03話 「取り巻き令嬢ズは、まさかの“悪役令嬢推し”ですの!?」
「おほほほ……!」
……と、今日も私は無理やり“悪役令嬢っぽい高笑い”を練習している。
なぜか? それは“破滅フラグ回避”をするため……というか、正直どうしたらいいかわからないからだ。
何しろ前世のゲーム知識が半端にしか思い出せず、“悪役令嬢は最終的に断罪される”という断片だけがやたらリアルに脳内を支配しているのだから。
「セレスティア様~、お部屋にいらっしゃいますか~?」
そんな私のところへ、今日もにぎやかな足音が近づいてきた。声の主は、取り巻き令嬢Aことベルティーユ嬢。背後には同じく取り巻き令嬢Bのコネット嬢もいる。
二人は幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、私が王太子との婚約者と決まったときにも「すごいわ、セレスティア様こそ悪役令嬢の華ですわ!」などと、若干謎の方向でテンションを上げていた記憶がある。
「……って、あれ? 悪役令嬢の“華”? あまり普通の取り巻きが使いそうにない表現ですわね?」
当時は深く考えていなかったが、いま改めて思い返すと妙な言葉遣いだ。
だいたい“悪役令嬢の華”なんて、普通なら絶対に褒め言葉じゃないはず。なのに二人は、まるで拍手でもするように喜んでいた。
「あら、セレスティア様、ちょうどよろしければお話を……。あら? 今もしかして高笑いの練習をなさっていたのかしら!?」
ベルティーユがキラキラと目を輝かせる。
コネットも負けじと「わぁっ、なんて素敵な悪役感……! 完璧ですわ!」と妙に興奮気味だ。
「い、今のを聞かれた!? ……恥ずかしいからノックくらいしてくださらない!?」
私が頬を赤くして言うと、二人は顔を見合わせ、そろって「おほほ……!」と笑う。
いや、ちょっと待って、あなたたちまで悪役風に笑わなくていいのよ。何なんですの、この連帯感は……。
「それで、何の用なの?」
私がツンと顎を引きながら問いかけると、ベルティーユが嬉々として言った。
「はいっ。実は……わたくしたち、セレスティア様が学園生活で“悪役ムーブ”をもっと堪能なさるために、色々とお手伝いしたいんです!」
「お手伝い……?」
「ええ、いずれヒロインが現れたら、いじめイベントとかあるかもしれないでしょう? でもセレスティア様は優しすぎて、どうも及び腰になりそうで……。そこでわたくしたちがサポートというか、盛り上げ役というか……!」
――ちょっと待って。
いじめイベント? 盛り上げ役? 何やらとんでもないワードが飛び出してきたような……。
私は思わず眉をひそめる。
「あ、あの……ベルティーユ、コネット? あなたたち、私を破滅させたいの? それとも応援したいの?」
「もちろん応援してますとも!」
「はい! セレスティア様は悪役令嬢界の星。負けイベントも含めて全力で魅せていただきたいんです!」
……もうなんだか訳がわからない。応援してるのに負けイベントも見たいって、どっちに転んでも楽しそうにしているじゃないの。
「まさか……二人とも“悪役令嬢”という存在にロマンを感じるとか……?」
私が半信半疑で尋ねると、ベルティーユとコネットは顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「ええ、実は……わたくしたち、前世で乙女ゲームをこよなく愛していたんですの!」
「ここだけの話、この世界が乙女ゲームっぽいって知ったとき大興奮しちゃって……特に悪役令嬢ルートって、一番ドラマチックで燃えるじゃないですか!」
そこで私はハッとする。
私が断片的に知っている“前世のゲーム”の知識。私は悪役令嬢を回避したい側なのに、彼女たちはむしろ“悪役令嬢ルート”を推している……。
つまりこの子たちも転生者……! しかも私が破滅することすら“イベント”だと思っている可能性があるってこと!?
「ちょ、ちょっと待ちなさい。じゃああなたたち、このまま私が悪行を積んで破滅するのを期待してるわけ?」
震え声でそう問うと、二人は「まあまあ」と笑って手を振った。
「まさか。破滅エンドが来てもドラマとしては面白いですし、回避したらしたでそれはそれでハッピー。だからどっちでもおいしいんですの!」
「わたくしたちは、セレスティア様が目指すところを純粋に応援したい! ただ、もし悪役エンドに行かれてもそれはそれで最高! ……というスタンスですわ♪」
ある意味、最強すぎる。
だって彼女たちにとって、私は失敗しても成功しても“おいしい展開”なんだもの。いろいろな意味でサポートしてくれるのか邪魔するのか、まるで読めない……。
「……はぁ、そう。好きにしてちょうだい」
私が肩をすくめると、二人は声をそろえて「はい!」と答えた。
「じゃあ学園入学したら、まずはヒロインが見つかるかどうか観察ですわね! 平民出身の可憐な聖女が絶対いるはずでしょ?」
「セレスティア様、ぜひ高飛車に“あなたなんか殿下に釣り合いませんわ!”とか言い放ってください!」
いきなり気合い十分な二人を前に、私はただため息をつくしかないのだった。
——こうして私は、思いがけず“悪役令嬢推し”の取り巻きたちという、ある種の最強同盟(?)を得てしまったわけだけれど、これが後に私の破滅フラグ回避をややこしくさせるとも知らずに……。
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