40話 学園祭当日④ 婚約破棄未遂(再び)~アレクシスがついフォローする? もう断罪は無理ゲーに…
激闘の後、学園の混乱をひとまず収めた私たち。
モンスターを召喚した犯人がアレクシスだと判明し、大半の生徒や先生は激怒……と思いきや、事情を聞く限り「確かにアレクシス様が軽率だったが、規模があまりにも大きいし、何者かに干渉されたのでは?」と不思議がる声も多い。
王室や教師陣もこの件を本格的に調査するらしいが、今は祭りを再開するかどうか協議中。客の安全確保が最優先だ。
混乱が落ち着いた体育館の一角で、王太子リヒト殿下が人目を憚らず声を張り上げる。
「そ、そうだ! この機を逃す手はない……みんなの前で“セレスティアが黒幕だ”みたいな断罪をぶち上げて……いや、でも待て、普通に考えてこいつ(アレクシス)が犯人だし、セレスティアは救世主扱いだし……」
彼の言葉が支離滅裂なのを、周囲は失笑交じりに見つめる。
私は「殿下、落ち着いて。私が光魔法で救った現場を、皆が目撃してるんだから、あなたがいま私を断罪しても誰も信じないわよ?」と冷静に指摘。
「うぅ……分かってるよ。でもさぁ、婚約破棄したかったんだよ、俺……」
「ああ、はいはい。もう無理だから諦めて」
自棄になりかけの殿下を見て、アニーが「殿下、そんなに塞ぎ込まないでください。今は皆で闇の脅威に対処するのが先決ですし……」と慰める。
「そ、そうだな……ああ、なんでこうなるんだ。俺の転生ライフ、もっとハーレムでウハウハのはずだったのに」
殿下は肩を落とし、婚約破棄も断罪もどこかへ吹き飛んだまま。
そこへ、片隅にうなだれていたアレクシスが苦い顔で近づいてくる。「……王太子殿下、さすがに今回はセレスティアを断罪するわけにはいかないだろ。彼女は学園祭を救ったんだ……俺の失態をフォローしてくれた、英雄と言ってもいい」
「お、お前がそういうこと言うか……!」
殿下が驚くと、アレクシスは目を逸らしつつ「俺だって好きでこんな大事にしたわけじゃないんだ……。何者かが俺の召喚魔法に介入し、モンスターを強化させた可能性が高い。セレスティアがいなければ、もっと被害が出ていたに違いない」と返す。
私が「アレクシス……」と声をかけると、彼は「勘違いするな、感謝してるわけじゃない」とそっぽを向くが、その頬は微妙に赤い。
どうやら彼なりに、自分のやらかしを認めており、私に助けられた事実を否定できない様子だ。
(こんな形でアレクシスが味方? というかフォローしてくれるなんて、ますます破滅フラグがどこかへ吹き飛んでいるわね……)
今回の一件で学園中も「セレスティア様なしではヤバかった!」という声が大勢を占める。
さすがに王太子が「悪役令嬢を処罰する」なんて言い出しても、誰も賛同しない。
モブ令嬢たちも「悪役令嬢(笑)じゃなくて、もう立派なヒーロー令嬢でしょ?」と評価をガラリと変え、取り巻き令嬢ズは「むしろ“破滅”なんて絶対あり得ませんわ!」と胸を張る。
リヒト殿下も「……あーもう、どう足掻いても断罪イベントなんか無理……」と力なく微笑むしかない。
当の私としては、破滅フラグが消え失せるのは喜ばしいけれど、同時に大きな疑問が浮かぶ。「アレクシスの召喚に干渉したのは誰か?」ということだ。
闇魔導書を盗んだ真犯人が、この学園祭を狙って闇魔物を増幅させたのかもしれない。そんな不気味な推測が頭を離れない。
ひとまずモンスターは殲滅されたし、当日の夕方までには混乱が落ち着く。関係者の判断で「せっかくの学園祭だから、一部エリアを閉鎖してでも続けよう」と方針が固まる。
私も店に戻ると、客やクラスメイトから「セレスティア様が魔物を倒したんですって!?」「本当に助かりました! ありがとう!」と熱い歓迎を受ける。先ほどまで以上に客足が増え、“英雄に会いたい”という野次馬も押し寄せてきた。
取り巻きたちは「きゃー、セレスティア様、もはや悪役令嬢じゃなくてメインヒロインですわ!」とはしゃぎ、私がテーブルに紅茶を注ぐだけで「うわ、本物だ……!」と拍手する来客までいる。
(なんなのこれ……恥ずかしいけど、もうどうしようもないわね。とにかくありがとうございますって返すしか……)
レオナルトが「姉上、今日だけで何杯の紅茶を注ぎました? お疲れでしょう」と気遣い、ガイが「いやー、モンスターと戦う姿カッコよかったっすよ!」と興奮気味。
アニーも「セレスティアさん……あなたこそ私の理想のヒーローです……!」と目を潤ませている。
(ヒロインのセリフが私に向いてるんですけど……これはもう破滅どころか大団円フラグ?)
その頃、リヒト殿下は一人廊下で呟いていた。
「セレスティアが活躍して婚約破棄はますます遠のいたけど……正直、今はそっちより闇魔導書の犯人が気になる。国を脅かす存在が裏で暗躍してるのは確かだ。アレクシスも被害者かもな……」
アニーに続き、殿下までこう考えるようになりつつある。*悪役令嬢の断罪より、国の闇勢力のほうが遥かに問題”だと。
(これで私の破滅フラグは完全に遠のいたと思いたいとこね……)
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