20話 夜会のあとで殿下が婚約破棄を言いそびれ? 私、うまく逃げおおせた……かしら?
夜会が終わってからほどなくして、リヒト王太子が“婚約破棄”を言いそびれたという噂が、取り巻きやアニーのあいだでささやかれるようになった。
どうやら、あの夜会中にこそリヒトが大勢の前で「セレスティア、お前とはもう終わりだ」と言う計画があったらしいのに、全然言い出さないまま解散してしまった——ということだ。
私にはあまり身に覚えがないけれど、考えようによっては“夜会の人だかり”で婚約破棄宣言をすれば、一挙に破滅イベントへ突き進む可能性があったかもしれない。
それをリヒト自身が狙っていたなら、その機会を夜会でうまく使おうとしたわけだ。けれど結局、レオナルトが先走って公爵子息を撃沈したりして、雰囲気を台無しにしたため、リヒトはタイミングを失って何も言えなかったらしい。
「はあ……また未遂ですか……」
私が隣で苦笑すると、リヒトは肩をすくめて「いや、だってお前、あの弟君や取り巻きに守られちゃってるからさ。
大勢が見てる前で“破棄”って持ち出すと、逆に俺が悪者扱いされそうで……結局言い出せなかったんだ」とぼやく。
もともと“学園に入ってから婚約破棄を演出して盛り上げたい”という計画があったのに、もう夜会でもダメだったわけだ。
「あなたも大変ね……私としては助かるけど」
思わずそう呟くと、リヒトは苦い笑みを浮かべ、「正直、これ以上のチャンスがあるのか疑問になってきた。お前、夜会でも人を寄せ付けない感じじゃないし、かといって弟くんが先回りして誰も近寄らせないし……」と嘆く。
まさに婚約破棄イベント未遂が繰り返されている現状を、当の王太子がどうにも処理しきれず困惑しているらしい。
それを聞いた取り巻き令嬢ズが
「まあまあ、殿下、そんなに焦らなくてよろしいではないですか。セレスティア様の破滅フラグはまだ始まったばかり……かもですし!」と適当な励ましをする。
私は「いや、はじまらないわよ」と内心突っ込むけれど、表情には出さない。
転生者だらけの周囲がいずれ破局イベントが来るかもしれないと薄い期待を抱いているのが見え隠れしていて、私は少し複雑だ。
しかし、リヒトが夜会後すぐの大衆の面前で破棄宣言を言いそびれた事実は、学園でもそこそこ噂になったようで、結果として「やはり婚約破棄なんて噂はガセだ」と見る声が強まっている。
実際、私に近づいてくる令嬢たちが
「セレスティア様、夜会で断罪イベントが起きると聞いてたけど何もありませんでしたね?」と口々に確認してくるほどだ。
もう、まるでみんながイベント楽しみ組みたいに待っているのが滑稽でしかない。
「仕方ないわ。殿下が言う通り、タイミングを失ったんだもの」
私がそう返すと、令嬢たちは「あらあら、残念ですわ~」とまるで娯楽を失ったような顔をする。取り巻きAが「せめて、セレスティア様が高笑いして嫌味を言うシーンだけでもあればよかったのに」
と本音を漏らしており、私は脱力。もはやみんな、悪役令嬢イベントが見たいだけで、私の破滅を望んでいるわけでもないのだろう。これが転生者だらけの学園らしい風景である。
リヒトとしては「そろそろ婚約破棄をきちんと言わなきゃ、破滅イベントがどんどん遠のく」と焦っている様子だが、実際にどこで宣言すればいいのかも分からない。公的な場で言い出すのはリスクが大きいし、私が本気で拒否すれば周囲の味方が増えて殿下の立場が悪くなるだけ。つまり彼は自分の首を絞めるだけになってしまう。破局イベントも思いのほか厄介なものなのだろう。
「まあ、私は破滅なんかしたくないし、これでいいんだけどね……」
心のなかで呟きつつ、私は教室へ向かい、普通に授業を受ける。誰一人私を責めることはなく、せいぜい「あら、夜会楽しかったですわね~」と
世間話をされる程度。悪役令嬢としての孤立は起こらず、夜会後に待ち受けるはずの“断罪シーン”も未発生。破局ルートがまたしても不発に終わった、というだけの日常に戻った。
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