50話 2年生の前期試験が終わり、ひと段落→ 闇魔法使いの影が街に……?
「ようやく期末試験が終わったわね……。」
わたくし、セレスティア・ノイエンドルフは王侯貴族が通うクレリア魔法学園の2年生。
前期末試験がすべて終了し、さすがに今はほっと一息ついていた。
結果発表はまだ先だけれど、これまでの感触からするとおそらく上位に入るだろうし、何より“悪役令嬢”としての破滅フラグはとうに消滅してしまった。
「姉上、本当にお疲れさまです!」
義弟レオナルトが、満面の笑みでお茶を差し出してくれる。教室から退散したあと、ちょっと遅めの昼休憩を取ろうとしていたところだ。
「ええ、ありがとう。あなたも試験はどうだったの?」
「もちろんバッチリです! ……まあ、僕は姉上がいれば何でもいいんですけどね!」
レオナルトは腐女子転生だったはずが、今では“姉上を最優先に守る弟”として突き進んでいる。私への忠誠は相変わらずだ。
とはいえ、試験が一段落したからって安心はできない。
ここ最近、闇魔法が再び街に影響を及ぼしつつあるという報告が続々と入っている。
王都近郊では小型魔物の出没率が上がり、学園の地下迷宮にも亀裂が走った跡が見つかった。どう考えても“不穏な闇勢力”が活発化している証拠だ。
「……期末が終わったら、また何か起こりそうな予感がするわね。」
私がそう呟くと、廊下の向こうからアニーが小走りでやってきた。聖女としての献身が評価され、学園内でも大忙しの彼女は、試験期間でも色々と先生の手伝いをしていたらしい。
「セレスティアさん、王都のほうでまた小規模の魔物騒ぎがあったって……。ガイさんから連絡が来てます!」
アニーの声は震えが混じっている。ガイは騎士科の試験を終えてすぐ、街へ偵察に出たのだとか。早速“闇魔法を帯びた魔獣”と遭遇したとのこと。
「なるほどね……。やっぱり本格的に動いてるんだわ、あの闇魔導書を盗んだ真犯人が。」
私は深いため息をつき、二人を見回す。「いくら試験が終わったっていっても、夏休みに入るまで少し時間があるし……今のうちに何ができるか考えないとね。」
それからほどなくして、王太子リヒト殿下が慌ただしく姿を現す。彼は学園側の偉い先生とやり取りしていたらしく、かなり忙しそうだ。
「セレスティア、今時間ある? ちょっと騎士団経由で話があって……先週あたりから、王都で“黒ローブの魔術師”が複数回目撃されてるんだ。」
「黒ローブの魔術師……。いかにも怪しいわね。」
「ああ。しかも闇魔導書に関わりがある可能性が高いって、騎士団が警戒してる。でも決定的な証拠が掴めなくて……。」
リヒト殿下の表情は暗い。彼も転生者として「悪役令嬢断罪イベント」を追い求めていたはずだが、すでにそれどころじゃなくなっている。私を婚約破棄するより国の危機をどうにかしなきゃ、という意識に切り替えているのだろう。
「じゃあ、その黒ローブをどうにか捕まえられれば、一気に事件解決に近づくかしら?」
「そう思う。でも街は広いし、夜間は騎士団が巡回しても見失うことが多いらしい。……学園からも自警団的に協力したいところだが、生徒を危険に晒すわけにもいかないし、王宮としては慎重に考えてるんだ。」
そこにアレクシスがふらりと現れ、冷めた声で口を挟む。
「慎重も何も、すでに王都で魔物が増えてるんだぞ? 確実に“闇の王”が復活する前兆かもしれない。王家の腰が重いなら、俺たちだけでも動くしかないのか?」
「アレクシス……あなた、また一人で暴走するつもり?」
私が訝しむと、アレクシスは「フン、前みたいに下手な召喚を仕掛ける気はない。ただ、もう悠長に待っている余裕がないって言ってるだけだ。」とそっぽを向く。
(たしかに、事件は秒読み段階かもしれない。私が悪役令嬢とか言ってる暇、本当にどこにもないわね……)
やがて騎士科のガイが学園に戻ってきて、息を切らせながら報告する。
「いやー、魔獣は倒せましたけど、街角であちこちに魔の残滓が漂ってます。誰かが定期的に闇魔法を放ってるとしか思えませんね!」
「やっぱり……。これ、期末試験が終わったタイミングを狙ってるんじゃ?」
私の胸がざわつく。ここから夏休みに入るまでの短い期間こそ、闇勢力が仕掛けを大きく打ってくる可能性が高い。現に昨年の夏は宝物庫盗難事件が起こった。
「やばい、また夏休み前に一波乱あるかも。学園祭みたいな大騒動がふたたび来たらどうしよう……。」
レオナルトは「姉上、もし闇勢力が学園を狙うなら僕がなんとか食い止めますよ!」と意気込むが、正直そろそろ“私個人の力”だけでは対応しきれなくなるかもしれない。
私が「国王や騎士団にもっと強化してもらわないと……」と呟くと、殿下が「ああ、父上(国王)とも話してるが、まだ決定的な証拠がないため大々的な布令は出していないんだ」と歯がゆそうに答える。
(このまま表立った対策なしで闇勢力に先手を取られたら、本当に危ないかもしれない。もう“破滅フラグ回避”とか優雅に言ってる場合じゃないわ……)
学園の一角にて“自警団ミーティング”が始まる。アレクシス、ガイ、アニー、レオナルト、そしてリヒト殿下もいる。
