36話 ガイが騎士科イベントで露店を開く→妙に繁盛!? わたくし、地味に焦りますわ!
学園祭まで数日を残したある日、学園内で“模擬店の試験営業”みたいな催しが行われた。2年生の一部クラスや騎士科が事前に店を出して、練習兼ねて雰囲気を掴むため……という段取りだ。
私たち悪役令嬢チームも、実は当日へ向けてのリハーサルとして「お嬢様ティーサロン」の簡易版を出そうと準備していたのだが——。
朝から校庭の一角にはいくつかのテントが並び、騎士科の連中がにぎやかに客引きをしている。
その中でもガイが率いる“○○バトルアクション飯”とかいう露店がやたら人だかりを作っていた。
「うおお、すごい長蛇の列……なんでこんなに人気なの?」
私は少し遠目でその列を見ながら首をかしげる。取り巻き令嬢ズも「あんなに騎士科の店が繁盛するなんて珍しいですわ!」と驚いている。
ガイの露店を覗いてみると、彼が前世で読んでいた“少年漫画”のレシピを再現しているとかで、お肉と野菜をガッツリ炒めたスパイシー料理を大鍋で豪快に作っていた。
そして客には「さあ召し上がれ! 俺が編み出した“秘伝のタレ”でパワーUPだぜ!」とノリノリで対応。
勢いに押されているのか、みんな「これ美味しい!」「しかもなんかテンション上がる!」と大絶賛。
(なるほど……イメージ的には“漫画飯”の実写版みたいな感じね。味もなかなか良さそうだし、なによりガイの接客が元気いっぱいで楽しそう)
一方で私たちの「お嬢様ティーサロン(試験版)」は、校内の廊下の一角でこぢんまりとテーブルを並べ、高級紅茶と焼き菓子を提供していた。取り巻き令嬢ズが笑顔で「いらっしゃいませ」と上品に誘導している。
しかし、お客の反応は「へぇ、素敵……」くらいで、ガイの店ほどの行列はできない。
しかもメニューの値段設定もやや高めなので、安価にガツガツ食べたい生徒からすると敬遠されがちだ。
私はカウンターに立ちながら、「うーん、確かにコンセプトが“上品さ”だから、ガイのような派手さはないかもしれないわね……」と少し物足りなさを覚える。
レオナルトが「姉上、大丈夫です! きっとお上品な雰囲気を好むお客が来ますよ!」と励ましてくれるが、実際に通りすがりの生徒は「え、紅茶一杯であのお値段……?」「お嬢様の接客……気後れするなぁ」と引き気味。
取り巻きのベルティーユが「セレスティア様、“高笑い”で威圧感を出せば逆にウケるかもですわ!」と言い出すが、私は首を振る。
「いや、ますます客が逃げそう……。もう少しアットホームさも取り入れるべきかしら?」
そんなわけで、あまり盛況とは言えない私たちの店に対し、ガイの店は昼過ぎには材料が尽きるほどの売れ行き。
夕方前、私が試しにガイの店に足を運んだら、そこには「完売」の札がかかっており、ガイは「いやー、笑いが止まらねぇっす!」と満面の笑み。
「くっ……なんなのよ、あのテンション……。ちょっと羨ましいわね」
私が小声で呟くと、ガイが気づいて手を振り、「セレスティアさん、来てくれたんすか! ごめんね、もう材料がないんだ。今度作りましょうか?」とあっさり対応。
「別にいいわよ……あなた、たいしたものね。前世の漫画飯がこんな形でブレイクするなんて……」
「へへ、俺もびっくりすよ。やっぱ肉×スパイスって最強っすね!」
試験営業が終わった後の反省会で、取り巻きたちは「セレスティア様のお店が高級すぎたのでは……」「もっとパフォーマンス要素を入れては?」と口々に意見を出す。
私も「そうね……ちょっと上品路線を意識しすぎたかも。学園祭って若い生徒がメインだし、もう少し手軽に親しめるメニューも検討しましょう」と答える。
アニーからも「うち(聖女カフェ)はハーブドリンクを安価にして客が入りやすいようにするつもりなので、価格調整しては.....」とアドバイスされ、私は頭を抱えつつ頷く。
(こういう“学園祭”の盛り上げ方って、悪役令嬢にはやや向いていないのかもしれないわ。……でも、負けたくない気持ちもあるのよね。殿下がヒロインを贔屓してるし、ガイまで大成功してるし……ああ、地味に悔しい!)
結局、私はちょっとした“対抗心”を燃やし始める。
(リヒト殿下が望む“嫉妬イベント”というわけじゃないけど、これではあまりに不甲斐ないしね。悪役令嬢らしくドカンと華やかにやってやろうかしら?)
こうして、私たちは「華やかな悪役令嬢サロン」に路線変更する方向で修正を重ねる。
価格を少し下げて“体験型”にする
洋菓子ももう少しリーズナブルな種類を追加
「おほほ!」と高笑いする店員さんをあえて配置して、エンタメ感を出す……などなど。
取り巻き令嬢ズはその案に大喜び。「セレスティア様の高笑いならお客さん大ウケ間違いなしですわ!」と息巻いている。
そんな騒動の中でも、義弟レオナルトは終始にこやかだ。
「姉上は何をやっても可愛いので、絶対に上手くいきます。僕はBL脳……じゃなくて、姉上至上主義ですから、全力で応援しますよ!」
「……え、ええ、ありがとう」
いつも通りレオナルトのテンションに若干引きつつも、私としては内心助かる思いだ。この子は細かい実務も得意で、店の備品調達などもテキパキこなしてくれる。
こうして“悪役令嬢チーム”はやる気を再燃させ、ガイの露店のような賑やかさに負けないよう工夫を重ねることに。
(模擬店対抗戦だし、どうせなら楽しく派手にやって勝利を目指してみせるわ……!)
夕方、私が校舎裏で廃棄するダンボール箱を片づけていたら、アレクシスの呟きが風に乗って聞こえてきた。
「チッ、ガイの店が大繁盛? セレスティアまで本気を出す? ……なら、俺もモンスター騒動で見せ場を作るしかないな」
最後の方が聞き取れなかったがゾッとする。
思わず物陰で身を潜めると、アレクシスは一人で腕を組んでいるようだ。
(やはり、学園祭で何かするつもり……最悪、ガイや私たちの模擬店が被害を受けるかもしれないわ。どうしよう……)
私はまだ確証がないので先生に通報することもできず、ましてや殿下が仕掛ける“婚約破棄ドタバタ”で頭いっぱいだし……。
結局、この不穏な気配を拭えないまま、学園祭本番は近づいてくるのであった。
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