46話 闇の気配を追って外出→セレスティアがモブを助ける…もはや完全に悪役じゃありませんわ!
末試験開始まであと数日。
そんなある休日、私は少し気分転換にと王都の商店街へ出かけていた。もちろん義弟レオナルトも同行し、プチ勉強会用のノートや文房具を買いに行くつもりだったのだけど——。
街中を歩くうちに、妙な寒気を覚える。「あれ……なんだか嫌な予感がするわ」
レオナルトはすぐ察して、「姉上も感じましたか? なんだか空気が重いというか……闇魔法をかすかに察知します」と警戒する。
すると案の定、少し先の広場で悲鳴があがる。「ぎゃああ! 魔物だ……助けて!」
私たちが走って駆けつけると、黒い狼型の魔物が1体。どうやら獣耳の先が赤く燃えていて、見慣れないタイプだ。通行人を威嚇している状態で、騎士団はまだ到着していない。
「くっ……姉上、どうします?」
「やるしかないでしょ!」
私は急いで杖を取り出し、光魔力を込める。一方、レオナルトは周囲の人々に「皆さん、危ないので下がってください!」と誘導してくれる。
(まるで私がヒーロー役……って、もうツッコミ疲れたわ)
魔物は牙を剥いて吠えるが、私は臆せず光のバリアを広げて被害を最小限に抑えつつ、短い呪文で牽制。「小さい個体だし、あまり手こずらないはず……!」
案の定、光の一撃で狼型魔物は怯み、レオナルトが投げた小さな封魔石が命中して消滅する。
「やりましたね、姉上!」
「ええ、これくらいなら……」
周囲には私たちが知らないモブ貴族や一般市民が大勢いるが、皆口々に「ありがとうございます!」「セレスティア・ノイエンドルフ様……! あなたが噂の光魔法使いですか?」と頭を下げる。
「まさか街中で魔物が出るなんて……最近どうなってるの?」と不安げな声が飛び交い、私は苦笑。「私も詳しくは分かりませんが、大丈夫ですよ。王太子殿下や騎士団がしっかり対処していますから」
(悪役令嬢のはずが……こうやって街の人々を安心させる立場になるって、どういうことなの)
モブから感謝され、「すごいわ、まるで王家の聖女さまみたい!」とまで言われると、改めて悪役感が消え失せているのを思い知らされる。
「姉上、本当によかったですね! こんなに人助けをしていれば、誰も姉上を悪役だなんて思わなくなりますよ!」
「そうね……私が破滅するルートは消え去ったと思うわ。ありがとう、レオナルト」
とはいえ、内心は穏やかじゃない。街で魔物が当たり前に出る状況こそ、本当に危険信号だからだ。短期的には私が撃退できるとしても、根本的な解決にはならない。
(闇魔導書を操る真犯人がますます活発化しているのが確実だわね……ひとまず被害が最小で済んでよかったけど)
助けた人々が口々に感激し、
「偉大なる光の守護者様」
「ノイエンドルフ侯爵家は国を救う家柄だ!」
などと騒ぎ始めるのに、私のほうが戸惑う。「そ、そんな大げさな……」
そもそも“悪役令嬢”という噂がどこから広まったのか、もう覚えていないレベルだ。きっと前世のゲームが原因だろうが、現世では私の行動が全然悪役じゃないから、みんなイメージの修正に余計な混乱を起こしてる。
「あの子、王太子の婚約者として我が物顔かと思いきや、実はすごく優秀で国民思いの令嬢らしいよ?」
「悪役令嬢(笑)とか言われてたけど、実際ヒロインじゃん!」
そんな声が広まり、私はもう「……好きに言ってちょうだい」としか返せない。過去の私が聞いたら唖然とするだろう——破滅フラグ回避を越え、神格化される勢いだ。
レオナルトは上機嫌に「ほら姉上、みんなが拍手してますよ!」と嬉しそう。私は赤面しながらも手を振って応じるしかない。
こうして買い物どころじゃなかったけれど、とりあえずノート類を買い足して帰宅する。途中、レオナルトが「姉上の活躍、きっと殿下に報告しましょう!」と張り切るし、なんだか恥ずかしい。
翌日、リヒト殿下に「街でまた魔物を倒したのか……本当にお前は……」と感嘆される。“俺の計画”とか“婚約破棄”という台詞すら出さないレベルで、もはや殿下も混乱。
アレクシスやアニーからも「いやぁ、セレスティアさん頼もしすぎる……」とシンプルに褒められ、今さらツンデレ悪役ムーブができるわけもない。
(完全に“いい人”として定着してしまった。悪役転生はどこへ行ったの、私……)
しかし、その一方で闇の魔物が街中に現れるペースが上がっているのは事実。学園周辺だけでなく、王都全体が“表向きは平和、裏では闇が浸食”というやばい状態に陥っているようだ。
それでも私たちは学生。期末試験が目前に迫っており、教師陣は「闇の脅威は王宮や騎士団が対処します。あなたたちは落ち着いて試験に備えてください」と繰り返す。
学年のトップ争いも激化し、アニーやアレクシス、私が競り合う構図が予想され、ガイは「あーもう、勉強より魔物退治がしたい!」と嘆き、リヒト殿下は「王太子としてあまり成績が悪いと示しがつかない……くそ、婚約破棄云々より点数が……」と頭を抱えている。
結局、期末試験は予定通りの日程で行われることに。
(仕方ないわね……私も闇に備えつつ試験を乗り切らないと)
校内のベンチでノートをめくっていると、アレクシスが通りかかる。普段ならツンとした態度の彼だが、珍しく気さくに「試験勉強か?」と声をかけてきた。
「そうよ。あなたもトップ狙いでしょう?」
「別に……どうでもいい。闇魔法の研究が優先だ。けど、成績が悪いと親にうるさく言われるしな」
アレクシスはそう呟き、すぐに話題を変える。「街で魔物を倒したんだって? お前、本当によくやるな。敵なしの優等生だな」
「別にそういうつもりは……ただ、見過ごせなかっただけ」
アレクシスは苦笑しつつ、「前は俺が悪役ムーブをしてやろうと思っても、周りの転生者たちがノリが良すぎて空回りしたけど……お前の場合、いつの間にか本当にヒロイン化してるじゃないか。羨ましいような、腹立たしいような……」と率直に述べる。
「なんの嫌味かしら。私だって好きでこうなったわけじゃないわよ。ただ、周囲の状況がどんどん闇に傾いてるんだから、止めなきゃいけないと思っただけ」
「フン……まぁ、お前に文句を言う資格はない。俺も少しは見習って“闇に対抗する闇”を極めてやるさ。今はお前と協力するしかないだろう」
そう言って、ツンと横を向いて去る。
(アレクシスも本音では私を認めてくれてるのね……闇×光の共闘は近いかも。私が悪役じゃなくて、彼が逆に私のライバルか協力者みたいな立ち位置に収まっているわ)
結局、期末試験直前も私が街で魔物を倒すという事件が重なり、私の評判は爆上がり。
取り巻き令嬢ズも「さすがセレスティア様! 全方位に神対応!」などと盛り上げまくり、まるで私がヒロインの立場を独占しているかのように見える。
(もう破滅フラグなんて跡形もないわね……ああ、あとは闇勢力さえ一掃すれば本当に幸せになれるかしら……?)
そんな甘い考えもよぎるが、同時に「まだ真犯人が姿を現さず、地下迷宮の封印がいつ破られるか分からない」現実が重くのしかかる。
期末試験が終わった後、夏休みが来る前に何か大きな動きがあるのではないか? と私は警戒心を強めざるを得なかった。
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