「夜な夜な王都を巡回する? でも俺たち学生は、学園の外に頻繁に出られないだろう。」
リヒト殿下が悩むと、ガイは「そんときゃ俺が動きますよ! 騎士科トップとしてなら外泊許可も取りやすいし!」と威勢よく宣言。
アレクシスは「あまり派手にやると黒幕が警戒して逃げるかもしれない。こそこそ探るほうがいいかもしれないな。」と冷静な提案。
アニーは「夜に魔物が大量発生したらどうしましょう……。私たちだけで対処できるかしら?」と不安そう。
私は唇を噛み、「……何とかしなきゃいけないわ。騎士団と連絡を密にしつつ、私たちも光と聖女力、それに闇魔法探知を活用して犯人を追う。期末終わった今がチャンスよ!」と決断する。
そんな“自警団ムーブ”を決めても、日常的には私も学園生活を続けている。今日も放課後、遠方の街に行くわけでもなく、学内で簡単な課題を片付けていると——
モブ生徒が私のところへ駆け込み、「セレスティア様、すみません! 実技練習中にちょっとした火魔法が暴走して、倉庫に火が移りそうなんですけど……」と泣きそう。
「火魔法? ああ、わかったわ。念のため私の光バリアで封じてあげる。」
かくして倉庫に駆けつけ、周囲の生徒や教師と協力して火種を抑え込む。
結果、「セレスティア様って対応力神レベル……」「悪役どころか学園のお母さん的安心感……!」などとまた評判が上がってしまう。
(母親ポジ……それはそれで複雑だけど、まあいいわね。平和が保てるなら何より)
期末の解放感もあり、ガイとアレクシスが中心となって数名の有志を集め、夜間の簡易パトロールが開始される。
リヒト殿下も「王宮の近衛騎士を一部動かす」と宣言し、学園周辺や王都へ配置を増強。
だが、闇魔法使いは捕まらず、黒ローブらしき人影を見てもすぐに消えてしまう。
私が参加できるのは限られた日だけだし、いまだ収穫は薄い。
「焦るわね……闇勢力は何を狙ってるんだろう。」
アニーに尋ねても、彼女も「私もわかりません……闇の王を復活させるにしても、もう少し強行的に動きそうなのに、妙にチクチク嫌がらせみたいな魔物発生ばかりで……」と首をかしげる。
(もしかしたら、闇の王の完全復活には時間や条件が必要で、その前に小規模な闇魔法で実験を繰り返しているんじゃ?)
ある日の放課後、私が校舎裏で風に当たっていると、レオナルトが心配そうに声をかけてきた。
「姉上、最近ちょっと疲れてませんか? 街でも学園でも、何かと助けを求められてるし……闇勢力ともいつ衝突があるか分からないし……」
「そうね……正直、休めてないわ。でも私が立ち止まっている間に、闇の連中が好き放題したら嫌じゃない?」
私は笑って返すが、レオナルトは唇を噛む。「でも、姉上が倒れたらもともこもない……。あまり無理しないでくださいね。」
可愛い弟の心配に胸が温かくなる一方、“本当に私は無理してるかも”と少し思う。悪役令嬢として断罪される恐怖からは解放されたのに、今や“闇と戦うヒロイン”の重圧が大きくのしかかっている。
(それでも私が頑張らなきゃ……国が危ないのだから、仕方ないわよね)
教室で仲間たちと顔を合わせるたび、共通の不安がよぎる。夏休み前のこの時期こそ、昨年も宝物庫盗難事件が起きたタイミングだ。
リヒト殿下が机を叩いて言う。「もう一度言うが、奴らが本格的に動くなら今だと思う。学園が休みに入れば生徒がばらけ、王都も人が増えて監視が難しくなるし……。」
ガイやアレクシスも同意。アニーは少し怯えつつも「じゃあ、きちんと自警団を強化して備えましょう!」と前向きだ。
私も頷く。「そうね。一度きりの夏休みがモンスター退治で終わるのはごめんだわ。あらかじめ対策して、もし奴らが仕掛けてきてもすぐ鎮圧するしかない。」
こうして、私たちは*自警団”の体制を再確認。取り巻き令嬢ズやレオナルトも協力する。怪しい動きがあればすぐ情報共有し、私は光魔法をスタンバイ……。
(完全に悪役どころか、正義のパーティの一員になってるなあ……)
前回の学園祭でモンスターを倒し、街でも小型魔獣を撃退した。成績だって上位。
周囲は私を光のヒロインと仰ぎ、悪役令嬢扱いする者はいない。
しかし本当に“闇の王”なるラスボスが出てきたとき、私はちゃんと勝てるのだろうか? 不安とプレッシャーが膨らむばかり。
(破滅フラグを避けるどころか、世界そのものを守るフラグを背負うなんて……。そんな大役、本当に私に務まるのかしら?)
だが、今さら引き返せない。
アニーやリヒト殿下、ガイ、アレクシス、取り巻き令嬢ズ、レオナルト……みんなが私に期待を寄せている。
私は大きく息を吸い込み、もう一度覚悟を新たにする。「やるしかないわ。私が“悪役令嬢”という鎖から解放されたのなら、その分自由にこの世界を守ってみせる……!」
こうして期末が終わったタイミングで、闇勢力に立ち向かう決意をさらに固める私。
次に来る夏休み前後が、ひとつの大きな分岐点となるのだろう——そんな予感が胸を揺らし、私はまた一歩“国を救う”覚悟に踏み込んでいくのだった。
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