43話 2年生の授業“地下迷宮封印実習”に遭遇…あれ、真の闇が封じられているって本当?
学園には地下迷宮があり、古来より闇の力を封じている
——というおとぎ話のような伝承が残されている。
実は毎年2年生以上が“地下迷宮の封印実習”を行い、封印に歪みや穴がないかを点検・補修するのが恒例行事。その時期がやってきたのだ。
私もクラスメイトも、教師に引率されて地下へ降りる準備をするが……今回ばかりは嫌な胸騒ぎがする。
■ 地下迷宮封印実習とは?
学年ごとに班を組み、迷宮内の結界石や封印陣を巡回し、不備がないかを確認する。
もし小型の魔物が湧いていたら、実習の範囲で退治する。
本格的な危険があれば教師や騎士科がサポート。
例年は形だけのイベントらしく、めったに大きな魔物は出ないという。だが、今年は闇魔導書の盗難事件や学園祭騒動で、闇の力が強まっているのでは? と不安の声が上がっている。
私たちの班
・セレスティア
・リヒト殿下
・アニー
・ガイ
・アレクシス…
なんとも絶妙な組み合わせの班編成になった。先生が「このメンバーならバランスが良い」と判断したらしいが、実際には転生者大集合状態。
義弟レオナルトは別の班となったが、そちらも取り巻き令嬢ズが一緒だというから、あちらも転生率高そうだ。
学園の生徒の半数近くが転生者という事実に改めて気づき、私は苦笑する。
(もうここ、前世オタクの集会所ね)
地下迷宮の入口には、厳かな石造りのゲートがあり、鍵を開けて入り込むと、そこは薄暗い通路が延々と続く。
私たちは教員の説明を受け、簡易ランタンや魔石ライトを携えて歩き出す。
「さっそく古の封印陣をチェックしましょう」と先生が言うが、アレクシスは後ろでぼそっと呟く。
「ここの封印、どれくらいの闇を押さえ込んでいるんだ? 本当に“闇の王”レベルが眠ってたりしないか?」
「そうね……私もそこが気になるわ。もしこれが破られたら、国全体が大惨事になるかも」
隣を歩くアニーが神妙な面持ちで頷く。リヒト殿下は黙って聞き耳を立て、ガイだけが「大丈夫でしょ! 俺らがいればなんとかなるよ!」と能天気。
しばらく進むと、案の定、コウモリ型の闇モンスターやネズミ型の小悪魔などがちょこちょこ出現してくる。
ガイは嬉々として剣を振り回し「うおお、漫画のRPGみたいだぜ!」と突っ込んでいき、リヒト殿下も王太子としての剣技を披露しながら討伐に参加。
私は必要最低限の光魔法を放つだけで大半は撃退でき、アニーが回復サポート……と、われわれの班はかなり余裕がある。むしろ先生や他班の生徒が「強すぎる……」と呆れるほど。
(ある意味、最強メンバーすぎるのよね……婚約破棄どころか、王党派エリート集団みたいになってる)
奥の広間へたどり着いたとき、私はアレクシスに呼び止められた。「セレスティア、ちょっとこっちに来い。何か気になるものが……」
先生は別方向で封印陣を点検中なので、私たちは少し抜け駆けする形でアレクシスのそばへ集まる。
すると、壁の一部に紫黒い亀裂のようなものが走っていて、そこから微かな瘴気が漏れ出しているのが分かった。
「これは……ただのヒビじゃないよね?」とアニーが怯え声。リヒト殿下も「嫌な感じがする……あの宝物庫扉が破壊されたときと似た闇属性を感じるな」と顔をしかめる。
ガイは「なんだなんだ? 俺、ぶっ叩けば塞げる?」と力づくモードだが、アレクシスが「やめろ、下手に刺激すると爆発するかもしれない」と止める。
私はそっと手をかざして魔力を探ってみる。すると、確かに“外部からの闇魔力”が流れ込んで、この壁を蝕んでいる気配を感じる。
「もしかして、外部の誰かが闇魔導書の術式を使って、迷宮の封印に亀裂を入れてる? ここが破れたら、中の闇が溢れるのかしら……?」
鳥肌が立つ。先生に報告しなきゃ……とは思うが、うかつに騒いで校内パニックを起こすのも危険。
リヒト殿下が真剣な表情で言う。「俺が国王や王宮の学者に調査を頼もう。先生には軽く伝えておくが、過度に騒ぎにならないよう注意するよ」
