
結局、大きな決戦こそ起きなかったけれど、黒ローブの魔術師が未だ捕まらず、宝物庫の闇魔導書も行方不明のまま。王宮地下迷宮の封印が不安定化しているとも聞く。
私は教会でアニーと一緒に封印術の基本や“三人詠唱”の仕組みをざっと学んだが、まだ実践段階には至らない。
殿下と顔を合わせても「忙しい中ありがとうな」と言われるばかりで、婚約破棄の話は一度も出なかった。
むしろ彼は本気で私を頼りにしているらしく、転生者としての最初の夢
――“悪役令嬢断罪イベント”――が遠のきすぎて、もう何も言えないのだと思う。
そうして迎えた三年生初日、私はふと呟く。
「もう開き直って、普通に学園生活を楽しもうかしら。どうせ闇勢力が本腰を入れたらまた戦場になるだろうし、それまでは平穏に過ごしていいのよね……」
隣にいたレオナルトが目を輝かせ、「姉上、大賛成です! 三年生は最後の学年ですし、文化祭もありますし、学内イベントも多いはず……。それを思いっきり楽しめば、姉上の魅力がますます引き立ちます!」などと興奮している。
私が「まぁ、楽しみではあるけど、闇勢力次第よ……」と苦笑すれば、
ガイが「大丈夫! 俺が先陣切って魔物を蹴散らすから、姉さんは学園行事を存分にエンジョイしてください!」と頼もしい笑みをくれた。
だが、リヒト殿下は朝のホームルーム前に小声で
「……このまま三年に入っちまったら、本気で婚約破棄できないよな……」と漏らしていたのを私は聞き逃さなかった。
教室に入るや否や生徒から「殿下とセレスティア様、おめでとうございます! いよいよ卒業も近いですね!」と祝福されていたから、余計に頭を抱えていたのだろう。
「殿下、あきらめればいいのに……」と私が内心で思うと、殿下も横目で「もうわかってる。けど最後の足掻きだよ……」とぼそぼそ言っていた。
結局、私がツンデレを捨てかけて普通に接しているせいで、殿下も昔ほど強引に断罪イベントを試みようとしない。
私からしてみればありがたいというか、「今さらそんな茶番できるわけないでしょ」としか思えないわけだけれど、殿下本人の未練は完全には消えていないっぽい。
しかし、国民や学園の誰一人としてその破棄に賛同しない現状で、どうやって実行する気なのだろうか。
アニーは近くでクスクス笑いながら私に耳打ちする。
「殿下、まだ前世の“王子ルートで悪役令嬢を断罪する快感”に固執してるのかもしれません。でももう闇が来ちゃうんだから、のんびり婚約破棄どころじゃないですよね」
「そうよね。私も同感。いまはむしろ闇の王との最終決戦に向けた備えを大事にしたいし……」と返すと、アニーは小さく笑って「セレスティアさん、本当に変わりましたよね。二年前は“破滅フラグ回避!”で頭がいっぱいだったのに、今は国を救う話ばかり」と呟く。
その言葉に私も頬がほころび、「自分でも驚くわ……」と返すのだった。
そして三年生初日のホームルームが始まり、担任の先生が「皆さん、この一年は就職進路や卒業課題もあるうえ、次期王太子妃や騎士団候補を巡る動きも活発になる時期です。闇魔法の噂も絶えず、落ち着かないとは思いますが、まずは学園行事をしっかりこなしてください」と告げる。
私はその言葉に拍子抜けというか、「本当にこんな危機のさなかで平常運転なのね……」と思いつつも、教師からすれば学生に余計な負荷をかけたくないのだろうと納得した。
私が“ツンデレを捨てかけ”と自嘲するのも、周囲があまりに温かく歓迎してくれるからだ。
クラスメイトが「セレスティア様の魔法、今度ぜひ教えてください!」とか
「卒業前に一度お茶会をご一緒したいです!」なんて言ってくるし、普通に仲良し状態で、悪意が混じるどころか敬意しかない。
私が高飛車に言い返しても「うふふ、まさに悪役令嬢風!」と喜ばれるだけ。絶対に断罪イベントなど起きようがない。
だからこそ、私は思いきりツンデレを捨てかけて素直に「皆さま、よろしくお願いいたします。私も色々至らない点があるけれど、仲良くしてくださると嬉しいわ」と返したら、拍手が起きるほどクラスが盛り上がってしまった。
もはや悪役どころじゃなく、ちょっとした学園のアイドル状態になっている。
それでも闇の脅威は厳然と存在する。夏休み中に大事は起きなかったけれど、小競り合いは絶えなかったし、王太子やガイ、アレクシスは夜間警戒を続けていた。
アニーも教会調査である程度の成果を得てきたらしく、私たち三人での“魔王封印詠唱”練習を今後の課題にしている。
「三年生になってすぐ、これだけ闇の噂が絶えないとなると、学園生活だって最後まで平穏にはいかないでしょうね……」と私がつぶやけば、
殿下は「そうだな。学園行事だってまだ残ってるし、そこを闇勢力が狙う可能性は十分ある」と頷く。
取り巻き令嬢ズはやや不謹慎に「それなら“断罪イベント”みたいな派手な展開もあり得るのでは? ドキドキ!」と目を輝かせるが、いや、それはもう違うだろう……と全員が一斉にツッコむ。
闇と戦うのは私たち自身であって、悪役令嬢の立場で処刑されるのはもう時代遅れなのだ。
私がほっと息をつき、「こんなふうに一年が始まるなんて、二年前の私には想像もできなかったわね……」と本音をこぼすと、レオナルトがニコニコ笑いながら「姉上、人生分からないものですよ! 姉上はやっぱり最高に輝いてます!」と言う。
(もう悪役とは呼べない私――今や周囲から愛され、闇との最終決戦を担うヒロインに近い立ち位置……いいのか悪いのか、笑うしかないわね。)
こうして三年生突入と同時に、私は完全に“思いきりツンデレを捨てかける”状態を迎えた。誰も私を悪者扱いしないなら、無理やり悪役然と振る舞う理由はない。む
しろ光魔法の存在が注目され、先生も「セレスティア殿、卒業後は王宮魔術師団に?」などと声をかけてくるくらいだ。
心底、破滅フラグからは脱却してしまったのだと実感する。
だが、安心しきるのは早い。
闇勢力――魔王を擁する黒幕――がこのまま黙っているはずがない。私は三年生の教室の窓から、遠く王都の空を見つめて思う。もし闇の王が本気で目覚めれば、私がツンデレかどうかなんて問題じゃなく、国の生死を賭けた戦いが始まるのだから……。
それでも、とりあえずは平和な学園生活をスタートさせよう。私は心にそう決めながら、新たな一年を迎える三年生の初日を終えるのだった.......
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