52話 リヒト&ガイ、国王から“王都防衛”強化指令を受ける…私の破滅どころか、国が危ない?
2年生前期が終わった翌週。
王太子リヒト殿下と騎士科のガイに、国王から直接「王都防衛強化」の打診があり、二人は王宮へ呼び出されたらしい。
その日の放課後、戻ってきた彼らは私たちに真剣な表情で報告してくる。
「父上(国王)が言うには、闇魔導書の行方は依然不明だが、王都や近郊で魔物が増えているのは確実……。そこで若手の王太子や騎士科エリートにも協力してほしいと。」
リヒト殿下は少し渋い顔。「本当は近衛騎士団だけで対処したいらしいが、闇魔導書の出処を見極めるには学園の転生者知識も頼りになると考えているようで……。ようやく重い腰を上げた格好だな。」
ガイが勢いよく頷く。「国王陛下、予想以上に危機感を持ってましたよ! もし闇勢力が大規模召喚をかけたら、騎士団だけじゃ手が足りないかも……って。俺も騎士科代表として協力するって返事してきました!」
話を聞いた私はあらためて感じる。殿下もガイも、断罪イベントや学園ラブコメに浸る余裕はない。本格的に国防モードへ移行しているのだ。
そもそも私は悪役令嬢としてどうこう言われるどころか、「光魔法の要として王家も期待している」状態。破滅なんてどこにも存在しない。
「なら私も力を合わせるわ。せっかく国王が危機感を抱いてくれてるなら、学園の仲間と連携して闇を押さえるしかないわね。」
そう返事すると、リヒト殿下は苦笑い。「……ああ、これで本当に婚約破棄は絶望的だな。俺が“お前を悪役だ!”なんて叫んでも誰も信じないし、父上がむしろお前を頼りにしてるんだから……」
「あはは、殿下、本音がダダ漏れですわよ?」
周囲の転生者たちがくすくす笑う。殿下が「う、うるさい!」と赤面する姿を見て、私は内心ちょっと微笑ましく思ってしまう。
殿下の話によると、国王が「非常召集プラン」を用意しており、近い将来学園の上位生(騎士科や貴族科の有志)が夜間の防衛ラインに一部加わるかもしれない。
アレクシスやガイなど戦闘力のある学生は喜んで協力するだろうし、聖女アニーや私の光魔法も必要となれば呼び出される。
「本当に物騒な時代になったわね……学園生活でこんな戦争準備に駆り出されるなんて、前世のゲーム感覚じゃ考えられないわ。」
私が呟くと、取り巻き令嬢ズが「セレスティア様、ここぞで悪役ムーブする暇がなくて残念ですわね!」と冗談めかして笑う。
(いや、そういう問題じゃない……でももう悪役令嬢なんて誰も信じないから別にいいわね。)
学園のシステムでは、期末試験後に補習期間が1週間ほど設けられ、苦手科目がある生徒は登校して補講を受ける。一方、成績優秀な生徒は自主勉強という形で登校義務がなくなる。
私とアニー、アレクシス、殿下は上位成績のため基本的に自由行動。ガイや取り巻き令嬢ズもほとんど補習はないらしい。
しかしこれにより、学園へ足が遠のいて自警団連携が取りにくくなる懸念もある。
「バラけると闇勢力が狙いやすいかも……。気をつけなきゃいけないわね。」
私はそう危惧するが、レオナルトやガイが「緊急連絡網を作りましょう!」と提案し、最低限の連絡体制は整えることになる。
先に決まった通り、2年生で成績上位5名には国王からちょっとした勲章や奨学金的な褒賞が贈られる。アニーが1位、私は2位、アレクシス3位、殿下4位、ガイ5位という順だ。
夏休み前に授与式が行われるらしいが、私はあまり気が乗らない。「ただでさえ目立ってるのに、国王の前で表彰なんて……今更だけど恥ずかしいわ。」
取り巻きは「いいじゃないですか! セレスティア様が王家から正式に表彰されれば、ますます“王太子婚約者”としての地位が揺るぎなくなりますわ!」と嬉々として笑う。
リヒト殿下は「う……それは俺の破棄計画に致命傷だな……」と青ざめるが、もう遅い。
(殿下、本気で破談したいなら、この段階で私と国王を繋げるような褒章式に反対すればいいのに。でも父王には逆らえないわよね、仕方ないわ。)
褒章を受ける立場になった私は、ほぼ“王家の英雄令嬢”扱いと言っていい。期末試験2位+学園祭モンスター退治などの実績が評価され、周囲は悪役イメージから遠く離れた認識を抱く。
こうなると、破滅フラグなんて影も形もない。かえって「セレスティア様万歳!」の声すらある。
(悪役令嬢の皮がどこへ行ってしまったの、って感じ。でも嬉しいかどうかは微妙ね……何しろ闇勢力の不穏さで心が安まらない。)
廊下の一角で、殿下がまだ「もしセレスティアが魔王に取り込まれるとか、闇落ちするとか、そういうスキャンダルがあれば破棄のチャンスが……」などと言い出すが、周りから総スカンを食らう。
「殿下、そんなあり得ない仮定に頼るなんて、男らしくないですよ!」とガイが笑い、アレクシスは「むしろ俺が闇落ちする可能性があるのに、セレスティアに押し付けんな。」と呆れる。
私は呆れ笑いするしかない。(本当に、もはや殿下はただの駄々っ子に見えるわ……)
「セレスティアさん、私、夏休み中に“聖女の教会”へ行く予定なんです。実はそこに古文書があって、闇の王に対抗する術式が書かれている可能性があって……もしよかったら一緒にどうですか?」
アニーの申し出はとても魅力的。私も光魔法のさらなる応用を学べるかもしれないし、何より“闇王封印の鍵”を探す上で参考になるだろう。
「そうね、行きましょうか。私もちょうど夏休み中にやるべきことが欲しかったし。学園や王宮で手掛かりを待つだけじゃ不安だもの。」
アニーがパッと笑顔になる。「ありがとうございます! 協会の神父さんが協力的な人なので、期待できるかも……。頑張りましょうね!」
(これで夏休み開始前後に、教会方面で新情報が得られるかもしれないわね。王太子やガイ、アレクシスも別ルートで調査を進めるはず……私が悪役令嬢だとかいう話は、もう完全にどこかへ吹き飛んでる。)
こうして、リヒト殿下への婚約破棄フラグは未だしぶとく残っている“建前”こそあるものの、現実的には消滅状態。学内外の誰もが私を認め、むしろ次期王妃候補として見る声もある。
(いまだに殿下自身がゴネてるけど、このままじゃ結局破棄できないでしょう……。私もそれでいいと思い始めてるわ。断罪イベントなんて起きるわけがない。)
悪役令嬢どころか“国の光”として頼りにされる私。夏休みを目前に控え、少しでも力を蓄え、闇勢力との最終決戦に備えなければ……。
頭の片隅で「本当にこんな展開でいいの?」とツッコミたい前世の自分もいるが、今さら違う道は考えられない。
「大丈夫。私が破滅する代わりに、闇の王を破滅させるだけ……!」
そう自分を奮い立たせつつ、褒章式や教会への下調べなど、夏休み前の予定がぎっしり詰まっていくのだった。
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