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02話  王太子リヒト、学園ライフは俺の庭(にやり)……のはず!?


――リヒト・フォン・アルヴィエル視点――


「はぁ……なんというか、生まれ変わったなぁ、俺……」


俺の名はリヒト・フォン・アルヴィエル。十六歳。


……なんて、王太子の肩書を名乗ってはいるが、内心は「前世でヘビーゲームオタクやってました、よろしく!」という気持ちが抜けきれない。


「あー、暇だ……。いや、“王太子の務め”とか宮廷行事とか、やるべきことは山ほどあるんだけどさ。俺、早く学園生活を始めたいんだよね……ふふふ、あそこはリアル乙女ゲーみたいなものだから!」


俺は夕暮れの王宮のテラスで、薄く微笑みながらひとり呟く。


眼下には整然と並ぶ王宮の庭園、そしてその向こうに広がる美しい王都の風景。ぼうっと眺めていると、高級な外套の襟元が風に揺れた。


周りからは「気品ある立ち振る舞い」「国王の血筋に相応しい品格」なんて言われているけど...



仕事のストレスを発散するために毎晩オンラインゲームや乙女ゲーム、果ては超マイナーなギャルゲーまで遊びまくり、それでいて現実はそこそこ冴えない暮らしだったのを思い出す。


——転生した原因はベタすぎる交通事故。自転車通勤の帰り道、曲がり角で大型トラックに轢かれた……そこまでは記憶があるが、その後気づいたら、この華麗なる“王太子”ライフが始まっていた。


「ふっ、何とも言えない逆転劇だよなぁ。前世で“王族プレイ”に憧れていたから、これはこれで嬉しい……! はは、俺の努力が報われたとでも言うべきか……」


といっても、努力なんて実際は何もしていない。ただ、運が良かったというだけ。転生先がよりによって“乙女ゲーム風”の世界で、しかもイケメン王子ポジションとは。俺にとっては最高のステージだ。


おまけに、貴族の令嬢や平民ヒロインなど、美少女キャラが学園にはゴロゴロいる……。いやいや、これは夢が広がるじゃないか。


「学園……そう、春からクレリア魔法学園に入学だ。メインヒロイン候補も複数いるし、ついでに“悪役令嬢”枠もあるはず。ええっと、名前なんだっけ……セレスティア・ノイエンドルフ、だったよな」


そう、既に俺の婚約者扱いとなっているあの侯爵家の娘。


世間的には「次期王妃最有力」なんて言われているが……実は彼女こそ、乙女ゲームの王道的イベントにおいて“断罪される悪役令嬢”って役回りだったのを、前世の情報で知っている。


乙女ゲームというものは、たいていヒロインが王子と結ばれる最終ルートで悪役令嬢がこてんぱんにされる展開が“お約束”。俺は前世でプレイヤー側だったり、攻略サイトで散々そういうパターンを見たりしてきたから、仕組みはだいたい頭に入っているんだ。


「本来ならさ……学園に入って、王太子の俺はヒロインやその他の女の子を“攻略”し放題で。最後に悪役令嬢を派手に断罪して、おいしいエンディングになるはず。いやー、たまらん!」


俺は口元を歪めながら、ムフフと期待に胸を膨らませる。


なぜなら、乙女ゲームにおける“破局イベント”は超盛り上がる山場だから。俺は王太子という立場上、「好き放題にハーレム築いてハッピーに過ごす」ってわけにもいかないが、まぁ形だけでも“婚約破棄”を演出して、あわよくば学園で気になる子を落としにいけたら……なんて淡い野望を抱いている。


「ただ……最近、ちょっと妙なんだよな」


そう、俺は先日ちらっと会ったセレスティアの姿を思い出す。


まだ正式な顔合わせはこれからだというのに、

彼女は最初こそ“悪役令嬢”らしい高笑いを見せようとしていたけれど、

どうにも落ち着かない様子で、空回りしていたように見えた。


「しかし、ここ数回会った感じだと、セレスティアは……なんだか挙動がおかしいんだよな。ツンケンしてるようでいて、時々“どうしていいかわからない”って感じ。あれ、本当に悪役としての自覚あるのか……?」


表面は高慢ちきに見える時もあるが、それが“素”じゃない気がする。むしろ何かに焦っているような、無理してるような……。


もし本当に彼女が“心優しい子”だった場合、悪役令嬢らしい大事件が起こらないかも。——それは困る。誰が困るって俺が困るんだ。


「俺がこの学園という舞台で見たいのは、“波瀾万丈の学園ドラマ”なんだよ! 破滅寸前まで煽って、最後にドカンと断罪。それこそが見せ場、ゲームの醍醐味ってもんだろ……」


ニヤリ。

前世からのクセなのか、こうしてひとりでゲームの進行を脳内シミュレーションしてはテンションが上がってしまう。


「思うに……セレスティアがヒロインにいじめを仕掛けて、それを契機に皆の前で断罪——“お前など王太子妃に相応しくない!”って宣言するのが王道だよな……。そう、クライマックスでヒロインを庇う形で悪役令嬢をギャフンと言わせる。ははは、最高に燃えるじゃないか!」


自然と口から笑みが溢れそうになるが、そこで俺はふと気づいた。


「そういえば、ヒロイン……誰なんだろう? ゲームのヒロイン枠は平民出身の聖女だと相場が決まっている気がするが……まだ学園に入る前だから、顔を見ていないな」


まぁ入学式が始まればわかるだろう。そのヒロインが可愛い子だったら、なおさら俺のモチベーションは最高潮だ。転生オタクとして、こんなにおいしいシチュエーションは滅多にないからな。


