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34話  リヒト、不本意ながら“模擬店対抗戦”を仕掛ける……も、やはり空回り?

学園祭の準備が本格化し始めたのは、2学期に入ってからしばらく経った頃だった。


わたくし、セレスティア・ノイエンドルフは学園祭実行委員に選ばれ、王太子リヒト殿下や本来のヒロイン・アニー、取り巻き令嬢ズなどとともに、毎日のように企画会議を行っている。


「さて、今年の学園祭はより規模を拡大し、各クラスやサークルが模擬店やステージ発表を行う予定です。……そこで、模擬店対抗戦という形で競争要素を入れましょう!」


そう提案したのは、委員長役を務める上級生の男性……と言いたいところだが、実は背後でリヒト殿下が糸を引いていると私は睨んでいる。


なぜなら、リヒト殿下がやたらと「競い合うことで盛り上がるんじゃないか?」などと煽り気味だからだ。


「うーん……模擬店同士が張り合って勝敗を決める、というのは確かに面白そうだけど……」

私は委員会メンバーがざわつく中、こっそりリヒト殿下に目をやる。すると、殿下は小さくニヤリと笑い返してきた。


(はぁ、やっぱり。これ、殿下が望む“悪役令嬢VSヒロイン”の構図を作り上げ、最終的に婚約破棄イベントへ持ち込もうとしているに違いないわ……)


けれど、学園の先生や他の生徒たちも「いいじゃないか、模擬店対抗戦!」と盛り上がり、「どうせなら大々的にやりましょう!」と即決。


アニーがこっそり私の隣にやってきて、「やだ……私、対決とか苦手なのに……」と弱気声を漏らすので、私も小さくため息をつく。


「大丈夫よ、私もそこまで乗り気じゃないから。むしろ普通にお店を出して楽しく盛り上がればいいんじゃない?」

「そうですよね……でも、殿下や周りが期待してるなら、真面目に取り組まなきゃ……」

控えめながら意外と責任感の強いアニーが眉をひそめる。


結局、その日の会議で“模擬店対抗戦”は公式に決定され、アニーを中心としたヒロインサイドの店と、セレスティア+取り巻き令嬢ズを中心とした悪役令嬢サイドの店で何やらライバル的構図が作られる運びとなった。


リヒト殿下は「よしよし、これで“悪役令嬢が必死に勝とうとする→ヒロインの店が人気→逆恨み→婚約破棄”みたいなルートが……」と妄想しているらしいが、私は「いやいや、そこまで単純にはいかないわよ……」と内心冷ややかに思う。


放課後、委員会が解散した後、私はリヒト殿下に呼び止められた。人気のない階段の踊り場で、彼はこっそり耳打ちしてくる。

「なぁ、セレスティア……正直、俺もこんな回りくどいやり方はしたくなかったんだが、もう打つ手がないんだよ。お前は全然“悪役”しないし、アニーはお前にベタ惚れだし……」

「……それを言われても困るわね。私はそもそも、破滅フラグを回避したいだけなのよ?」

「分かってる。けど、王道のシナリオだと学園祭の対決で悪役令嬢が焦って陰謀を仕掛ける→ヒロインがそれを乗り越える→最後に悪役が断罪……って定番だろ?」

「しらないわよ、そんなの……」


私は呆れ気味に殿下を見やる。彼は肩をすくめてため息をつく。

「……まぁ、不本意だけど、こうでもしないと“婚約破棄”が形にならないから。頼むから、お前ももう少し“いじわる”してくれよ?」

「嫌よ。私がそんなことしたら、本当に周りから嫌われるかもしれないし。だいたい私は、国全体が闇の脅威にさらされてる可能性の中で、くだらない小芝居をしてる余裕がないの」


ズバッと切り返すと、殿下は「うぐっ……」と苦い顔をする。


「分かった……まぁ、今は学園祭の準備で忙しいし、アレクシスやガイも動いてるから……とりあえず俺はヒロインの店を贔屓してみるよ。お前、少しはムカついてくれ」

「……殿下、ほんと懲りないわね」


半ば呆れながらも、私は胸の中に微かな違和感を覚える。


(リヒト殿下、だいぶ昔と比べてトーンダウンしてるわね……。)


その辺の真意は分からないまま、私は階段を降りる。廊下を歩くと、そこには取り巻き令嬢ズが待っていて、「セレスティア様、模擬店対抗戦に向けて打ち合わせを!」と目を輝かせる。


……こうして、半ば強引に“悪役令嬢チームVSヒロインチーム”という対立構図が仕立てられていくことになった。


翌日、取り巻き令嬢ズや義弟レオナルト、そして騎士科のガイも駆けつけてくれ、私のチームで会議を行う。場所は学園のカフェテリアの一角。


ベルティーユがノートを開き、「ではセレスティア様、模擬店のコンセプトはどうなさいますか?」と尋ねてくる。


私は考えをまとめ、静かに言う。

「そうね……私たち“悪役令嬢チーム”というネーミングはどうなのかしら。正直、普通に『セレスティア家のお嬢様喫茶』でいいと思うんだけど」


「ええー、それじゃ普通すぎてでは?」

コネットが首をかしげる。


しかし私は、「何も変に悪役ムーブを全面に押し出す必要はないわ。優雅で落ち着いた空間を提供して、そこに気品やちょっとした高飛車感を少し混ぜれば十分よ」と断言する。


「いわゆる“お嬢様喫茶”スタイルで、貴族のマナーを体験できる……みたいなのはどうかしら?」

それを聞いた取り巻きたちは「なるほど……!」「意外とウケるかも!」と興味津々に。


「そこに、あえて“あら、そこの平民さん。ポットは握れますか?”みたいな軽い嫌味を添えると“悪役令嬢気分”が味わえてお客様も喜ぶかも?」

「でも、やりすぎると本当に感じ悪くなるから加減が難しそう……」


こうして賑やかにアイデアを出し合い、最終的に「『セレスティア様の高貴なるティーサロン』(仮)」と名付けられる。


(もう突っ込むのは諦めね.....)


レオナルトはノリノリで「ぜひ姉上に優雅なドレスを纏わせて、来客に“おほほ”と笑ってもらいましょう!」と提案するが、「やりすぎは禁物よ」と私がたしなめる。


ガイはガイで「ふーむ、俺は騎士科の企画を手伝うけど、こっちの店にも顔を出しますわ。なんか混み合いそうだなー」とワクワクしている。


(なんだか……“対決”というより普通に楽しい企画会議ね。殿下が狙うドロドロ展開なんて起こりそうにもないわ)


こうして私たちは、リヒト殿下がわざと「ヒロインの店を全力支援!」と言い出しても、動じずに正々堂々と準備を進める方針を固める。


一方でアニー側も「やりすぎな贔屓は困る」と殿下を困惑させ、うまく空回りさせていると聞く。


(やっぱりドロドロイベントは遠いみたいね。……まぁいいけど、私としては破滅しないに越したことはないもの)



そんなふうに学園祭の話題で賑わう中、私の頭の片隅には依然として闇魔導書盗難や王都での不穏な動きがこびりついている。


(学園祭にかまけている間に、本当に国全体が危険にさらされたらどうしよう……。アレクシスもますます闇に踏み込みそうだし、真犯人はまだ見つからない。リヒト殿下も婚約破棄どころではなくなるかも……)


だが、今はとりあえず“対決イベント”を求める殿下の思惑が表に立ち、周囲も「学園祭だー!」と浮かれている様子。


私は心にひそかな不安を抱えながらも、模擬店対抗戦の準備に精を出すのだった。

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