56話 アニー、ついにセレスティアに“真のシナリオ本”を見せる…けれど闇の影が忍び寄っていますわ!
ある放課後、アニーが慌ただしく私を呼び出した。「セレスティアさん、やっと……やっと見つけたんです! 私が前世で持ち出した“開発資料”の一部を……」
場所は学園の旧書庫の一角。既に使用されていない古い棚の裏側に、アニーが隠すように保管していた封筒があった。そこには彼女が転生前に書き留めたメモと、ゲームシナリオ草案の抜粋が挟まっているという。
「いくらなんでもこんなところに保管していたの?」と私が呆れると、アニーは赤面しながら言い訳をする。「ごめんなさい、私自身もどこにしまったか分からなくて……。学園祭の後、必死で探したら棚の裏に落ちてて…」
アニーの手にする資料は紙束の形で、文字がぎっしり書き込まれている。まだ完成していない“裏ルート”のシナリオ要旨や、ラスボス“闇の王”の設定、そして“王太子とヒロインが協力して封印”する流れ――さらにその横に、“悪役令嬢が実は光魔法の真の使い手として覚醒”というメモもある。
「やっぱり……この世界は最終的に“魔王”クラスの闇存在が登場して、国を揺るがすイベントになる構想だったんですね。それで、その魔王を封印するには『王太子の光』『聖女の祈り』に加えて、“もう一人の光属性”が必須…」
私が資料を繰り返し読み、途中で息をのむ。そこには“3人で同時詠唱する合体呪文により、魔王を封じる”という案が走り書きされていた。
「3人って、まさか私、アニー、そして殿下……?」
アニーは頷く。「ええ、ただ実際に誰が3人目かは、開発の途中で二転三転して。最初は“悪役令嬢が逆転ヒロインになる”説が有力でしたが、完成版で変えられたかもしれません」
どちらにせよ、今の私がその“第三の光”にほぼ当てはまっている可能性は高い。王太子リヒトが思うほど自分が万能ではなく、実際に魔物騒動でも私が光魔法を駆使している現状を考えれば、私こそが魔王封印のキーパーソンだとしか思えない。
「もし本当に魔王が出るなら、殿下と私、そしてアニー。3人が力を合わせて封印の最終呪文を唱える……か。アレクシスやガイ、レオナルトも重要だけど、最終的な決め手は私たち3人なのかしら…」
読み進めるほどに、そんな確信が深まる。私が悪役令嬢転生として破滅フラグを恐れていたのは、本当に前座でしかなかったのだろう。
アニーは背筋を伸ばしながら言う。「セレスティアさん、こうなったら私、教会の古文書と合わせてこの資料を研究して、“3人詠唱”のやり方を探ってみます。夏休みに教会へ行けば、似た情報があるかもしれません。だから……協力してください!」
「もちろんよ。私もまだ光魔法に習熟しきってないし、うまく殿下やあなたの力を合わせる方法を見つけたいわ」
こうして私とアニーは、学園の旧書庫で密かに“真シナリオ本”を読み込み、大雑把な確信を得る。魔王と戦うルートが確定した以上、私たちも早急に詠唱練習や術式の習得を開始すべきなのだ。
ただ、その資料の最後のページには気になる一文がメモされていた。「魔王は転生者クラスタを嘲笑し、ゲーム世界を乗っ取ろうとする」という、開発会議のメモらしきもの。
「これって…まさか魔王自身も別のゲームか何かからの転生で、この乙女ゲー世界を壊そうとしている、とか?」
アニーは不安げに唇を噛む。「ええ、そういうアイデアが一部スタッフの間で交わされてました。もし本当にそれが採用されたなら、魔王もメタ的に動いてるかもしれない。つまり“断罪イベントなんて取るに足らない”と蹴散らして、国全体をぶち壊す、とか……」
私は思わず身震いする。私が破滅フラグを回避した程度では済まされない、もっと根本的なシナリオ崩壊を魔王が狙っているのかもしれない。
「だからこそ、私たち転生組が団結して、ゲーム世界がメチャクチャになるのを防がないといけないのね。やるしかないわ…」
そう決めた矢先、廊下のほうでガイやアレクシスが騒ぐ声が聞こえる。「おい、変な闇の気配を感じるんだが! また魔物侵入か!?」
私とアニーは顔を見合わせ、資料を慌てて隠す。どうやらまた小さなトラブルが起きたらしい。いつまでも落ち着かない学園生活だ。
急いで廊下に出ると、アレクシスが「どうやら教室の隅に微弱な闇陣が描かれているのを発見した。誰がこんなイタズラを?」と額に手を当てている。取り巻き令嬢ズが「きゃあ、また怪しげな闇魔法?」と騒いでいた。
単なる愉快犯かもしれないが、この時期に闇陣を落書きするなど不穏すぎる。私が見にいくと、確かに呪文のような文字がチョークで書かれており、薄く闇気配を帯びている。
「これは…誰かが学園内で闇魔法を試そうとした跡? 召喚円にしては雑すぎるけど…」とアレクシスが呟き、私は光魔法であっさり消し去る。そもそも威力はほとんど感じられないし、召喚に失敗したか、あるいは誰かがわざと囮として描いた可能性もある。
「だんだん学園内部までじわじわ荒らしてきてるのかしら…」と私が顔をしかめると、ガイは拳を握って「面倒くせーっすね! 俺、こんなのより本命と戦いたいんだけどなあ」と歯ぎしり。
殿下が「小出し嫌がらせ…ほんと最悪だ。婚約破棄云々がどうでもよくなってきたよ…」と呟くのが聞こえ、私は思わず吹き出しそうになった。
アニーがそっと私の手を握り、小声で言う。
「今は“真のシナリオ本”を私たち2人だけで読み進めましょう。あまり他の人に見られても、パニックになるかもしれないし。落ち着いたら殿下にも伝えましょうね」
「分かったわ。夏休み前に、もう少し読み込んでおきましょう。魔王を倒す術式が見つかれば、闇勢力の出方も変わるはず」
そうして私たちは、闇魔法の痕跡が薄れた廊下を見渡しながら、改めて胸に決意を固める。悪役令嬢としての運命はとっくに消え、今は魔王への対抗策を手繰り寄せるルートを突き進むしかない。
こうして、アニーが私に“開発資料”を見せてくれたことで、私たちの認識ははっきりした。婚約破棄なんて話はもはや通り越して、真ラスボス(魔王)の出現がこの世界の最大イベントなのだ。
私が破滅するか否かなんて取るに足らない……いま重要なのは国そのものの命運。もう断罪イベントのパターンなどまったく影を潜めていると、痛感した
夏休みが始まる前に、私とアニーはシナリオ本を徹底研究し、殿下やガイ、アレクシスらにも協力を仰ぐことを決める。あとは教会で追加情報を得るのを待つばかり
――そんな慌ただしい空気のまま、闇の影はさらに忍び寄っていた。
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