28話 王家の古文書を読み返すリヒト殿下、“本来の破滅イベント”を再確認?
夏休みも半ば。
闇魔導書の盗難という大事件があったものの、今のところ大規模な二次被害は報告されていない。
「闇の脅威はこれからが本番なのか……」
そんな不安が頭をもたげる中、王太子リヒト殿下は王家の書庫にこもって古文書を漁っていた。
——————————リヒト・視点
「おっかしいな。前世のゲーム知識では、悪役令嬢が『2年目か3年目に断罪される』のが王道だったんだけど……。今1年生が終わったばかりなのに、セレスティアはむしろ人気者。婚約破棄の気配すらない。国全体が“彼女こそ未来の王妃だ”みたいな空気だし……」
俺は王家の私的な書庫で、歴代の“断罪イベント”に類する記録を探している。
もちろん、これは前世から持ち越した“オタク的興味”でもあるし、実際の歴史書から「王太子が婚約者を破棄した事例」や「貴族令嬢が追放された例」を引っ張り出してるわけだ。
その中に、ゲーム世界と対応しそうな記述があるかもしれない、と期待して。
「ふむ……ここの書物によると、かつて“悪役令嬢”扱いされた侯爵令嬢が、2年生の終わりに大罪を犯した……みたいな記載があるな。王太子は皆の前で彼女を糾弾し、追放したと書いてある……」
これは何百年も前の事件らしいが、俺のゲーム知識と妙に重なる。
「なるほど……やっぱり“2~3年目にクライマックス”がこの世界のセオリーなんだ。なら、まだワンチャンあるかもしれない……」
だけど、正直俺は複雑だ。セレスティアが悪役としてあっさり破滅するのも寂しいし……。
「くそ……俺は最初、ハーレム計画でニヤニヤしてたのに、どうしてこうなった……。闇魔法のほうがよっぽど危険だし、そもそもセレスティアが破滅する雰囲気ゼロじゃないか……」
ため息をつきつつ、さらに古い巻物を読み進める。すると、中にこんな一文を発見する。
——「断罪の行方は“公的なスキャンダル”の有無による。悪役令嬢がどんなに悪行を重ねても、決定打がなければ破棄は発生しない」
なるほど。つまり「大衆の面前で揺るがない証拠を突きつける」
——これこそが悪役断罪のカギだと書かれている。
俺は目を見開き、唸った。
「そっか……だから俺が何度『婚約破棄だ!』と言おうとしても、周りが誰も聞いてくれないし、セレスティアが大罪を犯してないから説得力がなかったんだな……」
じゃあどうすればいい? 彼女に何かスキャンダルを起こさせればいいのか? でもそんなことを画策して、もし本当に傷ついたらどうする?
「……あー、もう、俺ってなんでこんなに優柔不断なんだ? 自業自得か……」
頭を抱えていると、遠くからガイやアニーらの声が聞こえてくる。どうやらまた学園仲間が王宮に来てるらしい。
「もういいや。とりあえず、2年生で何か動きがあるかもしれないから……それまでは闇魔導書の件に集中したほうがいいか……。破滅フラグなんて、余裕があればやればいいし……」
そう自分に言い聞かせて書庫を出る。結局、古文書で得た情報は「2~3年目が勝負」「スキャンダルが必須」など、既に分かっているような内容ばかりだった。
(まさか、闇の脅威がこのまま大きくなれば、悪役令嬢を断罪どころじゃなくなるんじゃ……?)
胸の奥でそんな予感が疼く。
——————————セレスティア・視点
夕方、王宮の中庭。私は両親に同行して宮廷の用事を済ませる予定で来ていたが、空き時間にリヒト殿下と出くわした。
「殿下、古文書をずっと読み漁っていたって聞いたけど……収穫はあったの?」
私が聞くと、殿下は「まぁ一応ね……」と歯切れ悪く答える。
「あなた、まだ婚約破棄に未練あるの?」と茶化すと、リヒト殿下はむすっとして「そりゃ、最初はそうだったけど……今はちょっと複雑」と小声で呟く。
その態度が、前より優しい感じに見えて、私は胸の奥がかすかに温かくなる。
(そうか……殿下は殿下で葛藤してるのね。私が悪役令嬢だと思いつつ、なんだかんだ割り切れないみたい……)
ただ、すぐにリヒト殿下は照れ隠しか「ま、まあ、2学年になったらいろいろイベントも増えるし。そこでうまく行けば破局イベントが……いや、なんでもない!」とまた迷走発言をしていく。
私も苦笑いしつつ、「どうせあなた、私のことを完全に嫌ってはいないんでしょ?」なんて心の中で思う。
「闇魔導書、早く見つかるといいわね……。なんだかどんどん嫌な予感が増えていくの。よくわからないけど、大きな陰謀が動いてる気がして」
そう呟いた私に、殿下は穏やかな表情で「お前が危険に巻き込まれるのは避けたい。俺も騎士団と協力して頑張るから、変なことには首突っ込むなよ」と言ってくれる。
「……ありがと」
思わず素直に礼を言う。こんなところでツンデレ発揮しても仕方ない。
(うう、まるで普通の“いい感じ”な婚約者同士じゃない……。私、本当に悪役令嬢だったのよね? 記憶が曖昧になってきそう……)
こうして、リヒト殿下は古文書を再確認するも、結論として「2年目や3年目にチャンスがあるかもしれない」という程度。まったく大きな進展はなく、日常は不穏を抱えながらも回っていくのだった。
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