27話 宝物庫盗難事件の真相は? 闇魔導書を巡る不穏な影
「これは一体、どういうこと……?」
宝物庫が襲撃され、闇魔導書が盗まれた
——という衝撃的なニュースが瞬く間に王都を駆け巡った。
私もノイエンドルフ邸で耳にし、動揺を隠せない。学園仲間の大半も似たような反応だ。中でもアレクシスは明らかにソワソワしているという話を取り巻きが伝えてくれた。
事件が明るみに出た翌日、アレクシスはなぜか私の家にやって来た
(最近はガイや取り巻きが来る流れで、アレクシスも当たり前のように出入りしているのだ)
面会室に通されるなり、彼は低い声で言った。
「セレスティア……いや、ノイエンドルフ家の皆よ。今回の盗難事件、俺の仕業だなどと思わないでくれ。……確かに俺は闇魔法に興味はあるが、こんな大それたことはしていない」
まるで必死の弁明のように見える。私は苦笑しつつ、「落ち着いてちょうだい。誰もあなたを犯人だなんて決めつけてないわよ」と返す。
「本当か……? いや、俺も確かに闇魔法を使えるし、怪しまれても仕方ないと思うが……。だが、さすがに王宮宝物庫を破壊するほどの魔力はまだないんだ。大物の仕業だろう、きっと」
アレクシスがそこまで正直に言うのは珍しい。どうやら彼自身も内心ビビっているらしい。
というのも、宝物庫の扉が完全に闇魔法で粉砕されていたという話を聞き、「自分が夜な夜な裏庭で練習している程度の呪術では無理」だと悟ったそうだ。
「つまり、あなたより強力な闇魔法の使い手がいる……?」
「そう……それが国のどこかに潜んでいる可能性が高い。下手に俺が動けば逆に狙われかねないな……」
そう言ったアレクシスの横顔には、いつもの余裕はなく、少し怯えさえ混じっているように見えた。
(いつもは“いずれ国を支配する”なんて大口叩いていたのに、こういうときは普通に怖がるのね……)
その日の午後、リヒト殿下から「宝物庫の現場を見たいなら、特別に案内するけど……どうする?」と声がかかる。
好奇心と不安が入り混じったまま、私は父の許しを得て王宮を訪ねた。王太子の案内で宝物庫へ行くのは、貴族令嬢としては異例だけど、殿下があれこれ便宜を図ってくれたらしい。
宝物庫の前は、まだ荒々しい破壊痕が残っていた。扉の金属部分が捻じ曲がり、黒く焦げたような跡もある。
(これは……確かに、ただの闇魔法レベルじゃない。相当強力な力だわ)
私は息を呑む。リヒト殿下も渋面を作りながら、「現場検証をしている騎士団が言うには、周囲から濃い闇属性の残滓が検出されたらしい」と教えてくれる。
「殿下、闇魔導書って具体的にどう危険なの?」
私が尋ねると、殿下は腕を組んで答えた。
「古代に封印された秘術がいくつも記されているって話だ。死者を操る術とか、闇の眷属を大量召喚するとか……。もし悪用されれば、国中が魔物に蹂躙されかねない」
「そ、そんな……ただの乙女ゲーム世界じゃなく、ガチダークファンタジーになってしまうじゃないの」
思わず私の前世オタク知識まで混線しかけたが、いずれにせよ大変な事態だ。
「誰が魔導書を盗んだんだろう……。アレクシスじゃないことは私も信じてるけど……」
「……そもそも、この世界には転生者が多く入り込みすぎて、シナリオが変質しているのかもしれないな。もともと闇魔法なんて、ストーリー的には隠し要素程度のはずだったのに」
リヒト殿下が暗い表情で呟く。どうやら彼も“ゲーム知識”から外れた異変に戸惑っている様子。
それでも現状、私たち1年生(もうすぐ2年生)にできることは少ない。王宮や騎士団が大々的に捜査をしているし、下手に首を突っ込めば命の危険があるかもしれない。
「とにかく、夏休みが明けたら学園に戻るし、それまでおとなしくしていよう。……殿下も無茶はしないでね」
「わかったよ。俺もちょっと怖いしな……」
殿下はそう言いながら、どこか悔しそうな表情を浮かべる。“婚約破棄イベント”なんて呑気な話をしている場合じゃなくなった、という複雑な感情だろうか。
私も、悪役令嬢どうこうより、国全体が不穏な空気を帯びてきたことに胸騒ぎを覚えるのだった。
————————レオナルト視点
そのころ、私は(レオナルト)は王宮の奥まった通路をきょろきょろしながら歩いていた。
「闇魔導書が盗まれた……これは姉上にとって危険イベントの予感。絶対に阻止しなければ!」
私は腐女子転生とはいえ、いまは姉上の安全こそ最優先。婚約破棄イベントどころじゃない。
すれ違う騎士が「坊や、こんなとこウロウロしてどうした?」と声をかけてくるが、「ちょっと迷子で……」と適当にごまかし、さらに奥へ。
(宝物庫の扉を壊せるほどの闇魔法……いったい誰が? アレクシス様は別人だろうし、となると“隠しボス”めいた存在が本当にいるのかも……?)
姉上や殿下が巻き込まれないように、私はできるだけ情報を探りたい。
しかし王宮は広く、あちこち警戒が厳しい。「こりゃ駄目だ。あまり突っ込んでも捕まりそう……」
やむなく引き返そうとしたとき、廊下の曲がり角で不審なローブ姿の男を見かけた。
「あっ……!」
男はすっと私を睨むと、「チッ……」と小さく舌打ちして姿を消す。まるで幽霊のようにスッと。
(な、何……今の闇気配……まさか本当に黒幕がうろついてるの?)
急いであとを追おうとしたが、足音すら聞こえず、あっという間に見失ってしまった。
「これは……本格的にヤバいかもしれない。姉上、気をつけて……!」
私は心の中で叫びながら、廊下を駆け戻り、セレスティアへの警戒を促すのだった。
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