「さてと……そろそろ執務室に戻るか。今夜は父上(国王)との引継ぎもあるし、学園に備えて最低限の公務スキルは押さえておかないと。そうしないと家臣たちがやたらとうるさいからなぁ」


俺は自分が王太子であることをここでようやく再認識して、小さく肩を竦める。


前世も会社で“課長代理”的なポジションだったとはいえ、それと王宮の公務じゃ責任の重さが段違い。だがまぁ、破滅するのは悪役令嬢のほうであって、俺じゃないし……と思うと、自然と気楽になれるから不思議だ。


「学園デビューが楽しみすぎる。絶対に攻略し放題だろ……ふっふっふ」


再びひとりニヤニヤしてしまい、そそくさとテラスを後にする。


このときの俺はまだ知らない。


学園には、俺以外にも“転生者”がゴロゴロいて、俺の立てるシナリオなど軽くブッ壊してくる連中だらけだなんて。


だが、今はただ胸を高鳴らせるばかり。

狙うは“悪役令嬢断罪イベント”と、ハーレムもとい華やかな学園ライフ。前世で妄想していたセリフを存分にリアルで味わえるチャンスが、すぐそこに待っているのだから……!



◇◇◇



数日後。


俺は王宮の書庫で、クレリア魔法学園にまつわる古い資料をめくりながら、現実的な段取りを確認していた。

学園の歴史は長く、王族が入学するたびに派手な歓迎行事が行われる。入学式の日には、大勢の貴族や市民が正門前で詰めかけたり、新聞に取り上げられたりするのが恒例だ。


「よしよし、完璧。入学式で華々しく登場して、そこでヒロインや悪役令嬢との因縁がスタートして……自然とドラマが動き出す。大勢のクラスメイトがいれば、恋愛フラグだって立ちまくりだろうし、うっしっし……」


俺は思わず表情を緩ませながら、資料を雑に閉じて立ち上がる。

——と、そこへ執事役の近衛がノックと同時に顔を出してきた。


「殿下、先ほどノイエンドルフ侯爵家から書状が届きまして。セレスティア様のお体調についてご報告とか」

「ん? セレスティアの体調? どうかしたのか?」


思わず怪訝な気持ちになる。もしかして、あの“悪役令嬢”が何か企んでいるのか……?と考えたりもする。


「いえ、特に重大なことではなさそうです。近頃、セレスティア様がやや情緒不安定らしく、親御様が『学園行事や婚約の手続きに滞りがあれば申し訳ない』と気遣いをなさっておられます。が、本人は熱などもなく、普通に過ごしているということです」


「ふうん……」


俺としては、彼女がどんな風に“悪役ムーブ”を仕掛けてくるか注目したいところ。学園入学後こそ本番だから、それまでは“偽りの平和”が続くだろう……と思っていたが、彼女が裏でどう思っているかは分からないしな。


「が……セレスティアがあまりにしおらしかったり、変に遠慮深い性格だったらどうしよう? 悪役感を出してくれないと俺が断罪できなくなる……それはそれで厄介か」


どうやら入学前からも、彼女は少し挙動不審という噂もあった。

ツンデレや高笑いは“設定通り”なんだけど、肝心の“ヒロインいじめ”が見られないまま学園生活が進むと、破局イベントが起こせない。そこが一番の問題だ。


「……まぁ、なんとかなるだろ。実際に学園が始まれば、いろんな令嬢やら騎士見習いの奴らが絡んでくるはず。人間関係がごちゃごちゃになれば、自然と衝突の種も増えるってもんだ」


それがドロドロになるか、ラブコメ的になるかは未知数だけど……どちらにせよ俺としては“ゲームのイベント感”を堪能したいわけだ。


うん、まだ見ぬヒロイン。誰だかわからないが、おそらく平民出身の聖女枠だろう。そっちとも絡みたいし……あと、ライバルっぽい貴族令息が出てきたりしたら、それもまた面白い。


「……ああ、早く学園始まらないかな。あー待ち遠しい」


前世で培った“オタク的わくわく感”が抑えきれず、思わずニタつく俺だった。


このときは、まさか周囲がみんな転生者で、それぞれ別のシナリオを画策しているなどとはつゆほども想像していない。


「さぁて……学園デビューまでもう少し。俺の華やかハーレム計画、順調に進みますように……!」


指を鳴らして呟いた瞬間、王宮の遠くのほうから、猫の鳴き声と誰かの叫ぶ声がかすかに聞こえた。どうやら動物が逃げ出したとかで、衛兵たちが走り回っているらしい。


こんなときこそ俺が王太子らしく振る舞い、点数稼ぎをすれば、国民の支持も得られる……が、そんなことはどうでもいい。今の俺は学園生活への妄想が最優先だ。


「うん、今夜の夢もきっと楽しくなるな……ふふふ」


俺はそう呟いて軽く伸びをし、宮殿の廊下をゆっくり歩き出した。頭の中に浮かぶのは、数々の“イベントCG”さながらの学園ドラマ。


俺が知ってる物語通りに行くなら、楽しさは保証されている。逆に、もしズレても……それはそれで味があるよな。


こうして、俺の“野望”と“期待”に満ちた学園編は、まだスタート前。


セレスティアはどんな悪役っぷりを見せてくれるのか? そしてヒロインはどんな子なのか? もう、想像が止まらない。


「破滅フラグ……? まぁそれはセレスティアの役目だし……俺は思いっきり楽しませてもらうだけさ。はっはっは!」


一人笑いを噛み殺しつつ、俺はいつも通りの王太子スマイルに顔を戻す。


次に会うとき、彼女はどういう態度で俺に接するのか。学園のみんなは、俺にどう反応するのか——。

すべては、もうすぐ始まる“春の入学式”にかかっているのだ。


(第2話・了)

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