04話 義弟レオナルトは、腐女子転生!? 姉上推しがすぎますわ!
私が学園入学を控え、ドタバタと準備を進めるある日の午後。
ぼんやり窓の外を見ていると、敷地の隅から「セレスティア様~!」と子犬のような声が聞こえた。
姿を見せたのは義弟レオナルト。……といっても、血の繋がりはない。十四歳の少年で、半年前からノイエンドルフ侯爵家に引き取られている。
「お姉さま、こちらの資料はもう確認なさいましたか?」
レオナルトが小走りでやってくる。その腕には分厚い魔法学園のパンフレットや王宮から届いた入学案内書が山積みにされていた。
顔立ちは整っていて可愛いし、いつも丁寧にサポートしてくれる。まるで忠実な侍従のように振る舞ってくれるのだけど……。
「あなた、いつも言動が熱血すぎるのよね。私のために何でもやってくれるのはありがたいけれど……どうしてそこまで?」
不思議に思って尋ねると、レオナルトはキョトンとしてから、にっこり微笑んだ。
「だってお姉さまは推しですから!」
推し? ……推し、という単語は、この世界ではあまり聞かないはずだ。前世オタク用語っぽいけれど……。
私が怪訝そうに「推し……?」と聞き返すと、レオナルトは「えっ、今のなし! 何でもありません!」と慌てて言葉を濁す。
(まさか彼も何かしらの“転生者”なの? だとしたら、BLがどうこうという前世腐女子説が浮上するんですけれど……)
なんて私の頭によぎるが、いやいや、さすがにレオナルトが腐女子の生まれ変わりだなんて……。
——しかし、その疑惑は直後に確信へと変わることになる。
「お姉さま、殿下との関係は順調でしょうか? 破局フラグなど立とうものなら、僕が絶対にへし折ってみせます!」
レオナルトはそんな物騒な宣言を嬉しそうに放つ。
「へし折る、って……あなた、王太子と私が破局するのがゲームの定石だと知っているの?」
思わず本音が漏れそうになるが、私は必死に堪える。——おそらくこの子も、前世のゲーム知識を持っている。そこから「悪役令嬢×王太子は破局」という既定路線を知り、でもそれを回避させようとしている……?
「お姉さまには絶対に幸せになってもらいたいんです! 何といっても僕は……その、腐っ、じゃなかった……前世でずっとBL漫画を愛読していて……じゃなくて!」
レオナルトの言葉がなんだか怪しすぎる。
「あなた、今“腐”って言いかけたわね? 腐というのは……その、例の? 男同士の恋愛がどうとか?」
「うっ、違いますよ! ……あぁ、でも、正直に言うと前世でそういうものが大好物だったのは確かです。でも今は男の体で生まれ変わっておりますし、現状はお姉さま×王太子が一番尊いと思っております!」
なんなんですの、その語尾……“尊い”って、以前も取り巻きが使っていたようなオタク用語では?
頭がクラクラする。私には未知の領域すぎるわ……。
「つまり、あなたは『姉上×王太子』の組み合わせを推しているってこと?」
「そうです! 二人がいちゃいちゃしてくれれば僕は大満足。前世では悪役令嬢が断罪されるのを面白がってましたが、今は断罪なんて絶対に許しません! 姉上を破滅させるなんて、とんでもない!」
そこまで真剣な顔で言われると、こっちまで身が竦む。
(前世では散々「ざまぁw」みたいに笑われていた悪役令嬢が、今世では腐女子(?)転生者によって全力で守られている……?)
「だ、だけど……私自身はそこまでラブラブ路線を目指しているわけじゃないのよ。むしろ破滅を回避できればそれで……」
「いいえ、もっと堂々と殿下にアプローチするべきです! 遠慮なんていりません! お姉さまの美貌なら殿下もイチコロですよ!」
「そ、そういう問題じゃないわ……っていうか、王太子リヒト殿下自身が“婚約破棄イベント”を待ってるみたいな雰囲気なのよね……」
私が困ったように言うと、レオナルトはキッと目を細めて拳を握った。
「そ、それは断じて許しがたい行為ですね! 殿下が姉上を捨てるなんて、もし本当にそんなことしたら、僕は殿下を……」
「落ち着きなさい! あなたが王太子にケンカ売るなんてできるわけないでしょ!」
危ない危ない、レオナルトは何かと暴走しがち。こうして私を応援してくれる気持ちはありがたいが、彼の腐女子脳(?)はどこへ向かうのか読めない。
——けれど、まあ……この子が必死に応援してくれるおかげで、私は少し心強い気持ちにもなる。
家族みんな優しいけど、レオナルトの“お姉さま推し”っぷりはちょっと度を越えている。それでも憎めないんだもの。
「ふふ……ありがとね、レオナルト。あなたがそこまで言ってくれるなんて、ちょっと嬉しい……わ」
私が最後だけ小声になってしまうと、レオナルトはパアッと花が咲いたように笑顔になった。
「お姉さま……! そんなツンデレなところも最高! 次はぜひ殿下の前でデレを見せつけてくださいね!」
「余計なお世話よ!」
こうして、私の義弟は前世腐女子という謎設定を抱えたまま、“破滅回避”を応援してくれるらしい。——なんだか心配だけど、ま、いっか。
私が悪役令嬢の道を歩んでるとか、王太子の婚約破棄イベントが待ち受けてるとか、もはやまともに考えるだけ無駄に思えてきた。
だって、周りには私を“破滅させたい派”も“破滅させたくない派”もいて、みんなそれぞれ楽しんでるから……。なんなのよ、このややこしい世界は!
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