54話 2年生後半、婚約破棄未遂が三度…でも闇の魔物騒動で断罪どころじゃない!
2年生も前半が終わり、補習期間を経て、いよいよ夏休みが目の前。
そんなある日の昼下がり、学園で再びリヒト殿下が“婚約破棄宣言”を仕掛けようとする場面に居合わせてしまった。
「えーっと、セレスティア! お前、やっぱり悪役なんじゃ……」
殿下は教室の隅で、あれこれ言葉を探りながら「……だからこの婚約破棄を……」と切り出すが、直後に廊下から悲鳴と騒ぎ声が聞こえてくる。
「きゃー! なんか変な影が窓を割って入ってきた!」
「魔物か!? 誰か来てー!」
大声が廊下に響き、私たちが顔を見合わせた瞬間、殿下の“婚約破棄”発言など吹き飛んでしまう。
ガイや取り巻きが武器や防御アイテムを手に走り出し、私も「殿下、行くわよ!」と急かす。殿下は「え、あ、ああ……」と勢いでついてくる。
(まったく、またこのパターンね……)
現場へ着くと、黒い羽を持つコウモリ型モンスターが2体ほど暴れていた。騎士科生や先生が応戦しているが、狭い廊下で飛び回るモンスターへの対処に手間取っているようだ。
私は即座に杖を構え、「光魔法で動きを封じれば、あとはガイや殿下が剣で仕留められるわね……。」
「おう、任せて!」
ガイが勢いよく踏み込み、殿下も剣を抜いて構えるが、またも私が光の閃光を先に放ってモンスターを落下させ、ガイが一撃、殿下が追撃という流れ。
「くそ……なんでいつも俺がトドメ役じゃないんだ……」と殿下が拗ねる姿が見えて苦笑する。
モンスターを鎮圧したあと、周囲の生徒が私の手を握って感謝し、「セレスティア様、いつもありがとうございます!」と盛り上がる。
「こ、こちらこそ……皆さんも怪我はない?」
「あ、はい、大丈夫です! 殿下もありがとうございました!」
ついでに殿下もお礼は言われるが、やはり私のほうが目立っているようだ。
私が苦笑していたら、義弟レオナルトが「姉上、さすがです! これでまた闇の出番を封じましたね!」と嬉しそう。取り巻き令嬢ズも「婚約破棄なんて無理無理!」と小声で盛り上がっている。
もともと殿下が私を呼び止めて「お前、悪役だよな? なら……」とか言い出した時点で、新しい断罪シーンを狙ったのかもしれない。
だが結局、この魔物騒動にすべてかき消され、私たちが協力して魔物を倒してしまった。
さすがに殿下もバツが悪そう。「はぁ……またチャンスを逃した……。てか魔物退治のあとに“お前を婚約破棄する!”なんて言い出す雰囲気でもないし……」
取り巻きが「殿下、ご愁傷さまですわ……」と同情したのかからかったのか微妙な笑いを漏らし、殿下は「うう……」と項垂れる。
(どうやっても私を悪者に仕立てるのは不可能ね。もう諦めればいいのに……。)
あらためて騎士科のガイは「いやー、セレスティアさんがいると早いっすね! もういつも先に魔物を打ち落とすから助かる!」と笑い、アレクシスは「フン、俺が必要ないレベルなのが悔しいが……まあいい。」とそっぽを向く。
レオナルトはいつもの通り「姉上が無事なら何より!」と大はしゃぎで、取り巻き令嬢ズも「やっぱりセレスティア様がいれば闇なんて怖くありませんわ!」と絶賛モード。
誰一人として「セレスティアを断罪しろ!」など言わない。むしろ私を守ろうとする人ばかりなのだから、婚約破棄はおろか破滅なんて生じるはずもない。
こうして3度目の婚約破棄チャレンジ(殿下いわく)も魔物騒ぎでフェードアウト。
学園の生徒や街の市民は「闇勢力が活発になるほどセレスティア様が動き、さらに光を放つ」という図式に慣れつつある。このままでは、殿下が何を言っても耳を貸さない流れが固定化するだろう。
(闇勢力が動けば動くほど、私が目立つ形になってしまうわね。ありがたいような、迷惑なような……。でも破滅フラグが遠ざかってるのは事実よ。)
他方、連日小規模な魔物が出るだけで、“黒ローブの魔術師”本体や闇魔導書の所在は未だ不明。
本格的に魔王を召喚したいなら、そろそろ大規模な儀式を起こしてもおかしくないはずなのに、まだ決定的な動きが見えない。
アレクシスは「相手も準備に時間がいるのか、あるいは我々を牽制しているのか……。このままじわじわ混乱を拡大させ、国力を削る狙いかもしれないな。」と推察する。
「それならなおさら、私たちが先に動きたいんだけど、情報が少なすぎるわ……。」
焦る私に、リヒト殿下が苦い顔で「俺も父上に進言してるが、闇魔導書がどこにあるか掴めない以上、大掛かりな捜索は難しいと言われる。もうしばらく待つしかないな……」と肩をすくめる。
そんな中、アニーが「夏休みに教会を訪れて古文書を調べれば、魔王封印の具体的な術式が分かるかもしれない!」と励ます。私もそれに期待している。
殿下やガイ、アレクシスらは学園周辺や王宮の捜査で手一杯かもしれないが、教会へ行くのは私とアニーだけという予定。
「そこで成果が出れば、魔王に対抗する術を形にできるかも……。そうすれば闇勢力も迂闊に動けないはず。」
こうして、何度目か分からない婚約破棄未遂が起きても、闇の騒動が即座にかき消し、実質的に“破棄話”は成立しないまま。
殿下が3度にわたって失敗する様子を見て、クラスメイトも「もはやネタだよね」と苦笑いするばかり。
取り巻きやレオナルトは相変わらず「セレスティア様は闇を斬る光の勇者です!」と盛り上がり、私は「もう好きにして……」という諦めの境地。
(破滅フラグなんて遥か昔に踏み潰してしまった感じ。婚約破棄? そんなもの無理よ、殿下。いま国に必要なのは私と仲間の結束なんだから。)
そう思いながら、私は夏休み直前の数日を過ごす。闇勢力の“本当の本番”がいつ来るのか分からない以上、少しでも力を温存しつつ備えを整えるしかない。
恋愛や婚約は後回し。国の安寧こそ最優先——それが私の揺るぎないスタンスになったのだ。
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