私たちは頷き合い、とりあえず応急処置としてアレクシスが闇魔力を逆手にとって“上塗り封印”を行い、私が光魔法で補強する。
ガイが「すげぇ……闇と光の合作?」と驚き、アニーが「私も聖女の祝福を……」と3人がかりで亀裂をふさぐと、一応瘴気の漏れは小康状態に。
(やっぱり、誰かが迷宮の封印を狙ってるんだ……もしこれが本格的に破れたら、闇の王とかが出現しかねない。こわいわ)
そうして封印を補強しつつ、実習を終えると、教師に「皆の班、魔物はたくさん出たか?」と訊かれ、「ええ、まぁ少しね」と曖昧に報告する。
先生も「ここ数年でいちばん闇の活性が大きいかもしれない。だが大丈夫、騎士団や学園がしっかり抑え込むだろう」と楽観視している。
私の心は晴れないが、この世界ではこういう危機感のズレが珍しくないらしい……。
地上に戻ったころ、クラスメイトが「セレスティア様、本当にありがとう! 迷宮で魔物に襲われそうだったのを助けてもらいました!」と声をかけてくる。
「そ、そう……大丈夫だった?」
「あまりに頼もしすぎて、悪役令嬢だなんて忘れてました!」
「もはや悪役じゃありませんわ……」
周りが口々にそう言い、私は照れくさいやら申し訳ないやら。ツンデレ悪役どころか、“勇者”扱いされるのが当たり前になりつつある。
(破滅フラグはいいとして、これじゃ婚約破棄も断罪も何もないわね……まぁ、国が滅ぶよりはマシだけど)
放課後、アレクシスが「おい、セレスティア……昨日の封印について、もう少し調べた方がいい」と声をかける。リヒト殿下やアニー、ガイも加わり、自然発生的な“自警団ミーティング”が行われる。
アレクシス曰く、「封印にできた亀裂は、人為的に闇魔導書の呪術をぶつけて開けられた痕跡があるかもしれない。今は応急処置しても、いずれまた破れる可能性がある」という。
リヒト殿下はうなるように言う。「学園祭のモンスター騒動もそうだが、闇魔導書を手にした真犯人が、さらに大きな陰謀を狙っているのは確実か……」
アニーが震えながら「わ、私も開発スタッフとして“地下迷宮封印が破れる→闇の王出現”みたいな隠しルートを考えたことがあります……。それがまさかリアルになるなんて……」と唇を噛む。
(これ、最終的に“闇の王”が国を襲うルートが発動しかねないわね。前世のゲームでも裏ボスだったかもしれないし……)
みんなの顔に緊張が走る。ガイだけが拳を握りしめ「やるなら早く来いや! 俺が叩きのめす!」と根拠のない自信を覗かせるが、まぁそれも励みにはなる。
最終的に、王太子リヒトが「王宮にも協力要請を出すが、俺たち学園メンバーも引き続き闇の気配に注意を払おう。セレスティアがいるから大丈夫、という思い込みは危ない」とまとめる。
私は半ば呆れて笑う。(殿下、あなたが一番“セレスティアがいれば何とかなる”と思ってそうだけど……)
地下迷宮封印実習は無事(?)終わったが、“闇魔導書が封印に干渉している”という疑惑はますます確信に変わりつつある。
私が“悪役令嬢”として破滅するルートは完全に消え、代わりに**“国全体の破滅”を防ぐために働くヒロイン令嬢**になってしまったわけだ。
リヒト殿下をはじめ、ガイやアレクシスまでもが私の活躍を期待する状態……もう避けられない。
(……やれやれ、いつ“断罪”されるのかビクビクしていた頃が懐かしいわ。今は断罪じゃなくて“頼むからセレスティア助けて!”なんて空気だし……)
だが、周囲が私を持ち上げるほど、私は不安も大きくなる。果たして本当に、闇勢力との衝突を避けられるのか? あるいは近い将来、ゲームの終盤さながらの大戦争が起きてしまうのか……?
私の学生生活は、相変わらずツンデレ悪役エッセンスを出しきれないまま、本来の悪役令嬢らしさが霧散していくばかりなのだった。
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